土地価格比準表[六次改訂]

先頃、さるSNS(social networking service)で小さな騒ぎがあった。騒ぎというのは大袈裟に過ぎるかも知れない。不動産鑑定評価 に関わる者であるならば、一度は手に取ったことがあるだろう書籍が絶版になったという話が流れたのである。数日後に絶版は勘違いであり、最近しばらくの間は在庫切れになっていたが、ようやくに増刷されて今月からは販売されているということである。 在庫切れのあいだに絶版という噂が流れたようである。

その書籍とは「第六次改訂:土地価格比準表」である。在庫切れのあいだに、Amazonでは中古品が¥44,136という値段《その後値下げ》を付けていたから、絶版という噂に信憑性をもたらしたのだと思われる。 なお、刊行元の住宅新報社サイトで確認してみたら、「ただ今、品切れ中」と表示されている。08080348_4c5daa8c9366a

茫猿は土地価格比準表の絶版?騒動をわざわざ記事にしようと云うのではないし、ましてやSNS記事をあげつらおうというのではない。この機会に土地価格比準表を改めて俎上に載せてみたいのである。

土地価格比準表は1973年に、国土利用計画法の施行を機に初版が刊行されたものである。その後数次の改訂を経て、1994年に第六次改訂版が発行されて現在に至っている。実に二十年間ものあいだ改訂されていないのである。品切れになったり、絶版の噂が流れてもやむを得ないことであろう。 かのAmazonでは、現在では下がっているものの、四万円を上回る値付けがされていたくらいである。 この二十年間に不動産鑑定評価 基準は2002年に全部改正、2007年と2009年に一部改正、そして今年五月に大幅改正が行われ、11月より施行されるのである。不動産鑑定評価基準が数次の改正を経ても、土地価格比準表は改訂の必要がないと云うのであろうか。

仮に基準の改正は土地価格比準には影響を及ぼさないとしても、二十年のあいだに不動産を取り巻く環境は大きく変化しているのであり、価格比準の要因項目も格差区分も《アイテムもカテゴリも》相当な変動をもたらしていると思われるのである。

同時に最近の地価公示鑑定評価支援システムでは各社ともに比準表を採用しているのであるから、年ごとに比準表の精度は向上しているであろうし、その内容も変化しているだろうと推察されるのである。それらの変化を取入れた改訂が為されて然るべきと考えるのであるが如何なものであろうか。 《システム科学研究所支援システム》 《TIS Inc.支援システム》

ただし、注意しておかなければならないことがある。 それは土地価格比準表なる冊子は、1974年に国土利用計画法が施行されたさいに、都道府県における価格審査担当者の便宜を図ることを主眼として発行されたものであり、不動産鑑定士等にも活用されることを期待されていたものである。 また都道府県価格審査担当者の計算を簡明にすることや評価の適正を担保することに意を注ぎ、土地評価を迅速かつ公正に行うことを目標としている。同時に広く不動産鑑定評価 に関心を有する人々の座右の書として利用されることも期待されている。《六次改訂土地価格比準表・取り扱いについて・第1一般的事項(趣旨)、並びに五次改訂・土地価格比準表の手引き:まえがき及び総論三・1土地価格比準表とその役割より引用する。》

最も重要と考えられ留意すべき事項は、比準表発行当時の業務環境である。当時、行政体の価格審査においても不動産鑑定評価 においても、価格比準の計算は算盤や電卓を用いるのが通例であり、パソコン利用などは考えられなかったことである。だから計算の便宜として乗除計算よりも加減計算を中心にしているのである。 さらにパソコン時代にはアルゴリズムとして考えられないことであるが、地域要因と個別的要因の多くが重複しているのである。地域要因で最寄り駅への接近条件を比較検討し、個別的要因でも最寄り駅への接近条件を比較検討するという重複する作業をいかなる計算工程で行おうというのか理解に苦しむのである。《このあたりのことは、「鄙からの発信」過去記事で詳細に述べているから、「比準表」で検索してみて下さい。この記事末尾に「この記事に似ているかも?しれない記事」一覧もあります。》

多くの不動産鑑定士はとっくの昔に「土地価格比準表」などは座右の書でもなければ、参考書でもなくなっていることであろう。それぞれの鑑定士がそれぞれのノウハウやスキルに基づいた独自の比準表を構築して、評価実務に採用していることであろう。しかし、地価公示などの共同作業で行われる公的土地評価では統一した比準表が採用されているだろうから、その比準表には各自の研究成果が反映されていなければならないのである。二十年前に改訂されたままの土地価格比準表に準拠した、地価公示等支援ソフトに依存していてはならないだろうと考えるのである。

地価公示にパソコンが導入されて久しいし、そのあいだにパソコンの機能も飛躍的に向上したし、鑑定士のPCスキルも当時とは雲泥の差であろう。地価公示等の鑑定評価書の公開は、まだ第一頁のみであるが、そう遠くない時期に全頁公開も現実のものとなるであろう。そのような時期が到来した時に、二十年前の土地価格比準表に準拠していますでは、世間の批判に耐え得るだろうかと懸念するのである。

国土利用計画法による土地価格審査が行われることは稀になって久しいが、公共事業用地取得の現場では今も土地価格比準表が利用されているし、その反映として不動産鑑定士側でも比準表は無視し得ない存在であろう。国交省地価調査課において改訂作業が等閑になっていても、不動産鑑定士協会等でデジタル化時代に即応する改訂について働きかけが行われても宜しかろうと考えるのである。

【閑話休題】ここからは茫猿の独り言である、独り言ではあるが関係者の目に留まるかもしれない。目に留まれば不愉快かもしれないが、他の士協会にも通じることだろうから、あえて記事にしておくのである。ご無礼は最初からお詫びしておきます。

2013・2014期の岐阜県士協会執行部は研修事業に熱心である。岡山県、三重県、長野県士協会との合同研修をはじめとして数々の研修講座を開催している。そのうえ、この夏には不動産鑑定評価 基準改正に伴う義務研修も予定されている。 会員の研修に熱心なのはとても良いことである。批判されることではない。しかしながら、若干の疑問が残るのである。

一つは、参加者が偏っていないかという疑問である。研修講座が多く開催されるのは良いことであるが参加者に偏りが認められ、ほとんど参加しない会員もいるとすれば、参加者を増やす方策も検討すべきではと考えるのである。

一つは、研修のフォローアップが為されているかという疑問である。研修の成果を業務拡充や業務基盤整備等の事業活動につなげているだろうかと懸念するのである。 研修という機会を設けたから、そのあとは会員個々の自主的な自助努力に期待するというのも考え方であろうが、組織として事業を企画運営してゆくことも考えたら如何かと思うのである。 研修疲れ、研修倒れに陥ってはならないのであり、新規事業に挑戦し会員のリスク負担を軽減することも考えたいのである。挑戦を止めた時から衰退が始まるとも考える。

 

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