伝統的建造物にまつわる至福と困惑

【茫猿遠吠・・伝統的建造物にまつわる至福と困惑・・02.04.14】
 年度始めから至福の境地と、困惑と云いましょうか興味ワクワクの方が正
しいのかもしれませんが、その両方が味わえる難題に遭遇しています。
 事案の詳細を述べる前に、事案の所在する地域の概況をご説明しておきま
しょう。場所は、岐阜市内の中心部、繁華街柳ヶ瀬から北東方向に向かった
旧岐阜町の中心的街区です。 金華山山麓に鎮座する岐阜市の氏神様ともい
える伊奈波神社からこれらの地域を経て岐阜公園や長良川に至る区域は、戦
災の被害が少なく、戦前からの街並みを其処彼処に残している由緒ある地域
です。 ウダツや出格子、格子戸或いは犬矢来、中には土蔵造りや軒先を一
文字瓦で葺いた民家などが散在(場所によっては点在)している街並みです。
 困惑しているのは、案件がこの街並のなかに位置する伝統的な建造物に関
わるものであることです。案件の具体的内容に立ち入ることはできませんが、
類似種別類型調査の経験が無いわけではありません。
多分、鑑定士の平均程度の知識と経験は持っているつもりです。
 しかし、今回の事案は先にふれたように伝統的建造物に関するものです。
単に建物及びその敷地を評価対象とするとしても、経済的合理性の観点だ
けでは、とても結論に至ることはできないと思います。社会的合理性という
ものを如何に考慮してゆくかが問われていると考えています。
 ここで云うところの社会的合理性とは、次のようなことです。
伝統的建造物ですから、築後の経過年数は当然に七、八十年以上を経ていま
す。地価水準も低落したとはいえ市内ではそこそこに高い地域であり、画地
規模もマンション建築に十分な広さであることから経済的合理性だけの観点
であれば、低層老朽建物を解体撤去の上で、マンション建築が相当と考える
のが一般的でしょう。ちなみに都計用途は商業地域(40/8)です。
 しかし、観光都市を標榜する岐阜市において、これらの伝統的建造物は有
力な観光資源であり、現在においても街並みのグレードを高めるのに大いに
寄与していると認められるものです。ですから短絡した経済合理性だけの観
点から評価する訳にはゆかず、都市景観とか文化遺産という観点を含めた社
会的合理性の視座が求められていると考えますし、そういった視座に立つこ
とが本来の経済的合理性をも充足することになるのではなかろうかと考えて
いるのです。
 案件の周辺にも十階建て以上のマンションが増えつつあり、現在のゆかし
い環境も徐々に消える状況にあります。行政だけの問題ではなく地域の問題
として、主体的にこの伝統的環境を維持してゆく方策が求められているので
す。鑑定評価というものが、秤量比較して貨幣額をもって表示するという狭
義の『評価』に留まるのであれば、解体撤去という結論でもよいのかもしれ
ません。
 しかし、社会的・市民的視座に立って鑑定を行うとすれば、具体的にどの
ような要素要因をどのように考量したらよいのか、困惑しているのです。
また、そのような視座に立つ鑑定評価が有り得るのか、有り得ないのかと困
惑しています。どなたか佳いお知恵を授けて下さい。
※伊奈波神社について
http://www.minoden.com/jinja/j-inaba.html
 ところで、前置きが長くなりました。至福について語りましょう。
述べたような事案ですから、数日をかけて事案の近隣地域並びに周辺類似地
域を、調査を兼ねて散策しました。そこで、至福を味わったのです。
 地域限定の話題ではありますが、長良川の鵜飼見物や飛騨高山観光の折り
に岐阜にお立ち寄りのこともあろうと存じます。
そのような折りのためにもお目汚しを我慢してください。
 先ず、伊奈波神社の参道です。
石畳の参道両側には枝垂れ桜が多数植えられています。花の盛りは過ぎまし
たが、落花盛んだからこそ若葉が芽吹いており、桜の淡い紅色と若葉の浅緑
が見事な調和をなしています。ちょうど京都の舞妓がこの季節に、髪にさす、花かんざしのトンネルを歩いているような雰囲気です。
※花かんざし
http://www.kyoto-story.ne.jp/kougei/m/hana.html
 至福その2は、ユニークな食べ物屋さんです。
第一は「麩兵」さんです。生湯葉、乾湯葉、生麩、柚麩、蓬麩、手鞠麩など
が店頭販売されていますが、茫猿のお薦めは時雨麩です。生麩を佃煮風に煮
染めた食べ物でして、麩と云われなければ時雨蛤(ハマグリの佃煮)と間違え
るような代物であり、精進料理の箸休めとしては定番です。甘党用には麩菓
子もあります。
 生麩の次は漬け物です。「こまや左介」と云います。
漬物屋さんなのですが、古民家を改造したお座敷で漬け物懐石膳(昼のみ)を
食べさせて頂けるお店です。漬け物懐石なるものを一度お試しあれ。
麩兵さんと左介さんの近くには「あじろ亭」という、いわゆる洋食屋さんが
あります。ハヤシライスのお味が懐かしいお店です。あじろ亭さんは近代化
遺産に選定されていましたが、現在はシックな造りのお店に建て替えられて
います。
※麩兵さんとあじろ亭さん
http://village.infoweb.ne.jp/~moriy/Gifu03.htm
※こまや左介さん
http://www.usio.co.jp/magagine/pump0112/gifu/gifu06.html
 街並みを散策して、空いたお腹が左介さんやあじろ亭さんでふくれたら、
コーヒータイムです。伊奈波神社の参道を少し南に入った松屋町界隈に「珈
琲茶館・左岸(サガン)」があります。
 この茶館も古民家を改造して喫茶店に直したお店であり、重厚な門構えを
くぐると駐車場とお庭があり、庭の奥に喫茶店があります。小さな看板しか
掲げてありませんので見落とさないように歩いてください。コーヒー550円は岐阜では少し高いのですが、梁が見える天井の高いゆったりとくつろげる店内と「満天星躑躅・ドウダンツツジ」のお庭鑑賞を含めればさほど高いものではありません。
 ドウダンツツジも桜と同じように、例年より10日ほど早い満開でした。
ドウダンツツジは秋の紅葉もさぞかし見事だろうと思います。
・・・・・・いつもの蛇足です・・・・・・・・・
 この街界隈には、著名な料亭もたくさんありますので、お名前だけ挙げて
おきます。徳広、後楽荘、水琴亭、かに平井、蕎麦懐石吉照庵、布武、等々
です。これらのお店の中に、秋でもないのに松茸のいただけるお店がありま
す。どうやって貯蔵しているのか、未だに謎です。
・・・・・・・本稿終わり・・・・・・・

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