寒天中空之月

 今夜は月齢9上限の月である。 寒天の中空に冴え々々と月が輝いている。星も綺麗な夜空を見上げていると、畏友桜井誠三氏を思い出した。 何も月を観て桜井氏を思い出したというのではない。 二日前に届いたEvaluation No.40に掲載されている彼の論考「地域の借地契約全体を,システムとして管理する新しい考え方《借地問題への新たなるアプローチ》」と寒天の月が結びついたのである。
 誤解を招くといけないから注釈すると、寒天の月は孤高に輝いている。 茫猿は、あまりにも冴え々々と輝く月と、彼の論考がリンクしたのである。 桜井氏は茫猿よりは二歳か三歳年長であるが、共に不動産鑑定評価を学んだ友である。


 当時(1970年前後)、鑑定二次試験を合格した桜井氏と茫猿、他に二人は共に三次を目指して名古屋で勉強を重ねていた。 そして東京での三ヶ月の実務演習に望んで、桜井、武田正雄、(故)岩崎、新見、法澤、小山、伊藤、三浦などというその後長い付き合いが始まる同学同遊の友を得た。 酒席に集まれば、岩崎、新見他はマ-ジャン、桜井と武田は果てしない論争を始めたものである。 かく言う茫猿は、桜井・武田論争に付いて行けず、岩崎・新見・法澤の雀卓には力及ばず、論争を聞くに疲れたら五番目か六番目の雀卓士となり、雀卓から弾かれたら論争の聞き役に戻るというテイタラクだったことを思い出す。
 桜井・武田論争は、桜井が矛で武田が盾だったと思い出す。あくまでも突き通す桜井の矛、あくまでもかわし通す武田の盾である。茫猿は矛と盾の狭間で彷徨っていた。 Evaluation No.40に掲載される彼の論考を読みながら、四十年も前のまだ若く青かった頃を思い出したのである。 そして齢七十近くなって、40頁になんなんとする独創的論文を、書くことができる彼の衰えぬ若さを思ったのである。 今一度、桜井大兄と武田大兄の果てを知らぬ、しかも裾野の広い争論を聞いてみたいと思うのである。
 さて、桜井氏の論考について評を記すことは控える。たぶん、賛否争鳴だろうと予想する。一瞥だに与えない者もいるかもしれない。 独創的かつ先駆的であるが故のエレジーとも言えるのかもしれない。 彼の論考詳細は、Evaluation No.40を購入してお読み頂きたいのであるが、その一端というか概要を知るうえで、彼が末尾に記す結びのうちから一部を引用しておく。

 以上の考察によって、不十分ながらも,借地契約全般に係る新たなるマネジメント思考と,それに対応する具体的な管理手法の原型を構築することができたように思われる。
 そしてこの場合の方法の特徴は,既に述べたとおり・地域の借地契約群全体を「借地権市場」として捉え,当該市場で生起している「家計所得とβ(家計における地代の支払可能割合)の関連」「企業の付加価値生産額とγ(企業における地代の支払可能割合)の関連」「以上に対応する住宅ローンと地代ならびに地価の関連」等々の社会的・経済的現象に着目し,その相互関連分析から,「適正地代の決定法」「以上の改定法」「借地権価格の査定法」「底地価格の査定法」等を,統合的なシステムでの対処を試みた点にある。

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