かんぽの宿と鑑定評価

 02/17付け朝刊各紙が、かんぽの宿と鑑定評価について報じている。全般に「過大評価の疑いあり」と記述する報道が多いのであるが、2006年当時に旧郵政公社が売却したかんぽの宿に関連する不動産鑑定評価が不当なものであったかどうかは、まだ解明されていない。 関連する不動産鑑定評価書も開示されていないから、茫猿が判断する材料は何もない。
 ただ、2010/08/02の衆院予算委質疑で公表された「当初内示額が大幅に減額修正された経緯」については、とても不明朗なものが疑われ、その後に国交省による調査が行われたと仄聞するのみである。 この調査結果については、その後何も公表されていない。 また、鑑定協会危機管理対応特別委員会も2010/08/03の声明公表以後は、何の発表も行っていないのである。


 先ずは報道された事柄を整理してみよう。

(2006年)旧かんぽの宿等売却
3物件を旧日本郵政公社他が東京の温泉施設経営会社に売却、その後、クロス社が買い取ったのである。 3物件とは「旧かんぽの宿層雲峡」(北海道上川町)売却価額 約1億6700万円、 「旧かんぽの宿米沢」(山形県米沢市)売却価額 約5600万円、 「健康保険保養施設 旧ホールサムインせとうち」(岡山県倉敷市)売却価額 約1億2000万円である。3物件売却価額合計は、約3億4300万円である。

(2010年)当該物件の転売後、現物出資
 大阪府のゲームソフト販売会社「NESTAGE(ネステージ)」が、東京のコンサルタント会社「クロスビズ」を引受先とする総額12億7500万円の第三者割当増資の実施を発表した。出資形態は現金が7500万円で、残る12億円は北海道などの保養施設3物件の現物出資だった。ネ社は当時、ジャスダック市場に上場していた。
 ネ社が現物出資として受け入れた際の評価額は次のとおりである。
「層雲峡」は、約5億1900万円。
「米沢」は、約4億5400万円。
「せとうち」は、約3億2700万円。  3物件合計13億円

 2006年の旧郵政公社等が売却価格を決定した背景に、不動産鑑定評価が存在したであろうと推定されるし、2010年2月の現物出資不動産の評価額決定にも不動産鑑定評価が存在したであろうと推定される。
 2006年評価(不動産鑑定評価)と2010年評価(不動産鑑定評価)とのあいだに直接の因果関係はないと考えられるが、2010年評価を行った不動産鑑定士は、その物件の所有権移転の経緯を知り得たであろうし(当然に知っていたはずである)、旧郵政公社の売却価額も承知していたと考えるのが妥当であろう。
 2006年評価が予算委で質疑されたように、著しい減額修正が行われたものであるとすれば、2010年評価を過大といういわれは無いのかもしれない。それでも2006年売却以降に営業が再開されず、採算性の観点から転売されたのだとすれば、その間の地価推移並びに建物設備等の経年劣化を考え合わせ、さらに鑑定評価の前提条件が違うかもしれないとしても、3.8倍への価格増をただちには容認し難いものが残るのである。
 さらに云えば、2009年4月7日の時点で、当時の鳩山邦夫総務相は閣議後記者会見で、日本郵政の保養・宿泊施設「かんぽの宿」等計21施設を対象に総務省が独自に実施した不動産鑑定評価額は148億円だったと発表したのである。これを基に、オリックス不動産に譲渡する予定だった79施設の評価額を推計すると250億円となり、昨年8月の日本郵政の鑑定額(133億円)の1.9倍に達するとしている。
 2010年評価の時点で、評価主体がこのニュースを記憶していなかったとすれば、やはり問題なしとするには疑念が残るのである。2006年当時の売却関連不動産鑑定評価も2010年当時の現物出資関連不動産鑑定評価も帰結するところ、「Client Influence Problem」にあると云えよう。 だから問題点の解明も急がれるべきであるが、何よりも「Client Influence Problem」の対応策(再発防止策)を急ぐべきと考えるのである。
 鑑定協会自らが、今為し得る最善策を講じ速やかに実施すべきであると考えるのである。「かんぽの宿」や「不動産証券化」に関連する疑念や疑惑の解明も重要であるし、なおざりにしておいてよいとは云わない。 しかしそれらにまして重要なのは「Client Influence Problem」が存在するのか否か、存在するのであればその適切な対応策、防止策はあり得るのかといった問題を真摯に前向きに検討する姿勢こそが、鑑定協会執行部に求められていると考えるのである。また云われ無き誹謗や中傷を避けるためにも重要であろうと考えるのである。 日本相撲協会に起きている事件を対岸の火事視してはならないのであり、我がこととして考えたいのである。
《追記》
 このような問題を抱えている鑑定協会に理事として名を連ねるに至ってしまったことを、後悔はしていない。 後悔はしていないが、暗然としているのは隠せない。
会長選以外はすべて無風無投票決着したという、欠員が生じた選挙区がその後どうなったかもまだ判らない。 しかし、無風無投票という事態こそが、今の鑑定協会の有り様を如実に示しているのだと思われる。そんな理事会に「このような茫猿」が何をもって臨めばよいうのかと考える時、やはり暗然とし呆然とする気持ちは避けられないのである。
《追記 2011.02.19》
 匿名のフォローコメントをいただきました。本件に関わる公開情報です。
不動産鑑定評価書が公開されているからと云って、現物も見ていないし土地勘もないことから、軽々な判断はなにもできない。地元在住有識者のコメントがいただきたいところである。 また、旧郵政公社が入手した不動産鑑定評価書の公開も待たれるところでもある。
※第三者割当による新株式(普通株式及びA種優先株式)の発行及び新株予約権の消却に関するお知らせ 【第三者委員会意見書】
※同じく、【不動産鑑定評価書:北海道上川郡上川町 その1】
※同じく、【不動産鑑定評価書:北海道上川郡上川町 その2】
※同じく、【不動産鑑定評価書:北海道上川郡上川町 その3】
※同じく、【不動産鑑定評価書:山形県米沢市 その1】
※同じく、【不動産鑑定評価書:山形県米沢市 その2】
※同じく、【不動産鑑定評価書:岡山県倉敷市 その1】
※同じく、【不動産鑑定評価書:岡山県倉敷市 その2】

関連の記事


カテゴリー: REA Review, 不動産鑑定, 茫猿の吠える日々 パーマリンク

かんぽの宿と鑑定評価 への2件のフィードバック

  1. 匿名 のコメント:

    NESTAGE社のHPに現物出資不動産の鑑定評価書が開示されています。
    トップページの2010.02.19のリンク先がそれです。

  2. 茫猿 のコメント:

    匿名さん、ありがとう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください