当件の概要

【朝日新聞続報記事について】
 昨日(10/20)朝日新聞名古屋版35面に「個人契約圧力でほごに」と
見出しを付した、今回の事件続報が掲載されました。契約変更(既契約
を変更したのか、契約直前変更なのかは未確認)に近い事実はあるよう
です。(この記事は「asahi.com」にはありません。)
しかし、評価員側当事者の証言からは圧力の存在は感じられません。
 同時に、重ねての「士協会契約要請」を行うことも、視点を変えれば
圧力と見なされる可能性もあるのでしょう。この朝日新聞記事に関して
は、「視点を変えれば」と申し上げておきます。
【当件の概要について】
 当件の概要と題して、自治省、岐阜県ならびに日本不動産鑑定協会発
の一連の文書七通を、Webサイトに公開する準備を整えました。
 当該文書七通は、岐阜県士協会を通じて会員に配布されたもので、守
秘義務を課せられたものではございません。公文書といえるものであり、
Web公開に基本的には問題がないと考えております。
 しかしながら一般公開を前提として作成並びに配布された文書ではな
く、一方的な公開は信義に反するものと考えますので、全文公開は行い
ません。関連文書名一覧のみを示しますから、読者各位にて関係機関へ
御照会下さい。
【1】 平成6年10月12日付け自治評第43号
    各道府県総務部長、東京都総務・主税局長 宛
    自治省税務局資産評価室長 発
「固定資産税評価における平成9年度評価替え以降の鑑定評価の実施体
制について」
【2】 自治省税務局資産評価室土地係長 発
    各都道府県地方課税政担当係長 宛
    平成6年12月8日付 事務連絡
「固定資産税の平成9年度評価替えに係る鑑定評価の実施体制について」
【3】 平成9年12月3日付け自治評第43号
    各道府県総務部長、東京都総務・主税局長 宛
    自治省税務局資産評価室長 発
「固定資産税評価における平成9年度評価替え以降の鑑定評価の実施体
制について」の廃止について
【4】 (社)日本不動産鑑定協会 発
    同協会 会員 宛
    平成9年12月10日付 鑑163号
「固定資産税評価における平成12年度評価替えの鑑定評価の実施体制
について」
【5】 (社)日本不動産鑑定協会 発
    同協会 会員 宛   
    平成10年2月9日付け
「日本不動産鑑定協会・第4回公的土地評価委員会議事録」
【6】 平成10年6月4日付け事務連絡
    各市町村税務課担当課長 各県事務所企画行政係長 宛
    市町村課税政係長 発
「平成12年度固定資産(土地)評価替えに係る鑑定評価の日程及び留意
点等について」
【7】 平成10年7月31日付け鑑85号
    部会長・都道府県不動産鑑定士協会長 宛
    (社)日本不動産鑑定協会 発
「固定資産税評価における鑑定評価の実施にあたっての独占禁止法の遵
守について(お願い)」
【当件について茫猿の考え、1:ことの発生について】
 茫猿は前記の文書1から7を「鄙からの発信」に掲載して、茫猿の報
告としては一応の区切りがつけようと考えておりました。
しかし、茫猿なりの総括もまとまった報告も行わずに、一連の「鄙から
の発信」記事を終了するのは無責任でありと考えるに至りました。
 手許資料の不備や記憶の不確かさもございますが、一応の総括を行っ
てみたいと考えます。
 もとより、我が岐阜県士協会は声明文にあるとおり、法に抵触する行
為は一切行っていないと、私は認識しております。
しかし、疑いを受けるような不明瞭な行為があったとすれば、士協会は
ひたすらに恭順し、反省の意を示さねばならないと考えます。
 同時に、岐阜県士協会は今はまだ公取委の調査を受けている状態にあ
り、公取委の結論は示されておりません。
「李下に冠、瓜田に履」と申します。専門職業家集団としては、疑いを
微塵も招かないように、当該業務運営を行うべきであったと深く反省す
ると同時に、今後の運営に心せねばならないと考えております。
 また、内部告発者を発生させたことは、岐阜会の運営に直接の原因が
あることは事実ですし、そのことを自覚しなければならないと考えます。
 今回の事件を公取委に告発した者、並びに朝日新聞に情報提供した者
は、我が岐阜会の会員もしくは会員周辺に存在するであろうと推量され
ますし、推量を裏付ける状況証拠や証言も幾つかございます。
 しかし、私は、告発者・情報提供者を責めるべきではないと考えます。
自身の判断で、法に抵触するとお考えになり、告発し情報提供された訳
であり、告発者・情報提供者には、御自身の正義がお有りのことと考え
るからです。さらに、御自身の正義に基づき告発することは、市民の義
務でもあるとも考えます。
 ただ、残念なのは、告発者が岐阜会会員等であるとして、告発の前に
内部で是正のための努力を払って頂けなかったことです。
 人事その他で不利益を受けかねない一般企業従業員の申立と異なり、
士協会会員は内部で何を申し立てても、いかなる不利益も被る恐れはあ
りません。 かほどに勇気ある行動をお示し頂けるならば、内部で是正
申立をする勇気などは、さほどのものとは思えないからです。
【当件についての考え、2:ことの本質について】
 ただいまよりは、起きたことは起きたこととして、これを契機にH15
年度固評業務をはじめ、士協会のあるべき姿を模索し、ご提案してま
いりたいと存じます。
 事件渦中の者が何を言うかとお怒りの向きもあろうかと存じます。
ではありますが、せめて私のWebサイトを通じて新しい展望が些かで
も開けたらと云う思いであることを、ご理解賜りますよう衷心よりお願
い申し上げます。
本件の固定資産税標準宅地評価スキームの本質的問題点は、以下にある
と考えます。一つは市町村と士協会が結ぶ取纏包括契約にあると考えま
す。同契約標準約款は鑑定協会が示したQ&Aにも示されるとおり、現
状では最善のものであり、その見解は現在も有効です。
<引用開始>
「参考Q&A」
Q2 平成6年度の評価替えでは市町村や鑑定士の協力を得て円滑に実施
できたと考えており、特に今回示された体制にする必要はないと思うが、
独自の体制で実施してもよいか。
A:平成9年度評価替えにおいて新体制を示しているのは、Q1にある課
題を解決するのが目的であり、体制を変更することによって円滑さが損
なわれるようなことがあってはならないと考えている。したがって新体
制を強制するものではないが、この方式は国土庁や(社)日本不動産鑑
定協会と協議し、公正取引委員会にも確認を行った上でまとめたもので
あり、地価公示、相続税評価との均衡という点や、市町村、都道府県か
ら提起されている課題について円滑に処理できる体制として最善の方法
であると考えている。
 市町村は士協会と鑑定評価に関する委託契約を締結し、士協会に対し
て、「市町村の指定する固定資産鑑定評価員に鑑定評価を行わせ、その
結果を報告させる業務及びこれに付随する業務」を委託するものであり、
 固定資産鑑定評価員会議等を開催し、固定資産鑑定評価員に鑑定報酬
を支払い、それに付随する業務を行い、市町村と固定資産鑑定評価員と
の連絡を行います。
 市町村が担当の固定資産鑑定評価員を決定し、本人の了解を得た上で、
固定資産鑑定評価員に委嘱する。なお、委嘱を行う際には、委嘱状とと
もに固定資産鑑定評価員として行う鑑定に当たって遵守すべき事項を示
した「実施要領」及び具体の鑑定ポイントを示す「鑑定価格一覧表」を
交付するものであります。
<引用終了>
 以上のスキームは、よく考えられたものであり、円滑に実施されてき
たものでもあります。
 自治省の説明によれば、通達を廃止することにより、市町村の鑑定委
託は契約自由の原則に復することとなるけれども、このことは平成9年
度評価替えの鑑定評価の実施体制を希望する市町村が部会又は士協会と
契約するのを妨げることを意味するものではなく、都道府県と相談の上
で、同体制を取ることは差し支えないとのことです。
(日本不動産鑑定協会配布文書より抜粋)
 しかし、固定資産税標準宅地評価は不動産鑑定評価として実施される
ものでありますことを考え合わせれば、次の指摘ができます。
 不動産鑑定評価に関する法律、第2条、第35条ないし第39条に照
らしてみれば、如何でしょうか。前掲のスキームに不動産鑑定業者は登
場しません。さらに地価公示法第2条から第5条に照らしてみれば如何
でしょうか。
 もうひとつは、市町村と士協会との前掲取纏包括契約の目的達成を意
図するための行為について、次のような指摘ができます。
・鑑定士等の不足・都市部への偏在等を解決しようとする行為。
・市町村内、市町村間のバランスの事前検討を十分に行おうとする行為。
・地域間における情報交換を十分に行おうとする行為。
・統一報酬額を要請する意図はなくとも、契約者の一方が士協会単一で
あることから、引き起こされるであろう問題。
(1)固定資産鑑定評価員の選定は市町村が行うものであるので、士協会
はいかなる段階でも固定資産鑑定評価員希望者の調整、推薦、斡旋等を
行なってはなりません。
(2)士協会の会員でない者を排除したり不利益となるような扱いをして
はなりません。
 独占禁止法の規程に抵触するかどうかは、形式的ではなく、実質的に
どうなっているかで判断されることにも、十分留意して平成12年評価
替えに伴う固定資産税標準宅地評価業務を実施しなければなりません。
 いやしくも「固定資産鑑定評価員」に関して、並びに「固定資産税標
準宅地評価鑑定報酬」に関して、士協会は独占禁止法に抵触するような
介入を行ったとは考えられません。
しかし、取纏包括契約の適正且つ円滑な遂行を目的として行った行為が
法に抵触するとの見解が示されれば改めるに如かずと考えます。
 いま、岐阜県士協会がやるべきことは、本質に則した基本的認識と理
解を共通のものとすることであると考えます。
 云うなれば、自ら学習しその成果をもとに啓蒙活動を展開して、本来
の理念に即した組織を再構築することだと考えます。
 風急に天高く猿嘯哀し  (杜甫 登高より)

