個人情報保護法

【茫猿遠吠・・個人情報保護法・・04.07.25】
 不動産が人間の生活と活動の基盤であることからすれば、不動産鑑定の在り方も不動産鑑定士の在り様も、現実の社会の在り様を無視しては成り立ち得ないことは自明である。
 その視点から、司法制度改革におけるADRに対して、不動産鑑定士が隣接法律専門職者と自負するのであれば、正面から取り組むことが必須であり、社会の要請に応えてゆくことになると考えます。
 ここにもう一つの視点が存在します。それは個人情報保護法に関わる問題です。個人情報保護自体は事新しい問題ではありません。プライバシー保護という問題はずいぶん前から社会の課題でした。
 しかし、そのことが一般的な課題となってきたのには、デジタル化電子化という社会構造の変化が背景にあります。そして、そのことは不動産鑑定士も無縁ではなくなっています。
 一つは、地価公示・地価調査・固定資産税標準宅地評価・相続税標準地評価・競売不動産評価、さらに云えば一般鑑定評価によって不動産鑑定士が知り得た個人情報を、不用意に流出させないことが強く求められる時代に入ってしまっているということです。
 不動産鑑定士に守秘義務が課せられているのは、法に照らすまでもなく自明のことですが、情報が紙で管理移動しているあいだは、その守秘・保護機能が話題になることは少なかったといえます。
 しかし、最近の個人情報漏洩問題はその殆どがデジタル化情報の漏洩であり、FD、CD、HD、DVD等の大量デジタル化情報が安易に素早く流出してしまう時代に我々が存在しているということに帰因します。ブロードバンド化は漏洩危険性をさらに加速していると云えます。
 情報管理が、紙ファイルで行われていたアナログ時代であれば、複写機による複製も時間とコストがかかり、何よりも複製作業に伴う発覚危険や複製物から流出元が探索されやすい危険性などが抑止力として働いていました。
 しかるに、今や大量情報が瞬時に複製される時代となり、複製物からその出所を探ることはとても困難になっています。だから、アクセスの禁止、限定、複製の禁止など、守秘義務が課せられた情報管理に多くのコストを費やさなければならない時代に入ったと云えます。
 前掲した地価公示等の様々な鑑定士の業務から派生する個人情報(個人的情報)は膨大なものがあります。それらは紙情報(鑑定評価書)だけでなく、その紙情報を作成する手段としてパソコンを利用する限りにおいて、膨大なテキストデータやイメージデータを生み出してしまいます。これらの情報をどのように管理してゆくかが問われる時代に鑑定士は居るのだと云うことを承知していなければなりません。
 デジタル化、コンピュータ化という便利さと引き換えに、百円ライターどころか切手大のメモリーカードに何万件何十万件の取引事例情報を載せることが可能な環境がもたらす恐ろしさを再認識する必要があります。
 取引情報とか賃貸情報の原始データは必ず個人情報が付随します。仮に付随していなくとも、後ほどに個人情報と照合することはそれほど難しいことではありません。この寒気(サムケ)がするような状況に対する、鑑定士の認識はとても甘いと云って差し支えないでしょう。
 ここで云う取引情報とは不動産の所有権移転情報に関することですが、法務局の電算化移行が進んだ結果、地価公示等に際して取引原始情報をどのような形で入手するかについて、関係各方面において水面下で検討が進んでいると聞き及んでいますし、検討は結論に近づいているとも聞きます。
 仮に地価公示等評価員がデジタル化した取引原始情報に接することが可能となった時に、どのような漏洩危険性が予測されるのか考えてみるのも無駄ではないでしょう。
 個々の地価公示評価員(不動産鑑定士)及び分科会が守秘や漏洩防止に努力するのは当然のことですが、それらデジタル化情報が社内LANや広域ネットワークを通じて社内の不動産鑑定以外の他部門や社外流出する危険性はないと言い切れるのでしょうか。別の観点からは個々の評価員止まりの情報を各段階の組織において、集中管理することによって引き起こされる危険にも注意する必要があります。
 取引情報が住宅販売部門や、家具販売部門へ流出することを荒唐無稽とはいえないでしょうし、通販会社、物販会社、カード会社、病院等において発生した漏洩事件が不動産鑑定士の周囲で発生しないと云う保証は何処にもありません。取引情報は不動産鑑定士のみに価値が認められるのではなく、マーケティングを業とする企業にも、金融業にも、多くの企業にとって有用な情報であろうと考えられます。
 誤解の無い様に申し添えますが、茫猿は鑑定士が漏洩事件を引き起こすとは云っていません。また現存する鑑定事務所や(法人、個人を含めて)その関連組織が漏洩するとも云っておりません。危険性を全て否定できないにしても、情報の価値と重要性を熟知する個人及び法人を最初から疑ってかかる必要はないでしょう。
 問題は外形基準を満たすか、否かということです。
即ち、漏洩が起こり得る組織形成や情報管理そのものが問われるだろうと考えます。不動産鑑定評価によって入手する個人情報を保護できるだけの、不動産鑑定に関わる組織形成を完成させることが、社会に対する責任の所在を明確にすることであり、そのことは同時に情報の取得も容易にさせると考えます。
 少しくどいのを承知で云えば、調査・コンサル部門と鑑定部門とが並立する状況で、取引個人情報保護を全うしていると云えましょうか。
特段の兼業禁止規定が無く、どのような業種との兼業も、或いはどのような企業においても鑑定評価部門設置が認められる鑑定評価の現況を個人情報保護を求める外部社会から観た時に、好ましいものであるのか否か、改めて問い直す必要があると思います。
・・・・・・いつもの蛇足です・・・・・・
 蛇足というよりは、いわでもながなのを承知で蛇足します。
弁護士さんや税理士さん司法書士さんが、身許調査や企業調査やマーケティングを兼業する事態を想像して下さい。あなたはそれを容認しますか。
俗な、あまりにも俗な例えですが、専門職業家の倫理とか守秘義務に関わる外形基準とは、そういったことなのだと茫猿は考えます。
・・・・・・蛇足その2・・・・・・
「個人情報保護法 第一条 目的」
 この法律は、高度情報通信社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく拡大していることにかんがみ、個人情報の適正な取扱いに関し、基本理念及び政府による基本方針の作成その他の個人情報の保護に関する施策の基本となる事項を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務等を定めることにより、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする。

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