邦人イラクで人質

【茫猿遠吠・・邦人イラクで人質・・04.04.09】
 イラクで日本人三名が何者かに拘束され、「三日以内に自衛隊を撤退させろ、
さもなくば人質の生命は保証しない」と、脅迫してきた。
かねてから恐れられていた事態が勃発したわけであり、一番弱い脇腹を狙われ
た感じである。 安全な日本にいて、言揚げすることは控えるべきであり、
この件については、拘束されている若者三名の無事解放を祈るのみである。
 ところで、イラク問題に関しては、この頃になって、ようやくに色々なこと
が判ってきた感がある。
 イラクとシーア派については
 シーア派はイラク国内においては国民総数の約六割を占める多数派であり、
旧フセイン政権下では少数派のスンニ派主導政権によって弾圧されてきた歴史
をもっている。
 しかし、アラブ・イスラム圏全体では、シーア派の方が少数派であり、シー
ア派が多数派を形成するのはイラクと隣国イランのみであること。
 シーア派は殉教悲劇の歴史を持つ派であり、パーレビ国王を追いイランの宗
教革命を主導した派であること。アメリカというよりは国際石油資本にとって
は、シーア派は宿敵とも云える存在であること。
イランとの対抗上、あるいはイランに同調してイラクもシーア派支配に陥らな
いように、イラク・スンニ派(サダム・フセイン元大統領)を欧米が支援した
歴史が存在すること。
 イラクの問題は、イラクのみを見ていては何も判らないのであり、「イスラ
エルとパレスチナ」、「アラビア、ヨルダンなどの王制イスラム国家と政教一
致国家イラン」、「英仏伊などによる植民地支配とその後における石油利権支
配」などなど、複雑に絡み合った縦糸・横糸を考えないと何も判らない。
 何よりも、少数派を優遇して多数派を押さえ込むという植民地支配の鉄則が
もたらした悲劇の歴史が背景にあり、国境線すらも植民地分割により人為的に
引かれた地図上の線に過ぎないこと。
 そして、ユーラシア大陸の東端に遠く離れ、国境線は海上にあり平時は国境
を意識したことがなく、同じルーツを共有するとも云えるキリスト教、イスラ
ム教、ユダヤ教のような一神教にはなじみが薄い、そんな日本人が彼の国の歴
史的、宗教的背景を理解することなどは、とてもとても難しいことなのではな
かろうか。
 少数派を支援してパワーバランスを考える戦略という点では、中国戦国時代
の「遠交近攻策」という見本があるわけだが、今の中東も国際戦略のパワーバ
ランス的思考が背景にあり、エネルギー支配という鎧も衣の下に見え隠れする。
 決してイラン国民を圧政より解放するという美辞麗句に惑わされてはいけな
いのであり、国際的に公約されたパレスチナ自治国家の樹立もままならないな
かで、イラク解放が優先される背景は何なのであろうかと考える視点も必要で
あろう。
 「テロに屈しない」と叫ばれるが、テロに屈しないことは当然としても、
「テロを起こさせない。テロを引き起こす社会・経済・政治環境を消滅させる」
ことに力点が置かれなければならないと考える。
テロを僅かでも擁護する意図は全くないが、しかし、テロに走る人々の劣悪な
環境に目を向けることも忘れてはならないと思う。何よりも、いったん起きて
しまったテロは、時々の為政者や支配者によって政治的に利用される場合が多
いのだという視点も忘れてはならないと思う。

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