不動産センサスの創設-1

7月19日開催の第284回鑑定協会理事会に、「不動産センサス制度創設」の提案書を提出致しましたので本サイトにも開示します。 同理事会には6月20日開催の士協会会長会議説明資料「新スキーム特別委員会と不動産取引価格情報提供制度」についての、情報開示並びに経過説明とこの問題に臨む基本姿勢の説明も求めました。


『不動産センサス制度創設提案趣意書』(2011/07/19 第284回理事会提出)
提案者が、新スキームという名前を捨てようと鑑定協会の総会で提案したのは2009年6月のことですが、それから二年を経過した今、新スキームの改善策が鑑定協会で取り上げられています。 私は今さらに新スキームの問題点をあれこれ論うよりも、具体的な改善策を早急に提言すべきであろうと考えます。
同時に新スキームに代わる事業名称として「不動産センサス(取引動向悉皆調査)」の創設を提案します。 名は体を表すと云います。新しい事業名称のもとで「いわゆる新スキーム」を抜本的に改革し、新規事業を興す気構えが求められていると考えます。
一、原則の確認
新たに不動産センサス(取引動向悉皆調査)を創設する今こそ、我々不動産鑑定士は改めて次の四項目(4つのK)を確認し直すことから始めなければならないと考えます。
1.国民共有資産(共有:KYOUYUU)
新スキーム即ち「不動産取引価格情報制度」に関わる基礎データは法務省提供データであり、同時に同調査には国費が投ぜられているものである。それらは国民共有資産であることを再確認することから始まる。
2.情報開示要請(開示:KAIJI)
新スキームの背景には、不動産価格情報開示に関わる閣議決定がある。
2004年03月19日付け閣議決定「規制改革・民間開放推進三カ年計画」のなかで「取引価格情報の開示」は重点項目とされている。
3.安全性担保(機密性保持:KIMITU)
新スキームの背景には個人情報保護法が存在する。 重要な個人情報でもある不動産取引価格情報には高度な安全管理措置が求められている。
4.評価員の負担軽減と調査内容の充実(基盤資料:KIBAN)
不動産取引情報は鑑定評価に欠かすことのできない事例資料であることは云うまでもないが、不動産取引価格情報制度に関わる個々の事例調査は、地価公示スキームのなかで地価公示受託評価員(不動産鑑定士)が担当しており、その負担は重いものがあり、負担軽減策や調査実費の手当が求められている。
二、新スキームの現状
2005年、2006年の二年間にわたる試行期間を経て、2007年より本格運用された現行「新スキーム」は、既に七年を経過しているのであるが、依然として砂糖細工のスキームのままであり、その実態はとても脆いものがある。不動産鑑定士がこの制度に関わる根拠は「地価公示業務仕様書」の第2の二号に記載されているのみであると云ってもよい状態にある。
「公示業務仕様書:第2の二」
第2の二号には、『土地鑑定委員会の行う土地取引状況等調査に必要な業務を行うこと』と記載されている。
2700人余の鑑定士が携わり、百万件余の調査件数があり、アンケート郵送経費を始めとする二億円数千万円の経費負担を行っている調査にもかかわらず、国交省と鑑定協会とのあいだに明文の約定は存在しないし、得られた事例資料を鑑定評価業務へ利用する約定も存在しない。
三、不動産取引価格情報制度に不動産鑑定士が関わる意義
不動産取引価格情報制度のなかで鑑定士が関わるのは事例調査である。回収されたアンケート票を基礎として、法務局におもむき地形図を取得し、事例地の所在位置を確認し、現地調査を行い取引事例の属性調査を行うこととされている。
その多くは必ずしも不動産鑑定士固有の業務ではない。 しかし、建物及び敷地からなる複合不動産に関わる取引事例については、鑑定士が配分法を適用して取引総額を建物価額及び敷地価額に配分する必要がある。この配分法を適用し有効な指標データに置き換える作業こそが鑑定士固有の業務であり、鑑定士がこの調査に関わることの大きな意義がここに存在する。
同時に、この配分法適用後の事例データ並びに現地調査の結果得られた属性データに関して、不動産鑑定士は二次的著作権の付与を求めるべきであろうと考えるものである。
なお、当該調査は地価公示のスキームのなかで行われるものであり、地価公示納品成果物の一つであるから、著作権を求めるのは筋違いという意見もあるが、提案者はそうは考えない。
なんとなれば、地価公示作業に必要なエリアを越えて全数悉皆調査を求められていることと、地価公示委嘱期間を越えた通年作業を求められていることにあり、さらにはそれら全数調査に関わる経費負担も求められているからである。 地価公示スキームの範疇でと云いながら、その範疇を大きく越えた業務を鑑定士は担っているのである。
不動産鑑定士へのこの過重な負担に対して、明文の約定や著作権付与を求めることは、不動産鑑定士にとって当然のことであろうと考えるのである。
次号記事に続く

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不動産センサスの創設-1 への2件のフィードバック

  1. 後藤 雅文 のコメント:

    取引事例調査に著作隣接権を求める考えかたすばらしいと存じます。創設を目指す不動産センサスとはとりあえずは名前の変更と考えていいですか。

  2. bouen のコメント:

     如何様なお受け取りも可能と考えております。
    ただ、現行の新スキームは同制度構築以前からの、数十年にわたる様々な経緯やある種のしがらみが付きまとっているとも考えております。
    その意味からは、改革や改善よりも新規事業創設の方が、多くの御理解が得やすいであろうし、飛躍も可能であろうと考えております。
    新しき酒は新しき革袋へとも考えます。

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