不動産投資INDEX その4

【茫猿遠吠・・投資INDEX その4・・02.08.29】
 以上に述べたように、北海道会の投資インデックス事業は、特段の目新しい作
業を多く含むものではない。といっても、茫猿はこの事業を軽く見ているのでは
決してないから、誤解されないように願います。
 なぜなら、全国でどの士協会も行い得なかった事業を全国一番で実施された事
実は大変に重いモノがあるからである。他者の事業を批判するのは簡単である。
 しかし、他者に先駆けて実施することは、たいへんに困難なことである。
事業内容の理解を得ること、実施の必要性を共通認識とすること、予算措置、事
業実施主体の構成等々が大変であるし、何よりも新規事業実施のリーダーの確保
は言うは易く行うは難しである。
 それに較べて、二番手や批判者は楽なモノである。先行事業モデルをよくよく
検討し改良を加えればよいのであるから楽なモノであるし、北海道会が行ってい
ることを我々も行おうと言えば説得も比較的楽である。
 批判者はもっと楽である。ようするに岡目八目でアラ探しをすればよいのだか
ら。勿論、事業実施の意志の元で批判的に先行事業内容を吟味し、事業成果をよ
り良く大きくしようと云う姿勢とは峻別されなければならないが。
 さて、一部は既に述べたことの繰り返しになるが、北海道会の事業内容の内で
刮目すべきことは、次の点である。
1.調査対象候補地点の絞り込み
 賃貸事例(いわゆる間接法収益価格)について、調査作成候補地点を予め絞り込
んだ点にある。これは、後述の調査をアウトソーシングしたこととも関連するの
であるが、基礎データの信頼性、汎用性、標準性、規範性といった観点からして、
大いに評価されなければならないと考える。
2.アウトソーシングの実施
 別の項でもふれるが、一部の会員に過大な負担を求めるような事業実施方法で
は継続性が保てないし、会員の協力姿勢も持続しない。
また、餅は餅屋という俚諺があるように、なにもかも鑑定士が行おうとするのは
間違いの元であり非効率的と云えよう。
 その意味で、想定建物建築設計・建築費積算を専門家に委託したことは、評価
されなければならない。昨今話題になっている「NPO建物鑑定評価」なるもの
へのアンチテーゼとしても、十分に有効であるし、鑑定士の建物評価能力向上の
ためにも大きく寄与するモノと考える。
 アウトソーシングのもう一つである「賃貸契約内容等調査の外部委託」は特筆
モノである。東京など都市圏では、こういった情報を販売する市場もあるようだ
が、残念ながら地方圏では成立していないし今後も成立する見込みは乏しい。
それは、情報の量が絶対的に少ないことと情報需要者も少ないことから、市場が
成り立たないのである。都市圏では鑑定業界のみならず、賃貸不動産業界、不動
産投資業界等々広範な有料情報需要者が存在するし、賃貸情報量(特に企業ビル)
の絶対量も格段に多いからである。
 企業調査事業者へ「賃貸契約調査」を委託すると云うことは、調査事業者の既
存ネットワークを有償利用することに他ならず、しかも調査対象候補を限定して
の委託であるから、調査効率も高いであろうと推測される。
経費が嵩むという難点は認められるが、次年度以降の継続調査は幾分廉価になる
であろうし、何よりも情報の精度、収集の迅速性を考えれば外部委託の有効性は
高いと考える。
3.事業の継続
 北海道会の担当委員長も報告書巻頭言で述べられているように、この事業は継
続が命である。単年度実施や数年毎の実施では、その成果は限られたモノとなる。
毎年の地価変動と収益変動をリンクさせてこそ、正確なインデックスが作成でき
るのであり、調査休止年が介在すればその精度は落ちることとなる。
 また、継続することにより、継続地点の建築費積算や調査地点の調査内容の練
度は高くなり、必然的に事業費用も新規調査に較べて廉価になるであろうと予想
される。同時に、調査対象はインデックス公示地点も賃貸事例収集地点も各年毎
に拡大が可能であり、質的量的拡大が見込まれることでもある。
 さらに継続は、事業ノウハウの充実を産み出すと同時に、事業に採用するファ
イルソフトや試算モデルの改良充実を産み出すこととなる。
そういった意味で、知る範囲で北海道会モデルを検証すれば、基幹ソフトとして
表計算ソフトを採用採用されたことは必ずしも得策ではなかろうと考える。
 基幹にはデータベースソフトをおき、テキストデータの取込・取出により、表
計算ソフトとの間のデータの行き来を簡便化することにより、シミュレーション
が効果的かつ迅速に行えるのではなかろうか。ファイルソフトと表計算ソフトの
併用が望ましいと考えるモノである。
 この点に関しては、岐阜会が事業実施を検討する段階で、北海道会と協議を重
ねてテキストデータのフォーマットを統一し、士協会間でのデータ交換を容易に
しデファクトスタンダードを実現したいモノと考えるのである。
 さらに、継続性の担保として、事業内容が質的量的に高度になればなる程、事
業実行会員(作成会員)と事業成果利用会員との間隙が埋め難くなります。
この作成者と利用者の間隙を、何をもって埋めるのかが課題でありましょう。
単に、個人の意欲とか善意に頼って事業を実施する時代はとっくに終わっている
と云えましょう。
 これは、公益法人が業益法人化しているという批判ともつながるモノであり、
公益法人である士協会が如何にあるべきかという難題にも直面せざるを得ないモ
ノでしょう。
4.終わりに
 鑑定評価新基準講習が間もなく開始され、03.01.01より新基準は実施される。
新基準は収益還元法を重視すると同時に不動産鑑定士の説明責任をより明確にし
ている。
 このことを考えれば、収益還元法適用の実際に際してより精度が高く、より広
範な建築事例や賃貸事例が求められるのは自明のことであり、還元利回りや割引
利回りの判定に際して、信頼に足りる収益インデックスの出現が待たれているこ
とも自明であろうと考える。
 茫猿は、このサイトにおいて何度となく、取引データファイルや賃貸データファ
イルの充実が急務と述べてきました。今回の基準全面改訂期は、我々鑑定士や鑑
定士協会が、これら基礎データ充実に取り組む最後のチャンスではなかろうかと
さえ思います。この期を逃して、旧態然たる在り様にべんべんとすれば、鑑定評
価の将来などしれたモノとなるでしょう。
 同時に茫猿は、各種基礎データの充実こそが、鑑定評価の裾野を拡げてゆく王
道なのだと信じているのです。
・・・・・・いつもの蛇足です・・・・・・・・・
※「取引データファイル」とは、単なる取引価格情報ファイルではなく、『鄙か
らの発信』に何度も掲載している、取引悉皆調査ファイルのことです。
※その意味で、投資インデックス事業においても、少なくとも賃貸建物の悉皆調
査ファイルは、将来的には実現させたいものと願います。
 茫猿は、『鄙からの発信』に関連する記事を、既に多く掲載しています。
ご関心のある読者は、『鄙からの発信・鄙巷交歓』に用意してあります、「過去
記事全文検索」フォームより、次のような単語で検索してお読み下さい。
※INDEX、インデックス、収益事例、賃貸事例、悉皆調査、取引事例 等々
・・・・・・・以上、一連の記事はこれで終わり・・・・・・・

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