不動産センサスの創設-2

前号記事に続き、鑑定協会第284回理事会へ提出した「不動産センサス制度創設提案書」(後半)を掲載します。
この提案書は協会理事に立候補するに際してお約束致しました『鑑定協会の新公益法人へ円滑な移行に努力すると同時に、Rea Net ,Rea Map並びにRea Reviewのさらなる充実に努力します。また新スキーム調査の負担軽減と有効活用に資する施策の実現に努力します。』に基づく、活動の端緒でございます。


『不動産センサス制度創設提案趣意書』(2011/07/19 第284回理事会提出)
四、情報開示と安全管理
以下に述べる取引情報あるいは取引事例とは「いわゆる新スキーム調査確定事例:三次データ」をさすものである。 不動産鑑定士は「取引情報は広く一般に開示されるべきものである。」ことを原則とする。 ただし、一般への開示は国交省が運営する「土地総合情報ライブリー」を通じて行われるものであり、その開示の範囲について鑑定協会は関与しない。
鑑定協会が関与するのは、当該事例を不動産鑑定士が利活用することに関してのみである。 不動産鑑定士の当該情報利活用に関しては、第三項に述べるものであり、地価公示の範疇を越えて調査に寄与していること並びに鑑定士固有の業務として配分法を適用していることの代償として、事例の利活用権限を与えられるべきものと考える。
不動産鑑定士の事例利活用に関しては、オンラインネットワーク(Rea Net)を用いて行われるべきであり、情報管理の安全性担保の観点から、上記以外の開示閲覧方法は一切禁止されるべきである。
Rea Netが有する機能の一つである「Rea Jirei」を用いて事例開示を行い、同時にRea JireiのLog管理を徹底することにより安全性を担保し、透明性を確保できる。
すなわち、サーバに残される閲覧アクセス記録を管理すれば、不適切と思われる閲覧は排除できる。
なお、Rea Net の安全性やモデル容量・能力について疑念が呈されていることは承知しているが、安全性並びにサーバ容量等についてはサーバ能力の拡充並びにメンテナンスを充実すれば十分に現行モデルで対応可能と考えるものである。
五、閲覧システムの維持並びに閲覧料の徴収
閲覧システムを維持するためには、事例データの更新並びにサーバのメンテナンスさらには閲覧会員等の更新業務等が伴い、維持経費の支出が伴う。この維持経費捻出のためには閲覧料の徴収が必要である。 そこでRea Net 維持並びに経費削減のために抜本的なシステム改善を提案する。
1. 鑑定協会会員等は、入会と同時にRea Net のIDとパスワードを交付される。
2. さらにRea Jirei アクセスを希望する会員等は閲覧料決済手段としてクレジットカードの登録を行う。
(注)会員(等)とするのは、鑑定協会会員以外の不動産鑑定士にも閲覧を供与する場合があることを意味する。
(注)クレジットカード決済は、閲覧Logによる決済を行うために、クレジットカード決済代行サービスを利用し、決済の安全性を担保すると同時に鑑定協会事務局の負担を軽減することを目的とする。
六、負担軽減並びに精度向上
事例調査に伴う費用弁償制度の創設、地理情報システムを採用し事例調査の負担を軽減、地価公示事例様式二枚目の廃止、地形図スキャニングデータの士協会管理等を行うことにより、不動産鑑定士の負担を軽減し同時に調査の精度を向上し均質化する。さらには調査費用の弁償を行い調査主体の意欲向上にもつなげる。
閲覧料は全国一律に徴収しプールすべきものであり、事例作成後に支払われる費用弁償対価はプールされた閲覧料総額を作成件数に応じて調査評価員に配布することにより、悉皆的あるいは網羅的調査を維持する。
1.地理情報システムの活用
β版モデルがほぼ完成している地理情報システムRea Mapを活用して、地理情報(緯度経度情報)を収集すると同時に、距離条件データをRea Mapが持つルーテイング機能を用いて均一的に自動取得する。 同時に地価公示事例カードの二枚目は、緯度経度情報の納付及び地形図のPDFデータ納付に置き換える。
将来的にはポリゴンデータを整備して、都計用途地域データ、ハーザードマップデータ、土砂災害警戒区域図、小学校学区図等の様々なエリア属性データの正確かつ簡便な取得に努める。同時にそれら整備結果は一般に開示されるものである。
(注)1. 地理情報システムに使用する事例元データは、各調査担当会員が自己のPCに保存済みの事例調査地点基本データ(XMLファイル、CSVファイル)を地理情報システム(Map Client) に取り込んで利用する。データのフォーマットはJirei10.Txtである。各会員の利用するスタンドアローンPC内における処理であるからセキュリテイに関わる新たな問題は生じない。
(注)2. モニター上のデジタルマップに仮表示される事例地点をドラッグアンドドロップにより、正しい地点に置き換えて事例位置を確定する。
(注)3. Rea Map が有するルーテイング機能により、自動取得される距離条件データは、複数の駅名・駅距離、公共施設名・同距離、商業施設名・同距離等であり、その他にも事前に設定する条件に基づいて幾つかの距離要因について自動取得が可能である。
