モリトモ(C.I.P)勝手連(2)

 依頼者プレッシャー(Client Influence Problem)の存在を疑わせる情況証拠について、引き続き検討を加える。 今回の森友学園関連鑑定評価等事件で、大阪士協会に提出された報告書は依頼者プレッシャーについてどのように述べているか、引用照会する。

 本件はモリ、カケ、サクラ、キクと続く、いずれも安倍政権を揺るがす一連の大きな事件の発端と為る事件である。既に自死者も出している。《モリ:森友学園、カケ:加計学園、サクラ:桜を見る会、キク:検察官の秋霜烈日バッジは菊と旭日がデザイン》

 「調査報告書 第6 1.はじめに」はこう述べる。報告書の基本姿勢を構成する部分である。X、Y、Zそれぞれの鑑定評価書を読み、関連資料を読み込み、不動産鑑定士に応接或は文書照会することによって得られた、調査委員四氏の率直な調査終了感であろうと思われる。異例で有るが該当部分を全文引用する。

「調査報告書 第6 1はじめに 13行以降」
 当委員会の調査においては、依頼者プレッシャーの有無までは確認できず、また、 評価を担当した各不動産鑑定士において、依頼者の意向をどこまで汲み取り、忖度し たのかを把握することはできなかった。

 しかし、本件の各鑑定評価書等に共通するの は、何れも意図的とは断定できないが、依頼者側の意向に沿うかたちで鑑定評価書等 が作成され、結果として各成果品が依頼者に都合良く利用され、あるいは利用される 恐れがあったという現実である(X価格調査報告書において賃貸借期間を50年とし て正常賃料を査定したこと、Y鑑定評価書において意見価格を記載したこと、Z鑑定 評価書において独立鑑定評価をしたこと等)。

 それは、とりもなおさず、国有財産の 賃貸、処分の場面(X価格調査報告書、Y鑑定評価書)においては国民の利益に反し、 大阪府私立学校審議会への提出の場面(Z鑑定評価書)においては、私立学校の経営 に必要な財産の価格の把握を誤らせることになり、不動産鑑定評価制度に対する国 民・府民からの信頼を毀損する結果に繋がるものと言わざるを得ない。

 不動産鑑定士 が作成する鑑定評価書等は、眼前の依頼者や利用者を満足させるだけではなく、社会 からも合理的であるとの評価を受けるものでなければならない。

 当然のことながら、不動産鑑定士が意図的に依頼者に迎合し、不当な鑑定評価等を 行うことは論外である。しかし、本件では、不動産鑑定士に悪意がないとしても、悪 意ある依頼者又は不動産鑑定制度の趣旨や価格等調査業務を正確に理解せず、あるい は十分に理解しない依頼者が不動産鑑定士の作成した成果品の都合のよい部分のみを 利用しようとすることに対し、不動産鑑定士があまりにも無防備または慎重さを欠い ていることが明らかになった。

 今回の国有地売却を巡って表面化した不動産鑑定上の 問題に関しては、個々の不動産鑑定士の問題あるいは近畿財務局や森友学園という依 頼者側の特異性に起因すると捉えるのではなく、不動産鑑定士が社会から求められている専門性や責務について改めて問い直し、鑑定評価制度の土台となる社会的信頼を 維持・向上させる契機として活かしていくべきと考える。《以上、引用終了》

 調査報告書を要約すれば、こう述べているのである。
『調査においては、依頼者プレッシャーの有無までは確認できず、各不動産鑑定士において、依頼者の意向をどこまで汲み取り、忖度し たのかを把握することはできなかった。
”然し乍ら” 依頼者が不動産鑑定士の作成した成果品の都合のよい部分のみを 利用しようとすることに対し、不動産鑑定士があまりにも無防備または慎重さを欠い ていることが明らかになった。

