公益法人制度改革の本質

 全国各地で、公益法人制度改革に向けて士協会の進むべき方向の模索や検討が開始されているように聞きます。 茫猿の地元でも対策特別委員会が設置され、鋭意研究が進みつつあるようです。 しかし、この問題に関しては、会員の理解や意向に相当の温度差が存在するようです。
 この件に関して、鑑定協会企画委員会に所属しH19、H20の二年間に亘り、 様々な審議に加わって来た者として、問題のポイントをお伝えしたいと思います。 なお、以下にまとめるものは、すべて茫猿の個人的見解です。個人的見解ですが、公式にはあえて語ろうとされない事柄であり、本質であろうと考えています。


 特に公益法人認定が「社会的信用を増す。」という考え方は、本末転倒です。
実施する公益事業が社会に認められて、はじめて信用も信頼も得ることとなるのです。 名前一つで、信用が増すなどと考えるのは甘えが過ぎましょう。
 また、公益法人会計や移行手続き、定款認証などの細々したことは、 それぞれの専門家に委ねるべきと考えます。 現在の各士協会が行うことは、会員の総意が奈辺にあるかを集約し、 どのような方向であれ、今よりも佳い、好ましいと考えられる組織への移行を検討することであろうと考えますが、如何でしょうか。  
 その意味では、「士(サムライ)の志」無き組織は無意味と考えます。 また組織はその構成員の目標とする事業のために存在するものであり、組織のために構成員が存在するものではないことも忘れてはならないと考えます。 公益法人認定申請に際しては、専門資格者団体にふさわしい、明確かつ高邁な設立趣旨(ターゲット・テーマ)が求められるでしょう。
「公益法人制度改革のポイント」         
一、(社)日本不動産鑑定協会の方針骨子(企画委:二次答申)
 (鑑定協会会員専用サイトで閲覧可能:こちらから
 二次答申はH20/11/18付け理事会にて承認済み。(ここまでは決定済みということ)
(1)鑑定協会は、公益社団法人を目指すべきである。
 ※地価公示受託事業は関係方面へのヒアリングから公益目的事業に該当すると見込まれる。
(2)士協会も、公益社団法人化が望ましいと考える。
 ※地価調査、固定資産税評価等は、公益目的事業に該当するとの対応が可能と見込まれる。
二、各地の士協会の選択肢
1.現行のまま(既に特例民法法人に移行している)、H25.11.30を待つ。(A)
  ※期間満了後は自動的に解散。
2.H25.11.30までのあいだに解散し、内部留保金を(適宜?)分配する。(B)
  ※現行法人も公益法人ですから内部留保の部外配当はできませんが、会費の減免や相当の経費を要する研修事業の実施などは検討できるでしょう。
3.一般社団法人へ移行する。(C)
4.公益法人認定を受けて、公益社団法人に移行する。(D)
選択肢A及びBの選択は、普通考えられないから、選択肢は事実上CまたはDである。
三、それぞれの選択肢の意味
(選択肢C) 
 収益事業を含めて自由な活動が可能である。当然に公益事業も実施できる。
大胆に云えば「合名会社」類似組織と考えてもよかろう。 
 正当な税負担を行えば、活動の自由度は高いが、難点は設立準則主義にある。
準則主義であるから、◇◇県固評鑑定協会、◎◎都競売評価協会、☆☆府地価研究協会などの類似士協会の設立も予想できる。 当該管轄域内在住鑑定士が設立しなくとも、域外鑑定士が設立したり、その支部が設置されるリスクも視野に入れておくべきである。(それら法人の公益認定取得も十分あり得る。) 実現性の高いものとして、例えば現存協同組合の一般社団法人化も予想できるだろう。
(選択肢D)
 移行のためのハードルは高いが、以後に類似社団法人が認定される可能性は非常に低い。公益社団法人☆☆県鑑定士協会が設置されたあと、類似事業を公益目的事業として掲げる公益士協会の設立は常識的にみて認定が困難であろうと考えられる。 いわゆる四大公的評価を公益事業として位置づける意味もそこにあろう。
四、移行の時期
1.隣接都道府県の他士協会の移行状況をにらみつつ検討する。
 良策かつ安全策である。 しかし、独自性は発揮できない。 先進会に右へ倣えとなる。 特に公益目的事業の定款掲載、士業併存排除について独自性発揮は困難であろう。
2.速やかな認定申請を検討する。
 様々な困難やリスクの存在が予想されるが、各々の現士協会の身の丈に即応した、それぞれが望む方向を実現できる可能性がある。
五、公益目的事業
 少なからぬ現行士協会が地価調査と固評業務を受託している経緯を考慮すれば、公示、地調、相評、固評を公益目的事業として定款に掲載することは、検討に値するであろう。
 ただし、H22公示に於いて、評価員の委嘱指名は国交省専管事項であり、報酬支払いが(株)ソランに移管し、鑑定協会が受託した業務は「分科会運営」、「価格情報取り纏め」等に限定されたことに留意すべきである。 《この件は地元の代表幹事から詳細説明を得ればよろしかろう。》
 いわゆる公的評価を公益目的事業と認定されても、評価員委嘱は発注者の専管事項であること。 分科会運営や価格検討や価格均衡検討等の業務は内部行為(ある種の業益部分を含む)であり、直ちには公益目的事業とはならないことにも留意するべきであろう。
《公益目的事業とは、公益法人認定法第2条第4号・別表に掲げるものでかつ、不特定多数の者の利益の増進に寄与するものを云う。
 上記、『分科会運営や価格検討や価格均衡検討等の業務は内部行為(ある種の業益部分を含む)であり、 直ちには公益目的事業とはならないことにも留意するべきであろう。』については、注書きが必要であろう。
 適正な価格を求める為に行う事業行為は公益性が高いと云えましょうが、 公益目的に対しては、いかにも迂遠であり、認定委員会の理解が直ちに得られるか否か疑問とします。 その意味からは、直接市民に対する情報開示も、視野に入れておくべきであろうと考えます。法解説は、「不特定多数の利益増進について」、成果の公表という表現も用いています。
 いわゆる四大公的評価等(一般鑑定評価も当然包含される)を通じて得られた様々な情報を、不動産鑑定士であればこそと云える(社会に評価される)、 社会に有益・有用なかたちで還元してゆき、 「不特定多数の者の利益の増進に寄与する」、 そのことを設立目的とすべきであろうと考えます。
 さらに固評業務を公益事業と位置づける意味は、評価員委嘱等に社団法人が関与するものではない。というよりも、社団法人は市区町村の評価員委嘱という専管行為に決して関わってはならない。 士協会が関わるのは価格均衡検討等取り纏め事業であり、それら事業を通じて市区町村とのパイプを強固にし、市民の信頼を高め、同時に事業を通じて得られるであろう様々な不動産関連情報を士協会会員が共有し、次いで市民に有益な情報に加工して公表してゆくことにある。
 ハザードマップ然り、状況類似地区図然り、地価推移傾向分布図然りなのである。
それらは、NSDI-PTの事業目標とも基軸を同じくするのである。

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