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当件の概要 への2件のフィードバック

  1. 水野 雅夫 のコメント:

     こんにちは。
     私は新潟県の鑑定士の水野雅夫と申します。
     固定資産税評価に関する問題点(契約問題と独禁法、価格調整会議の必要性、適正な時価の意義、鑑定評価の法的根拠、過去の裁判例等)について興味を持ち、勉強しております。
     いろいろと調べていたところ、森島先生のブログにたどり着きました。
     固定資産税評価関連の頁を興味深く読ませていただき、その内容に感銘を受けました。多くのことを教えていただきまして感謝しております。
     その中で、日本不動産鑑定協会(当時)が会員宛に出した文書で、以下のものがあることを知りました。

    【4】 (社)日本不動産鑑定協会 発
        同協会 会員 宛
        平成9年12月10日付 鑑163号
    「固定資産税評価における平成12年度評価替えの鑑定評価の実施体制について」
    【5】 (社)日本不動産鑑定協会 発
        同協会 会員 宛   
        平成10年2月9日付け
    「日本不動産鑑定協会・第4回公的土地評価委員会議事録」
    【7】 平成10年7月31日付け鑑85号
        部会長・都道府県不動産鑑定士協会長 宛
        (社)日本不動産鑑定協会 発
    「固定資産税評価における鑑定評価の実施にあたっての独占禁止法の遵 守について(お願い)」

     これら文書について連合会の業務課に問い合わせた所、本日、「文書の保存期間を経過しているので文書はない。文書の提供はできない。」とのご回答をいただきました。誠に残念です。
     私としては、是非とも上記文書を参照したいと思っておりまして、僭越ながら先生宛にコメントさせていただいた次第です。
     昔の文書で恐縮ですが、もし可能であれば、文書のご提供をお願いできませんでしょうか。(もちろん、図々しいお願いであることは承知しておりますので、無理であればやむを得ません。)
     よろしくお願い申し上げます。

    • Nobuo Morishima のコメント:

      せっかくのお問い合わせですが、
      すでに業登録を廃止して七年を経過し、
      保存資料も一部を除き廃棄処分済みです。
      申し訳ありませんが、ご要望にお応えすることは
      叶いませんので、悪しからずご了承ください。

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