死に児の齢

 前号記事の追記で、『死に児の齢を数えてる』と記した。 現実にも夭折した娘をもっている茫猿ではあるけれど、この死に児は比喩である。 具体的にはREA~NET構築に関して久し振りに思い返して、”タラ、レバ”と思ったことである。2008年以前に役務と費用とリスクを負担して、鑑定協会内部のシステムとしてREA-KoujiやREA-jireiを構築できていればと、今にして死に児の齢を数えているということである。

NSDIの基本というか基盤を構成する地理空間情報活用推進基本法が何故に議員立法で成立したのかと云えば、情報こそが利権と云う認識が霞ヶ関や永田町に拡がっていたからこそ、霞ヶ関諸官庁の鍔迫り合いを凌いで議員立法となったのであろうと、当時、内心では考えていた。霞ヶ関の住人氏と具体的にこの問題で話したこともある。

 当時の茫猿は、不動産鑑定協会が運営するREA-NETのなかに公示・調査システム、事例システム、地理情報システムを渾然一体として構築すれば、公示・調査の主導権を不動産鑑定協会が事実上握ることができようと考えていた。隠然としたネット主体の構築ができればと考えていた。

 そしてそれは、登記情報データの提供に始まる取引事例収集システム(国交省主導)を、不動産鑑定協会の事実上の支配下に置くことが出来るとも考えていた。当然のことながら、構築・運営にかかる経費は協会負担である。当面の経費負担は会員の事例閲覧料収入で十分賄えると計算していたし、将来的には一般開示による収入増だけでなく、不動産取引に関わるMas Dataを握ることの効果は計り知れないとも考えていた。(現実問題として、登記情報を握ることは全数データを握ることでもあった。)

 然し乍ら、この目論見は霞ヶ関においても同じことであったとみえて、2010年前後に鳶に油揚を攫われ、いずれも公示付随システムとして構築され、役務負担だけが協会に残された。公的情報である登記データや公示事例を鑑定評価にも使わせてやるから、事例収集の現地調査等役務を負担しなさいと云うことである。

 当然のことながら、原始データ或いは生データに鑑定協会がアクセスすることはできなくなり、霞ヶ関によるデータ閉鎖が始まったのである。なぜデータ閉鎖が始まったなどと言うかというと、主管庁が取引情報に関わるハブ機能の創設を意図するようになったからである。《お情け的な部分開示は当時もあったし、現在も行われていると仄聞する。》

 情報ストックの一元的整備の方策については、新たに全ての情報を一元的に集約する仕組みにこだわらず、既存のデータソースとの連携に よる中核機能(ハブ)として、情報保有について権限と責任を有する各情報 保有機関との連携により情報整備を行うことも選択肢に入れた検討が考え られる。 《「不動産流通市場における情報整備のあり方研究会」2012/09「中間とりまとめ」より引用》

この頃(2008年6月)茫猿は、REA-CENSUSの構築を提案していた。REA-NETを活用したREA-NETのバイパス並びにバックアップシステムとして『REA-CENSUS』を推進したいと提案していたのである。以下断片ながら、当時の状況を垣間見てみる。

『K.T氏よりのメール』(2007/10/18 )(中略)
 地価公示オンライン化の”表”の心は地価情報を迅速、的確、簡潔、に国交省を経由して国民に報告することにあると考えます。ややもすると国交省マターの業務と心得違いをして、国交省の後ろに国民がいることを忘れているのではないかと思われる評価員の声を聞くときがありますが、誠に残念なことです。

”裏”の心は情報管理の十全化と業務の合理化にあると考えます。オンライン化は暗礁に乗り上げたのではなく、一瞬足踏みをしている場面と心得ています。岐阜からの発信の波動が全国に伝わり、創意工夫と情熱によって、新しいメニューを搭載したオンライン化が実現することを切に期待いたします。            

 ネットワークについて、当時、茫猿が何を考えていたかについては、「鄙からの発信」は NSDI:地理空間情報 (89)やREA-NET構築 (170)と云う記事カテゴリーを設けているので、それらのカテゴリーから適当な記事を閲覧して頂けると宜しい。しかし、あまりにも記事数が多いので、本記事と照応する記事を二件リンクしておく。

ReaNet & NeoRea 投稿日: 2007年9月23日
戦略&戦術 投稿日: 2007年10月5日

不動産センサスの創設-1   2011年7月10日
不動産センサスの創設-2  2011年7月10日

《追記》梅雨明け十日の暑熱も今日は少しは過ごし易かった。気温が35度前後であることに変わりはないが、梅雨明け当時は80%強もあった湿度が60%台へと随分と下がり、風も吹くようになり暑さ慣れも手伝って過ごし易さは大きく改善した。ミョウガの畑を探したら花ミョウガが芽を出していた。早速に素麺の薬味にする。

 せっかく下がった湿度だが、台風8号の接近で今夜は蒸し暑い。 でも雨は降りそうにない。

《追記 08/06》折しも不動産鑑定士・平澤春樹氏が発行するメールマガジン「APPRAISAL OPINION」に、本記事に符合するかの様な興味深い記事が発信された。(以下抜粋引用)

 大量に集められた取引データはまさしくビッグデータですが、ビッグデータのオープン化が進むと、 不動産市場の透明化・客観化・見える化が可能となります。

 政府がこのほど発表したIT新戦略によれば、不動産登記情報は、個人情報に留意しつつ、情報範囲を限定して、無償公開することの可否を検討することが織り込まれていて、2020年度までに登記制度の改正を行う方針が決定されています。

 この様な状況の中で、不動産鑑定士連合会が政府方針を促進するための(この場合不動産登記簿の無償公開)制度改善要望を出そうとしないのか、不思議に思います。

 もっとも、登記情報の無償公開が実施されると、不動産業界ばかりではなく、IT関連業界や各研究機関・大学等がネット上に飛び交う売出し情報や競売・公売情報・企業財務上公開される不動産取引情報等と登記情報を紐付けて、数学的に解析したり、あるいは独自に取引情報を収集することが可能となります。

 平澤氏はこのメルマガ記事で、「登記情報の無償公開はビッグデータの公開に他ならず、必ずやこのデータを活用したAI解析の実施者が現れ、旧態依然たる価格査定業務はAI評価に置き換えられ、業務規模は縮小するであろう」と述べます。

 さらに、「旧態依然の地価公示制度の枠組みによるアンケート方式は、地価公示担当者に多大の負担をかけ、コスト的にも問題があると考えますが、何よりIT新戦略の方向性に逆行していると言わざるを得ません。新時代に向け、いち早く対応しなければ、連合会の破綻だけではなく、鑑定業界の存亡にも関わるのではと思われる。」と述べます。

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