 この調査書文言を盾にとって、既に「鄙からの発信」への水かけが始まっている。 消火沈静化を図りたいように見える人たちはこう云う。「騒ぎ過ぎやで、難波のことは浪速人に任せて美濃の年寄りは静かにしときなはれ。」

 A不動産鑑定士曰く。大阪の鑑定士は忖度などしてません。いい様に利用されただけです。『鑑定評価書などを納品した後にその価格がトリックに使われるかどうかなんて、不動産鑑定士は「捜査権」を持たされてないので追求、不正阻止は出来ません。 今回悪いことに使われたパターンを解明し、誰が!どうして!そのようなことをしたのか!徹底的に解明してほしいものです。』

 B不動産鑑定士は、容易に断れない関係を利用するから”依頼者プレッシャー”なのだと云う点が理解できていない。『いい加減な仕事がきっかけで、真面目な公務員を自殺にまで追いやってしまった。手先となった情けのない不動産鑑定士... 財務局や防衛局の依頼、どうして断れないのだろうか?』

 大阪士協会調査委員会は弁護士2名と鑑定士2名から構成されている。弁護士は結果責任を重視し、鑑定士は明らかにされ難く証拠を明示し難い”依頼者プレッシャー”と云うものに論点の重きを置いていると読める。

 ”依頼者プレシャー”という用語はいつまでも馴染めない、「依頼者強要」でよかろうに? 用語に格好付けて実態を見え難くする連合会の高等戦術だろうか? 元は「Client Influence Problem」という英語の和訳である。Client Influenceを直訳すれば、依頼者の影響、権勢、威光、誘導などが上げられる。

 改めて考えてみれば練達堪能な専門職業家であるはずの不動産鑑定士が「あまりにも無防備または慎重さを欠い ている」と評されることは、すなわち「ライセンスを返上されたら如何」とでも云われているのに等しいのである。調査報告書は一見すれば不動産鑑定士を庇っているように読めるが、その実、冷たく突き放しているのである。

 茫猿がその昔、修行時代に師匠に教えられ今も記憶に残るのは、「取引当事者は介在する取引事情を素直に語ってくれるものではない。売り急ぐような内情は言いたくないし、買い急いだような後悔も言いたがらない。語る言葉の背後に潜むものを探し出すのも事例収集の務めだよ。」 それともう一つ「幾くつか聞いて、幾くつかの現場を見て、モザイクパズルを組み立てるのも大事な仕事だよ。」

 事例資料だけではない。様々な資料を集め分析し推論して、価格という結論に到達する。到達した結論を依頼者だけでなく、評価書複写物を持参する関係者にも(第三者にも)整然と明快に簡潔に説明できることが、専門職業家たる由縁なのだと肝に命じて士(サムライ)生活を送ったつもりです。《肝に命じたことと、そう有り得たか否かはまた別のことです。》

 依頼者プレッシャーと言うものは、鑑定依頼常連客だからこそ起き易いし、引き込まれ易い。だから最初が肝心なので、「もうチョイ色を付けて下さいよ」などと電話があったら、即座に「ご事情は推察して、すでに目一杯考慮済みです」などと、体良く避けることが肝要です。一度、依頼者プレッシャー的要望(要求)を聴いたら、大概は次に繋がってしまいます。

《今回の件では、近畿財務局担当者の要請を謝絶したら、見積指名鑑定業者名簿に下線か※印が付けられると云う怖れを感じたのカモ。指名見積合わせ、指名入札競争に潜む凄み、つまり生殺与奪権は指名側にある。とは言いながらも、鑑定評価業務発注にとって公開見積合わせや一般競争入札が良いと云うわけではない。》

 もう一つは、「断った客ほど信頼度が高い」ものです。一度断られた担当者が上席になって戻って来る場合が間々あります。多くは、(上席とすれば)過去に断られた鑑定士は(憎いよりも)、それ故に骨が太いと信用できる様です。《近畿財務局には通用しないのカモ》

