実写が語るもの

早くも上映スクリーンが少なくなっている「劔岳」を一昨日に、「セントアンナの奇跡」を今日の早朝上映で観てきました。 劔岳は小スクリーンながら入りはマアマアでしたが、セントアンナは閑散としていました。 どうも茫猿好みの映画はヒットしないようで残念です。


劔岳・点の記は、山案内人の香川照之も、陸軍測地部員の浅野忠信の演技も良かったと思いますが、何と言っても主役は劔岳です。200日も山に入って早春から晩秋までの劔をカメラに納めた、黒澤組カメラマン出身の木村大作監督のカメラワークは山の美しさを余すところなく見せてくれました。 時には、画面の俳優が邪魔になるくらいに春、夏、秋の劔の景観を堪能できました。 茫猿がデスクトップ写真にたまに使っている景色と同じアングルの劔岳が出てきたときには、しばらく画面が停止してほしかったくらいです。
山の冷気でさわやかな気分になって映画館の外に出ると、外気はまだ梅雨明け前の蒸し暑さでしたが、気分だけは劔縦走を果たした感じでした。
セントアンナの奇跡はスパイク・リー監督らしく重いテーマを扱っているから、米国でも日本でもあまり受けないのでしょう。 でもイタリア戦線での黒人部隊の戦闘シーンは、同じようにイタリア戦線に投入された日系人部隊の奮闘を思わせるリアルさですし、当時の黒人兵が何を考えて軍隊に入って戦ったのか、彼等の考えも一様ではなかったのだと知らされます。
題名のセントアンナとは、第二次大戦におけるナチス同盟国イタリアの、寒村セントアンナ集落の虐殺事件を背景にしているものです。 そこで生き残った少年と、初めて見る黒人兵を「チョコレートの巨人」と呼んでなつく交流が縦糸であり、ドイツ軍内部でのヒットラー親衛隊と独陸軍の相克、米軍内部での人種差別が横糸になっています。
一番大きなテーマは「ただ一人生き残ってしまったことへのしょく罪意識(デス・ギルト)」なのだと思います。 それが冒頭、40数年を経たニューヨーク市内の郵便局での殺人シーンにつながるのです。
この映画もイタリア北部の山岳景観や、寒村の風景などが美しく撮られていて、戦闘シーンや虐殺シーンやパルチザンの内部裏切りなどのササクレをいやしてくれます。 格好良く描かれた戦争シーンに憧れることは愚かなことですが、実にあっけなく人が死んでゆく様を描いているこの映画が語りかけるものを読みとるには、もう一度見てみたいと思わせるラストの謎解きでした。 二つの映画はスケールが大きい割りには実写主義であり、CGを使っていないから、画面に没入できる楽しさも味わえます。

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