想定内事項と想定外事項

前々号記事「新スキーム破綻推進委員会(Posted on 2012年11月30日) 」には、少なからぬ批判をいただいています。
※曰わく、「破綻推進」は言い過ぎだろう、訂正されたい。
※曰わく、地価公示法24条規制と行政裁量権の範疇(取引価格情報調査は行政行為)云々は、穿ちすぎた見解だ。
※曰わく、地価公示法24条に関わる事項は、従来から続く曖昧ゾーンと認識する。微妙なバランスの上にある「曖昧状態」について、ことさらに言及することに何のメリットがあるのだ。

これらの他にも、直接にご指摘を頂かなくても、様々なご批判があるのだろうと推察できます。
頂いたご批判にお答えは致しておりますが、直接には批判をお寄せ頂いていない方にも『鄙からの発信』から、筆者の本意をお伝えしておこうと考えます。

茫猿が記した、「破綻推進」というセンセーショナルな表題は、軽々しい表現ではなかろうかと躊躇したのは事実です。 と申しますより、最初に用意した表題はその前の記事「新スキーム改善委報告・Posted on 2012年11月29日」に続く、「改善委詳報」もしくは「茫猿も反省する」を入力していました。
しかし、そのような表題では真意が伝わらない、茫猿自身の哀しみにも似た思いを伝えるには「破綻推進」と題するのが相応しいと考えたのであり、今も表題を訂正する意志はありません。 テーマほどにセンセーショナルな内容だとも思っていませんし、微妙なグレー状態を破損したい訳ではなく、是正したいだけです。

茫猿が、前々号記事において、その1からその5に指摘する事項は、全てリスクの存在を示すものであり、リスクが浮上する予兆でもあろうと考えています。
その1、地価公示法に抵触する畏れ
その2、日鑑連が自ら定めた指針の形骸化
その3、REA-NETに地価公示事例を搭載することの是非
その4、所管庁の姿勢
その5、法的な制約と行政裁量権
だから、それら筆者が予見するリスクに、如何様に対処したら善いのだろうかという視点から記事をしたためたつもりです。(表現に多少の皮肉と嫌みが込められているのは否定しませんが。)

茫猿は、日鑑連の運営は、学術研究ではなく政治であると考えます。
学術研究であれば、結果と同様に経過も重要ですが、政治である以上、結果が全てであり、評価の対象です。 真面目に努力したというような経過は評価されません。 そして、最も重要なのは、危機管理を如何に行ったかであると考えます。
その観点から、新スキーム問題を、2004年の制度創設以来、常に考えてきました。
3.11以後に考えるのは、想定外とした(認識していた)事項というものは、あってはならないということです。

茫猿が予測するリスクとは、要約すれば以下の(A)と(B)です。
(A)早ければ年内に、遅くとも次年度初めに、不動産業課や不動産市場整備課から、四次データ管理に関して最後通牒を突き付けられるリスク。
(注)地価調査課は過去の経緯からして、いまさら異論は言えないでしょうが、不動産業課や不動産市場整備課は、(黙認してきた)過去の経緯と無関係であること。

(B)並行して、取引価格情報提供制度から排除されるリスクがあること。
(注)取引価格調査照会に際して、日鑑連添え状の同封を否認される畏れも、視野に入れておきたいこと。

今のまま、公示法24条に抵触しかねない改善案を弄んでいれば、早晩、このリスクは浮上すると考えています。 それは「公示のあり方検討会」の答申結果にも反映するでしょう。
このように申しますと、返ってくる答えは概ね決まっています。

※曰わく、事例を使わせないと鑑定評価制度が潰れる。そんなことはあり得ない。
《事例といわれるが、既に四次と三次の混同があることに気づいていない。》
※曰わく、公的土地評価が無くなれば、困るのは鑑定士でなく行政側だ。
《無くなるなどとは一言も申していない。大幅に縮減されたり、態様が大きく変化するであろうと云っているだけである。 第一、困るのは行政側だというのも思い上がりでしょう。》
※曰わく、半世紀も安定して継続してきた事実を壊そうというのか。
《環境が大きく変化していることに、気づいて欲しいだけである。》
※曰わく、不動産鑑定評価制度を否定するのか。
《否定などとんでもない。 不動産鑑定評価を愛することでは、人後に落ちない自信がある。》

四次データや四次データ附随イメージデータをどのように管理するかというのは、鑑定業界の内部自治の問題であり、自律の問題であろうと考えますし、公示法24条を専門職業家団体として(準・法律専門職業家団体として)どのように解釈するのかということであろうと考えます。
茫猿が云う砂糖細工の城、批判者が申される曖昧な状態を承知の上で、専門職業家団体が触法状態を続けてよいと云うことではないと考えます。 それこそがコンプライアンスの根幹ではないでしょうか。