 不動産鑑定士協会連合会は依頼者プレッシャー通報制度を設けて、依頼者プレッシャーの根絶を図っている。この連合会対応についても語りたいが、如何せんもう疲れた。切れ味もずいぶんと鈍った。外野がああだこうだと騒ぐのも浪花の方にすれば、気分が良くないでしょうし、勝手連がこの案件に関わるのも、ここらで一旦(道頓堀)中座とする。
鑑定評価監視委員会規程
依頼者プレッシャー制度

 モリトモ勝手連が老骨に鞭打って六編もの長文記事を連載しているのは何故かと問われれば、依頼者プレッシャー問題を連合会が正面から向き合うことにより、鑑定評価の水準が向上し社会の信頼が増すと考えるからです。

 埋設物が隠されていたり、鑑定基準に則らない評価条件を無理強いされたり、危ない案件を見極めて避ける(逃げるのではない)のも、鑑定士の大事な能力と考えます。無理を言う依頼者を正面から謝絶するのは難しいことが多いでしょう。そんな場合に体良く避けるのも鑑定士の洞察力だと考えます。

 皆が避け易くなれば、避ける能力を身に付ければ、世間を惑わす危ない案件依頼も無くなります。連合会がそんな鑑定市場を築かれるよう、”モリトモCIP勝手連”は百年河清を俟つとは思いながらも期待するのです。

 例えば、危険を感じて依頼を謝絶したり避けたりした場合には、その様な危険案件情報を不動産鑑定士が共有出来るようなシステムを構築できれば好いと考えますが、連合会の依頼者プレッシャー調査結果を見るまでも無く、実現には困難が多いだろうなと思われます。視点を性善説におくか、性悪説におくか、常に付き纏う悩ましさです。

 さて、以下の二件の記事引用を読者のご判断材料として添付して、茫猿は歎異抄と大山蓮華、山梔子、沙羅双樹の待つ鄙里へ帰ります。

197-衆-国土交通委員会-6号(2018/12/5)-国会質問データ
(二通の鑑定評価額も含めて森友国有地売却問題を質疑する)
《上掲質疑の動画 https://youtu.be/c9ROOJokYHI

※当該質疑の中で宮本岳志議員は、鑑定評価書Y及びZについて、こうも述べている。
この土地(森友学園・豊中の土地)に関するプロの不動産鑑定士の鑑定評価書は、2016年6月20日の土地売却を前後して、二つございます。 一つは、売買時に近畿財務局が委託したY鑑定士が5月31日という日付で近畿財務局に提出した、正常価格9億56百万円というこの鑑定評価書。 もう一つは、前回私が明らかにした、8月10日付で森友学園に提出された、Z不動産鑑定士による2016年8月1日時点の更地の正常価格13億円というこの鑑定評価書。

 私は、この9億5千万円と13億円との違いをもって、どちらが正しいかという議論をするつもりはありません。私は、この二つの不動産鑑定評価書をプロの不動産鑑定士の方に見ていただいて、検討いたしました。その方の所見でも、鑑定は野球のストライクゾーンのようなものだ、高目低目の違いはあっても、この二つはどちらもストライクゾーンは外していないというものでございました。

森友問題「国有地8割値下げ&直後に資産価値10倍」のトリックに新事実!
 センセーショナルな惹句であるが、(Y鑑定評価額)9億3千万円から8億円控除した(Y意見価額)1億3千万円で売買契約成立直後に13億円の(Z)鑑定評価書が提供されれば、「資産価値10倍のトリック」もあながち誇張とはいえまい。

(DIAMOND online 記事は続く)不動産売買額を鑑定評価額から8割超も値引きするトリックにも、買い取り直後に不動産評価を購入額の10倍にするトリックにも、前提条件がある。依頼者にとって都合の良い鑑定評価書を作成してもらうパワーが必要であるということだ。(依頼者プレッシャー )

