山が泣いている

 この秋、台風16号から18号に続く長雨で、岐阜県は大きな被害を受けまし
た。東海北陸自動車道の路盤が崩壊して上下線共に普通になり、復旧には二ヶ月以上かかる見込みです。岐阜と郡上を結ぶ国道も路盤崩壊しました。長良川鉄道も橋梁被害などで一部区間が普通になっています。何よりも多くの地域で土石流災害を受けて家屋や農地が流失する被害を受けました。そして、それらの被害はいずれも中山間地に集中しています。長良川や宮川の上流中流域が大きな被害を受けました。


 従来は水害というと平野部の河川堤防の決壊や、内水域の湛水排除が機能しないための水害などが多く、上中流域で大きな水害が発生することは稀でした。今回の中山間地での水害の原因は今後の調査にまたねばなりませんが、大きな原因の一つとしては、山が荒れていることに求められると思います。ゴルフ場や別荘地開発も原因の一つとして上げられると思います。しかし、もっと広範囲に山を荒らし泣かせているのは、意外に思われるでしょうが植林地です。
 杉・桧やカラマツの人工林は遠目には黒々と緑深く美しい山に見えます。しかし、一歩山の中に踏み入ると、そこは静寂の世界です。鳥の声も渓流のせせらぎの音もなく、風さえも感じることが少ないシジマの世界です。山が泣いている、いや死んでいると云った方がよいかもしれません。随所に立ち枯れた木立があり、風や雪で倒れた木もそのままに放置されている。70年代前後に植林はされたものの、その後の国産材価格の低迷と労賃の上昇、何よりも林業に従事する人が激減したことによって、植林後の管理が放置された山が多くなっているのです。
 以前に「茫猿遠吠・何故に鄙にこだわるのか・99/8/21」でも申し上げ
たように農家や林家の戸数はさほどには減っておりません。しかし、山間地に居住する人々が都市部の勤め人化することにより、山の管理を行う暇がなくなっているのです。時間がとれないだけでなく、管理技術も途絶えつつあると云えるでしょう。その結果、山が荒れているのです。
 山は植林を行って、建築用材その他を育てます。勿論、山には用材林地以外にも酸素の供給源や自然のダムとしての保水機能もありますし、景観維持の機能もあります。人工林は杉や桧の一斉林(単一種)ではなく、本来的には混交林(針葉樹と落葉樹の混植)が望ましいのですが、経済的な理由から単一種一斉林が多く行われています。それでも、植林後の管理が定期的に的確に施されていればよいのですが、先に述べた理由や間伐材の低迷から(間伐の費用すれ出ないというより間伐材が市場で取引対象とならない)、全く行われない山が増えているのです。
 人工林の一生は、当初植林時には1ヘクタール当たり3千5百本ほどの苗木を植え付けます。そして、年々に間伐し除伐して、伐採期を迎える60年後には6百本程度にします。この管理作業により木は大きく育ってゆくのです。この間伐除伐を行わないとどうなるかと云いますと、いわゆる密植状態になりまして、木はヒョロヒョロ状態になります。下枝を払いませんから風通しも悪くなります。
それだけではありません。地表に全く日が当たりませんからシダやコケの類の下草も生えません。だから風雨で地表の腐葉土が流失して地面は砂礫状になります。
樹木にはますます栄養が行き渡らず、栄養失調状態の痩せた木ばかりになりますし、雨も一時に流れてしまうので渓流の水も涸れ、小鳥もいなくなります。
 杉山も桧山も遠目には美しくても、根が浅く少しの風や雪で倒れ易くなります。地表部も根張りによる保水力も表土も無いことから、すぐに崩壊流失し易くなります。ですから、平年値を超える異常降雨量があれば、土石流が発生し風倒木と一緒になって小河川の橋梁を壊し堤防を壊し、大きな災害をもたらすのです。今回の中山間地における災害の原因は他にもあるかもしれません。しかし、山が荒れているというより死んでいるのは事実です。
 砂防ダムや堤防強化も大事です。同時に、いやそれ以上に緑のダムを強化することも中長期的には大事なことであり、日本の山林景観を維持してゆく上で必要不可欠なことです。
都会の多くの人々が山の現状に関心をもってもらいたいと思います。長銀に4兆円もの公的資金が投入されるのなら、日本の山の為にも毎年数千億円程度は投入して、山の緑を健全なものにしてゆきたいものと考えるのです。この公的資金の投入は数十年後には大きな利息を付けて国民に還元されるでしょうし、将来的に予想される世界の林業資源の枯渇にも対応できるものとなるでしょう。勿論、美しい鄙の再生にも大いに役立つことでしょう。

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