事象の連鎖-3

 事象の連鎖-2に続く記事である。前号では新スキーム問題に終始し、モニター制度創設問題には至らなかったので稿を改めて続ける。事象の連鎖という観点からはモニター制度創設は収益価格の精緻化とかさらなる的確化という連関の上にある。同時にここでも迅速化、守秘義務、アイテム・カテゴリーの統一、デジタル化といった前号記事に共通するツール的側面も有している。


 モニター制度創設はまだ曖昧なことが多い。公表されていないことが多いというか検討中なのである。茫猿自身も勉強不足で多くを語れない。本稿末尾に最近公表された国土審議会土地政策分科会不動産鑑定評価部会議事録を紹介しておく。モニタリングする事項やその手法など行間を読むことが肝要である。鑑定業界出身委員や主務官庁委員の発言よりも、関連官庁や関連団体出身委員の発言に注目しておくべきであろう。

「国土審議会・土地政策分科会・不動産鑑定評価部会・第23回(平成19年 3月27日) 議事録」に注目するのである。 それは村木委員が前日の小委員会における金融庁の氷見課長の発言を紹介するものである。
『行政のほうから考えると、役所というか行政側からする規制と、自主規制のいいところと悪いところも考えるべきだ、自主規制のほうは、専門性があり、かつ機動力があるけれども、ガバナンスの面で問題で工夫が必要だ』との指摘があったとのことである。
 この発言を面白いと読むか読まないかが、多分分かれ目だろうと思う。折角の示唆をどう受け止めどう理解するかだと思うのだが、その後の経緯からすれば、自主規制という外装のもとで行政側からの規制が実施されるというのが実態であろう。

 なお、ことの当否はさておいても、モニタリングと片仮名で呼称するとなぜだか「テレビ番組モニター」みたいに柔らかく聞こえるけれど、モニタリングとは「監視」である。鑑定協会五月理事会の議案承認を別の言い方で云えば、「国土交通省の実施する証券化対象不動産鑑定評価の監視に鑑定協会が参加することを承認」となる。鑑定協会が自ら行う情報開示と、国交省が行う評価監視に随伴するのとは、よく似ているけれど全く異なるものである。またしても自浄能力や情報開示能力や情報収集能力が疑われたのである。そして、「モニタリングに前向きに参加」と云えば聞こえがよかろうが、その実、鑑定協会は国交省にとって迷彩であり弾除けなのであろうと云えば穿ちすぎだろうか。

「モニタリングの必要性」(山本鑑定評価企画調整官)議事録10P
 国交省と鑑定協会が鑑定士さんあるいは鑑定業者の主体的な参画のもと、さらに証券化関係者、エンジニアリング・レポート作成者等の協力を得て、基準の内容が適切に実務に反映されているか、あるいは市場の阻害要因となっていないかということを検証して、この適切性を市場に示す必要がある。

「モニタリングの目的」(々上)
 証券化の鑑定評価について、基準の運用や実務の現状等を常に検証しなきゃいけないと。そこで得られた知見を関係者に提供していく中で、鑑定評価がより適切に行われる環境を整備するということを本旨に行われるべきである。

「モニタリングの当面のポイント」(々上)
 モニタリングの当面のポイントは、1つ目が、証券化対象不動産か否かの判断、あるいはDCFの適用、あるいはエンジニアリング・レポートの入手・活用の際に、鑑定士が依頼者に行う説明・要請・確認が的確に行われているかということで、鑑定士と依頼者の間のやりとりのところが的確に行われているか。

「モニタリングの当面のポイント-2」(々上)
 利回り、資本的支出、賃料というような数字を中心に、その具体的な判断基準やデータ等を活用して、鑑定士が主体的に判断をして、その根拠をきちっと記載しているか。

「モニタリングの当面のポイント-3」(々上)
 鑑定評価基準に新しく加わりました別表であるとか収益費用項目の統一というようなところが、適切に踏まえられた鑑定評価書になっているか。

「データベースの調査項目」大澤企画専門官)議事録20P
立地条件ですとか交通アクセス、地区年数など、不動産の価格にやはり影響があるだろうというとこらへんを基本的に聞きまして、それぞれ賃料、水道光熱費、管理業務の委託費、清掃衛生費、設備管理費、保安警備費など、不動産の管理にかかわる費用についてそれぞれお答えいただけるようなアンケート調査の項目を、今後検討を進めていきたい。

「国土審議会土地政策分科会不動産鑑定評価部会」
 第24回(平成19年 6月27日) 議事録
「投資不動産鑑定評価基準等検討小委員会」
 第7回(平成19年 6月20日) 議事録

『2007/05/15:鑑定協会理事会:第5号議案』
(5) 証券化対象不動産の鑑定評価に係るモニタリングについて
証券化対象不動産の鑑定評価の適切性及び透明性を市場に示し、不動産投資市場の信頼性の向上に資することを目的として、国土交通省の実施する証券化対象不動産の鑑定評価データを検証(平成19年改正鑑定評価基準に照らし)するモニタリングに前向きに参加することを承認した。

 何よりも、不動産鑑定-2007-04号・鑑定セミナーでパネリストの小林信夫氏が紹介したBELCA関係者の言葉を改めて思い出すのである。
 「なぜ法律や協会を持たないのか?」と尋ねたときに彼らからは「法律は最低基準を定めたものであり、協会や団体もそのレベルを維持するために設立されたものである。現在のように内外投資家の厳しい要求に応えるためには、法律や基準の制定によりレベルダウンすることは避けなければならないのではないか。」との回答があった。

『もうすぐ旧盆、蓮(ハス)の台(ウテナ)に鎮座するは誰ならむ?』

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