 パワーの源泉は「忖度」、そうでなければ「偶然」に頼るしかない。悪意を持って偶然を引き起こして利用することもできるのかもしれない。不動産鑑定士は難関国家資格を持つ専門家であり、鑑定評価は慎重かつ厳格であってしかるべきもの。都合の良い偶然を期待したり誘発するのは、本来難しいはずである。また、都合の良い鑑定評価書が発行されなければ、森友問題は起こり得なかったはずである。

《2020.06.03 追記》
意図的に検討外事項にしてきた「事業用定期借地契約」について追記する。検討外事項としてきた理由を述べてみれば、「理解し難い借地契約」であることに尽きる。

2015年1月16日 事業用定期借地権(期間10年)を設定する場合の
        賃料鑑定評価書発行
2015年4月27日 定期借地権(期間50年)を設定する場合の
        価格調査報告書発行

2015年5月29日 近畿財務局と森友学園のあいだに貸付合意書締結
 ※貸付期間 10年間
 ※年額貸付料 27,300千円
 ※特約1 貸付期間内に買受ける買受特約
 ※特約2 土壌汚染及び地下埋設物の撤去費用を有益費とする。

(注)有益費 有益費とは、民法上の費用の概念の一つで、目的物の価値の増加のために支出された費用をいう。民法608条(賃借人による費用の償還請求)
第608条 賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。

2015年6月〜12月 森友学園による土壌改良及び地下埋設物撤去工事を実施。
2016年3月11日 森友学園が杭工事の過程で新たな埋設物を発見したと財務局に連絡。
2016年3月14日 財務局航空局学園三者による現地調査実施。
2016年3月15日 学園が財務省に埋設物撤去等を要請。
2016年3月24日 学園が財務局に土地購入を要望。

2016年3月30日 財務局が埋設物撤去費見積を大阪航空局に依頼。
2016年4月6日 大阪航空局が有益費(1億3176万円)を学園に支払。
2016年4月14日 大阪航空局が地下埋設物処分概算額(8億1974万円)を財務局に報告。
2016年4月14日 航空局は併せて本件土地の処分等依頼書を提出。

2016年4月22日 近畿財務局がY鑑定事務所に鑑定依頼する。
2016年5月31日 財務局が鑑定評価書を受領
 ※埋設物等を考慮しない鑑定評価額9億5600万円
 ※財務局が提示した埋設物処理費用等を反映した意見価額1億3400万円

2016年6月20日 財務局と学園は国有財産売買契約締結
 ※売買代金1億3400万円
 ※即納金(2787万円)を除いた残額は10年の年賦払い契約
 ※買い戻し特約あり

 何とも慌ただしく目まぐるしい経緯である。この経緯について調査報告書は多くを語っていない。当該報告書はX、Y、Z 三件の鑑定評価について、その是非を調査するのが目的であり、賃貸或いは売却契約の是非を云々するものではない。土地売却に至る背景を語るに足りる証拠資料は得られなかったとも言えるであろう。

 ただ、筆者として言えることがある。10年間の貸付契約期間内に買受ける特約が存在したとはいえ、耐火堅固構造の学校施設建築物の所有を目的とする賃貸借契約の期間を10年とする不自然さが指摘できる。もう一点は森友学園の資金繰りである。敷地賃貸借を模索し、10年間の事業用借地契約を締結し、多額の埋設物除却費用を控除した売買契約を締結した後も契約金額は10年の年賦払い契約としたことが上げられる。

 この資金繰りがZ鑑定評価書の依頼条件に現れていると云えよう。それらを承知の上で(承知していなければ財務局の怠慢)、賃貸借そして延べ払い売却に応じた財務局の姿勢も改めて問われなければならない。

 有益費(1億3176万円)を04/06に学園に支払っておきながら、地下埋設物処分概算額(8億1974万円)を控除した売買代金1億3400万円で学園に06/20に売却した。しかも10年の年賦払いという条件である。理解出来ない売買契約である。

  

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