それは、公示法24条だけではありません。日鑑連・地価調査委員会は2011.08.23付けの地価公示運用指針第8章1の3にて、「分科会を超えた事例交換は、稀少事例の交換を除き禁止する。」と定めていることとの矛盾を、所管庁や社会に対して、どう釈明するかということでもあります。
既にこのリスクの萌芽は、相評や固評における今後の事例利活用について、示されていると仄聞する所管庁の消極的姿勢に現れていると考えています。

批判者が主張される半世紀にわたって続いている経緯というものも、新スキーム以前と以後では、状況が大きく変わっていると考えます。 自らが事例収集していた、新スキーム以前には三次データは存在しませんでしたが、2008年以降は三次データ(取引価格情報調査における調査結果としてのデータ)が存在します。

所管庁が考える望ましい事例利活用が皮相的解釈であるか否かはともかくとして、四次データは公示納品成果物であり、一般鑑定には利用しない。 一般鑑定には三次データを利活用して下さいということだと考えます。 そのことが行政裁量権の範疇という意味であり、地価公示スキームのなかでの調査の意味だと考えます。

茫猿は、四次データを一般鑑定に利用出来なくなる時に備えて、三次データとREA-MAPのリンケージをすべきと考えています。 情報安全活用委員会:REA-MAP事業のなかで為すべきことと考えています。 三次データは行政行為の所産であり、鑑定士が調査に大きく関与(寄与)するものであり、その利活用も行政裁量権の範疇にあると考えるからです。 何よりも不動産情報と地理情報のリンケージは時代の趨勢であると考えますし、社会的にも有益な事業に変貌し得ると考えています。 また、三次データと地理情報のリンクは、リスクヘッジとしての実証実験の提案であり、直ちに全面実施を考えるものでもありません。

その意味では、2006年に茫猿がREA-NETを構築を提案したのもリスクヘッジでした。 今や、REA-NETは緊急避難路になっているのではないでしょうか。 2008年にREA-MAP構築を提案したのも、やはり広い意味でリスクヘッジであると考えていますし、その延長線上で三次データとREA-MAPのリンケージを提案しているのです。

端的に申しますと、日鑑連は四次データ利活用には関与しない、言及しないというのがベストであると考えます。 日鑑連が関与するのは、三次データ利活用に限定すべきであろうと常に考えています。 都市圏域士協会であれ地方圏域士協会であれ、その後に四次データを如何に取り扱おうと、それは茫猿の知るところではありませんし、もちろん日鑑連の知るところでもないと考えます。 当然のことながら、コンプライアンス維持向上には、最善の努力を払っていただきたいとは、考えています。 《この事項は、2012.10.15付けにて、日鑑連宛に上申書を提出済み。》

今、日鑑連で起きている問題は、「三次データの開示閲覧などは、問題外」という強硬論の存在であり、「四次データの開示を求める都市圏域士協会と、限定開示を求める地方圏域士協会」の争いであろうと考えます。 いずれも業界内部の争いなのであり、そこに大義もコンプライアンスも存在しないと考えています。 二年余の時間を空費し既に遅すぎるとは云うものの、適切な対策を講じることが、所管庁の信頼を回復する唯一の手段であることに、気づいてほしいのである。

繰り返しになりますが、茫猿は市民目線で、準法律専門職業家として、リスクマネージメントを考えているだけであり、公示法24条も地価公示運用指針も、「地価公示あり方検討会」の検討事項や、そして不動産業課の姿勢や「不動産情報整備研究会・中間報告」も、リスクの存在を示唆する想定内事項として意識しているだけのことです。 直接的には連関しないが、あり方検討会配付資料として公開されている、この報告書にも留意しておきたい。 《参考資料 取引価格情報検討委員会報告書(抜粋)》

もう一度繰り返しますが、30mの津波を想定して40mの津波防潮堤を構築しようと提案しているのではありません。 それは、景観破壊とか費用対効果の観点一つとっても無意味なことです。 私が申しているのは30mの津波を想定する避難路の確保と避難マニュアルの準備を提案しているだけのことです。

茫猿は哀しみのただ中にいます。茫猿の提唱をご理解頂ける方が皆無というわけではないのですが、とても少数です。 しかも声を上げようとはなさいません。 業界の大勢に抗う無意味さや愚かさを承知されているのかどうかも判りません。 理解はしても現実はそうはゆかないとお考えなのかもしれません。 聞こえてくるのは狭い業益に囚われた大きな声ばかりです。 折しも、明日2012.12.04は理事会開催日です。 第二次新スキーム改善案及び附随事項の審議結果が、如何様に落着するのかとても興味深いものがあります。

※REA-NET構築に着手。
第二WG・経過報告・Posted on 2006年6月1日

※REA-MAP構築に着手。
NSDI・PT設置提案書・Posted on 2008年6月21日

第二次改善・修正案への疑問・Posted on 2012年10月15日
※第二次改善に関わる上申書  20121010johshin

今朝は指先がかじかむ寒さだが快晴である。地には霜が満ちている。

家の前から眺める伊吹山の雪化粧も朝陽に映えて美しく、心を和ませてくれる。

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