都会と地方の意識落差-2

 士協会ネットワークシステム構築に関連して、こんな問い掛けが寄せられています。
(1)事例閲覧システムを作ることが、新スキームの拡大に寄与するか?
(2)個人情報保護法施行との関連でシステムを作らなければならないか?
(3)新スキーム拡大目的や個人情報保護法施行とは別問題として、鑑定士協会として事例閲覧システムを構築することが必要か?


『問掛(1)について』
 ここで話題になっているシステムとは、「取引事例閲覧システムの構築」と云うものであり、就中、地価公示等取引事例資料の閲覧をとのようです。
 問掛者氏は「そもそも何を目的としてシステムを構築するのか明確でない。目的を明確にせずに、システムの内容について議論しても無意味である。」と云う。さらに「そもそも新スキームは取引価格情報開示を目的として行われており、鑑定士の事例収集を目的としていない。」と指摘する。
『茫猿の考え』
 茫猿も、基本的には問掛者氏のご指摘の通りだと考えます。
しかしながら、念の為に申し添えれば、茫猿は事例閲覧に限定したシステムの構築を提唱したことは一度もありません。提唱しているのは士協会ネットワークの構築であり、そのネットワークが有するであろう機能の一つに「オンライン事例閲覧」があると考えています。茫猿が考える士協会ネットワークは士協会会員の情場を形成するツールであり、情報共有のツールであると考えます。両者はよく似ているようで、実は全く異なるものです。
 「士協会内部において同じ士協会会員に公示等取引事例を有償で閲覧させるシステム構築」と、「士協会会員の取引事例を含む広汎な情報共有システム構築」とは、発想もシステム構成も全く異なるものである。前者は東京・大阪・名古屋などの都市圏で以前から運用されており、まさに公示等取引事例カード閲覧に限定したシステムである。後者は主に地方圏で検討され運用されるものであり、士協会BB-WAN(ブロードバンド・ワイドエリア・ネットワーク)と称されるモノや、SMailシステムと称されるモノなどがある。
 岐阜会のWANを例にすれば、IP-VPNで構築される岐阜会WANは、(A)会員の情場を形成するツールとしてグループウエア「サイボウズ」が導入されている。そこでは、メッセージ回覧板、掲示板、士協会スケジュール管理、事務局並びに会員提供のファイル管理などが運用されている。
 地価公示や地価調査、固評標宅評価などに際して活躍するのはサーバに設置されている(B)会員共有フォルダーである。其処では分科会毎などに様々な種類の共有フォルダーが設置してあり、様々なデータ交換や配布に活用されている。共有フォルダーに関しては云うまでもないことであるが、士協会会員限定の閉鎖VPN内での運用であり、各フォルダーには公示評価員以外のアクセス制限も設定されてあることから、安全性は保証されている。
 さらにそれらを補完するモノとして、(C)取引事例や賃貸事例の閲覧システム、公示標準地等の地図情報システム等が稼働している。
『問掛(2)について』
 問掛者氏は「個人情報保護法との関連で云えば、都市圏士協会では既存のシステムは安全に稼動しており、新スキームで作成された事例も閲覧されている。【その状態が違法状態である】というならともかく、そうでないなら個人情報保護法を持ち出す議論はどこかおかしい。」と指摘する。
『茫猿の考え』
 茫猿は原則的には、問掛者氏のお説の通りと考えます。
ただし、この問題は鑑定協会ガイドライン等が示す安全管理措置を、具体的にどのように実現してゆくかということに大きく係わると考えます。
紙によるデータ管理、トレーサビリテイの問題、法人にライセンスを与えることの是非等々様々な安全管理措置について士協会は十全の措置を講じたか、コンプライアンスの充足向上に努めたかということが問われるのではないでしょうか。
 この点に関しては、一義的には各士協会執行部が如何様にお考えになるかということであろうと存じますし、各士協会の自主性、独立性に委ねられるモノと考えます。その意味において部外者がとやかく申し上げることでもなかろうと考えます。
 ここで注目されるのは、問掛者氏が指摘する処の「その状態が違法状態であるならともかく」という点です。我々専門職業家団体に問われている「コンプライアンス」というものは、「違法状態であるか否か」ということなのでしょうか。狭義的に云えばそうかもしれません。しかし、個保法の主旨、ガイドラインの主旨、専門職業家の矜持といいったものを考え併せれば、それでよいのでしょうか。扱うデータの出自・特性も含めて、茫猿にとって一番の疑念と懸念は其処にあります。
 蛇足を承知で付け加えれば、鑑定協会ガイドラインでも「安全管理措置を講じるよう努めなければならない。」と表示しているのである。このいわば努力目標とも云えるモノを、不動産鑑定士がどのように解するかが問われていると考えているのです。
『問掛(3)について』
 問掛者氏はこのように指摘する。
(A)当該閲覧システムは所属する都道府県以外の事例についても閲覧可能なシステムかと問題提起の上で、東京、大阪、名古屋では既に事例の閲覧システムを保有しており、これらの都府県士協会所属会員としては、他都道府県データの閲覧ができなければ、そもそもなんのためにシステムを作るのか分からないと、指摘する。
(B)当該システムは新スキーム施行地域の事例のみを扱うのか、それ以外の地域の事例も扱うのかと問いかけて、それによってシステムの内容は全く変わってくるから、はじめに明確にする必要があると云う。また、少なくとも新スキーム施行地域の事例については都道府県をまたがっての閲覧ができなければ、大都市圏の鑑定士にとってはシステム構築の意味がないと云う。
(C)仮に所属する士協会以外の事例が閲覧できないという前提でもなお、現在システムを有しない地方のためにシステムを作成するのが良いのかと問いかけるのである。しかし、協会員の数としては大都市圏に集中しており、過半多数の同意は得にくいような気がすると指摘する。
『茫猿の考え』
 まさしく、都市圏士協会会員にとっては、問掛者氏のお説の通りであろうと考えます。都市圏士協会会員においては事務所に居ながらにして全国の事例が閲覧できるシステム構築が目標であろうと承知します。
 いわば、都市圏と地方圏の意識落差の存在が明らかにされた訳でして、
この落差が乗り越えられなければ、全国的システム構築など語るまでもないことでしょう。
 先にも述べたことであるが、茫猿は単なる閲覧システム構築などを企図したことは一度もありません。士協会ネットワークの構築目的は情報共有の場の構築であり、ナレッジマネージメント形成であると常々考えて参りましたし、その趣旨を提唱して参りました。
それらのツールとして士協会ネットワーク構築であり、そのネットワーク上に如何なるシステムを稼働させるかは各士協会の自主・自存・独立によるものと今でも考えております。
 さらに新スキームの政令都市以上の展開について楽観が許されない昨今の状況を考えれば、現在仕様の新スキーム全国展開はともかくとしても、少なくとも登記異動情報の提供を求めてゆく為には、鑑定士側の受入条件整備が必須であろうと考えます。その条件の一つが安全なネットワーク構築であろうと考えるのですが如何なものでしょうか。
・・・・・・いつもの蛇足です・・・・・・
 全国取引事例の閲覧オンライン化に関して付け加えれば、現在は各士協会事務局に赴けば閲覧が可能なのであるから、これをオンライン化することにさほどの異論が有るわけではない。しかし、パートナーシップの在り様を現状のままに放置して、オンライン化を進めることが好ましいか否かは別次元の問題であると考える。いずれにしても、都市圏士協会から『オンライン開示』要求を突きつけられる問題ではなく、各士協会が自主的に判断する問題であると考える。

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