(注)4. 地形図スキャニングデータ(PDF)を、Rea Jirei 付属管理とするか、別途士協会管理とするかは、今後の検討課題である。
2. 地形図の保存
法務局にて得られる地形図資料については、A4版縮小スキャニングによりPDFデータ化して保存されるものであり、Rea Jireiとリンクして閲覧に供するべきか否かは今後の検討課題とする。なお、地価公示納品成果物として地形図が必要であれば、このPDFファイルを納品すれば十分であろうと考える。 位置図については緯度経度情報を納品すれば事足りるものであり、地形図PDFデータの納品と併せて地価公示事例カード書式二枚目は廃止されるべきである。
3. 閲覧料並びに費用弁償
事例閲覧料並びに事例調査費用弁償対価は全国一律とする。
なんとなれば閲覧回数が多い東京銀座の事例も、閲覧皆無の地方中山間地の事例もその価値は等しいものであるからである。 また、事例データベースは悉皆性、網羅性にこそ、その存在意義がある。
調査費用弁償対価配分に関しては、閲覧収入の全国一括プール制を採用し、得られた閲覧全収入を当該期間内作成事例件数で除した金額を調査費用対価とする。
(注)1. 事例調査料単価=(年間閲覧総収入-調査郵送費等及びネット維持費)÷年間作成事例件数
(注)2. 配布調査費用弁償対価=調査料単価×当該評価員の年間作成件数
4. 事業遂行の予算措置
現行の新スキームにおいても照会票郵送費、サーバ維持費等において2億数千万円の経費を鑑定士は負担しているのであるが、不動産センサスとして調査をさらに充実しようとすれば三億円を超える事業予算が必要となる。それらの捻出はとても難しいことのように見えるが、その多くは既に支出済みの金額であるし、鑑定業界の事業実績に認められる平年時の実績額は350億円を超えているのである。 取引事例資料が鑑定評価の基礎的資料(米櫃)であるとすれば、総売上の1%どころか数%くらいの支出は当然経費と見なすことができようと考える。
またこの制度維持経費に加えて、調査にあたる鑑定士に費用弁償を行うべきと考えるが、費用弁償額は調査件数概算30万件として、仮に1件あたり3,000円の費用弁償を行うとすれば、費用弁償総額は9億円と見込まれる。
これら予想される支出総額に対して、得られるであろう閲覧収入総額には不確定性を伴うが、固定資産税標準宅地評価、並びに相続税標準地評価に利活用される取引事例に関わる閲覧料対価についても徴収を検討すべきである。 さらにはオンライン閲覧システムを経由せずに利活用される一般鑑定評価利用についても徴収を検討すべきであろうと考えられるが、これらについての徴収の是非は士協会自治に委ねられるべきであろうと考える。 なぜなら、それらの利活用は地価公示並びに地価調査と並行する利活用であり、優れて士協会内部の自治に関わるものであると考えられるからである。
七、不動産センサス制度創設に続く課題について
不当な鑑定評価報酬の切り下げ競争を止めさせ、鑑定評価が市場に信頼される制度に昇華してゆくためには鑑定評価の基盤である「取引価格情報収集・開示制度」を拡充しその機能を高めてゆくだけでは不十分である。
1. 鑑定評価の不当な廉売競争を止めさせ、市場の信頼を復活させる施策
かねてから提案する「Rea Review 制度」(鑑定評価書の開示制度)の創設を提案する。 制度の詳細については、本サイトのアーカイブより「Rea Review 制度創設提案」及び「Rea Review Q&A」等をお読み願います。
Rea Review は鑑定協会に資金的あるいは労役的負担を発生させないと云う点で、直ちに創設が可能な制度であると考えられるし、その効果は直ちに発揮されないであろうが、鑑定評価の依頼者に制度が正しく認識されれば、大きな効果が得られるであろうと考えるものである。
鑑定評価制度が創設50年を迎え、制度創設当時の目的や目標を見失しないがちな今こそ、抜本的改革を行うときであろうと考える。
2. Rea Map の継続的な充実や関連する事業の充実
先に述べたことであるが、Rea Mapのポリゴンデータを充実して、都計用途地域データ、ハーザードマップデータ、土砂災害警戒区域図、小学校学区図等の様々なエリア属性データの正確かつ簡便な取得を容易にし、同時にそれら整備結果は一般に開示して鑑定協会事業の公益性を高めてゆくべきである。
ポリゴンデータの充実は鑑定評価の精度向上にも寄与するものと考える。同時にRea Mapの充実は公的評価における評価格の一元的均衡管理にも役立つと考える。 さらには幾つかの士協会において実施が始まっている不動産市況DI調査の全国的な展開も開始すべきであろう。
(注)茫猿の知る限りで、公表されている士協会DI調査には次のものがある。
◎滋賀県士協会
◎静岡県士協会
◎広島県士協会
◎福島県士協会
◎宮城県士協会
岐阜県士協会
※福島会と宮城会の調査は大震災後の市場動向調査です。
以上、今や過去の経緯や現実論に足元をすくわれてはならず、今こそ抜本的改革に勇気を持って着手すべき時であると考え、本趣意書を提出致します。

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不動産センサスの創設-2 への2件のフィードバック

  1. 後藤 雅文 のコメント:

    若干の質問をさせてください。
    (1)四.オンラインネットワ-クでの事例活用以外は禁止をうたっています。六.4で士協会自治に委ねられたオンラインを経由しない利活用が述べられてます。この関係が相反していると存じますが、士協会自治のためにあえてこれをいれたのでしょうか。
    (2)六.地形図スキャニングによる共有、これはこういう形で共有化して問題ないのでしょうか。
    (3)六.3 年間閲覧総収入組み立てのお考え
    不動産センサスのご提案非常に具体的で説得的と拝読いたしました。                    

  2. bouen のコメント:

    ご質問(1)
     優れて個々の士協会事情が介在しております、相評や固評関連利活用については、安全管理措置が担保されることを前提として、各士協会固有事情に配慮した管理方法があり得るという意味です。ご賢察下さい。 如何なる場合でも、提案当初に掲げます四原則堅持は申し上げるまでもないことです。
    ご質問(2)
     公示事例書式二枚目の廃止を提案しておりますことの関係上、地形図を埋もれさせるにしのびないと考えます。 地形図には守秘義務が課せられない、もしくは相対的に薄いと考えますことから、士協会財産として有効利活用が図られれば宜しかろうと考えるものです。
    ご質問(3)
     とても微妙な問題であり、慎重審議されるべきであろうと考えます。 提案総てに云えることですが、在野の一会員の無責任かつ拙速である観測気球とお受け止め頂ければ結構かと存じます。 この種の問題に限らず、責任ある立場にある役員諸氏は拙速より巧遅を選ばれるであろうことも承知しております。
     であればこそ、論議の叩き台として、多くの批判を受けたり、時に無視される観測気球の存在意味もあるだろうと考えております。 

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