森友案件に係る鑑定評価&調査報告(2)

前号(1)記事に引き続き、大阪会調査報告書の拙い読み解きを行うものである。

 前号記事ではX不動産鑑定事務所が不動産鑑定評価書を発行し、次いで短時日の間に同一不動産について価格調査報告書を発行したことの是非、そして両鑑定評価および価格調査において最有効使用が異なることについてその是非を論じた。さらに埋設物除却費額を利用した値引き価格報告額については、埋設物の種類も埋設量も不明な状況で埋設物除却費額を査定可能なものかどうか、茫猿には理解不能と評した。

一、X鑑定の賃料試算について
 話は転じて、X不動産鑑定評価及び価格調査は、その依頼条件としてX1は事業用定借・期間10年の新規賃料評価であり、X2は定借・期間50年の新規賃料査定である。

 新規賃料評価は鑑定評価基準に依れば、『宅地の正常賃料を求める場合の鑑定評価に当たっては、賃貸借等の契約内容による使用方法に基づく宅地の経済価値に即応する適正な賃料を求めるものとする。 宅地の正常賃料の鑑定評価額は、積算賃料、比準賃料及び配分法に準ずる方法に基づく比準賃料を関連づけて決定するものとする。この場合において、純収益を適切に求めることができるときは収益賃料を比較考量して決定するものとする。』とある。

 そして、『不動産鑑定評価基準運用上の留意事項(平成26年5月1日付け一部改正)の Ⅸ 「各論第2章 賃料に関する鑑定評価」について 1.宅地について』に於いて、『宅地の新規賃料を求める場合において留意すべき事項』は、次のとおりである。
(1)積算賃料を求めるに当たっての基礎価格は、賃貸借等の契約において、賃貸人等の事情によって使用方法が制約されている場合等で最有効使用の状態を確保できない場合には、最有効使用が制約されている程度に応じた経済価値の減分を考慮して求めるものとする。

 以上の基準並びに留意事項を平く読み解けば、
1.正常賃料は積算賃料、比準賃料、配分法適用賃料、得られれば収益賃料を関連或いは比較考量して決定する。然し乍ら、実態として比準賃料や配分法適用賃料は試算の基礎とする事例資料が得難く試算が困難である。また類似不動産の純収益を適切に求めることができる場合などもとても稀なことである。

2.したがって、試算賃料は積算賃料に拠らざるを得ないのが実情である。本件の場合は「評価額決定の理由の要旨」も「査定額決定の理由の要旨」も開示されていないので試算過程は不明であるが、積算賃料が重きをなしたであろう事は容易に推察できる。そこで、基準運用の留意事項が重要なのである。

 積算賃料査定の基礎価格は、本件の場合は地下埋設物を包蔵する土地の価格であり、いわゆる更地価格を基礎として試算されるものであろう。試算過程として最初に(a)最有効使用を前提とする更地価格試算、次いで(b)賃貸条件(事業用定借10年または定借50年)に応じて最有効使用が制約される程度に応じた経済価値の減分を考慮して(契約減価)基礎価格を試算するものである。

 X1及びX2における「土地の所有権価格」なるものが何を意味するのか茫猿には不詳であるが、両者は2.8%の開差しか認められない。差額が生じた理由も不詳である。尚、規準したであろう周辺の公示標準地「豊中ー16」の価格推移はH26.1:185,000円/㎡、H27.1:185,000円/㎡、H28.1:185,000円/㎡(横這い)、同じく「豊中5-11」はH26.1:197,000円/㎡、H27.1:199,000円/㎡、H28.1:202,000円/㎡(微増)である。

 地価水準を検討する上で、もっとも類似性が高いのではと考えられる地価調査基準地「豊中9-2 H26.7:127,000円/㎡、H27.7:127,000円/㎡、H28.7:127,000円/㎡」が対象地と高速道路を挟んで北側に所在する。
評価対象不動産  豊中市野田町1501番 宅地 8,770㎡43
X鑑定所有権価格  955,977,000円 (109,000円/㎡ ) 価格時点 H27年1月1日

土地総合情報システムより、豊中-16、豊中5-11の所在地図を切り取る。より類似性が高いのではと認められる地価調査基準地豊中9-2が高速道路を挟んで向側に位置する。

二、X1鑑定評価及びX2価格調査報告について
 同一不動産に関して短期間のうちに鑑定評価書次いで価格調査報告書を発行したことの是非以外の事項については、論じるに足りるだけの資料が開示されていないので論じ得ない。事業定借賃料評価から四ヶ月後に定借賃料を求められるに至った経緯について、大阪会調査報告書は様々論じてはいるが、詳細は藪の中である。

 強いて言うならば、不動産鑑定士という専門職業家として、当然払うべき注意や洞察を怠ったといえばそれまでであるが、同時に鑑定評価書に引き継いで、安易に価格調査報告書を発行していることが惜しまれる。

三、Y鑑定評価について(B不動産鑑定士)
1.正常価格
依頼者:近畿財務局  発行日:2016年5月31日
正常価格:956,000千円(※2015/01 X鑑定 955,977千円)
(注)地下埋設物については、価格形成要因から除外する。尚、埋設物の撤去及び処理費用については依頼者に於いて算出されており、(中略)価格に与える影響の程度については、自ら判断できる。

2.付記意見価額:134,000千円 埋設物撤去処理費用:819,741千円
上記合計額は953,741千円であり正常価格と合致しないが、撤去等に起因する事業期間の長期化に伴って発生する逸失利益相応の減価が講じられている。

(意見査定条件)評価条件によって価格形成要因から除外した「地下埋設物」について、依頼者提示の地下埋設物撤去及び処理費用を加味しつつ、当該事項を本編鑑定評価額に反映した場合の意見価額である。
(価額査定の経緯)更地価額から依頼者提示の地下埋設物撤去及び処理費用を控除し、さらに当該撤去等に起因する事業期間の長期化に伴う影響を加味して意見価額を査定する。

3.依頼者提示の撤去処理費用についてB不動産鑑定士は以下の如く述べる。
 《大阪会報告書27頁》会計検査院報告書81頁によれば、B不動産鑑定士は、依頼者が提示した地下埋設物撤去・処分概算額には依頼者側の推測に基づくものが含まれ、調査方法が不動 産鑑定評価においては不適当であったことなどから、「他の専門家が行った調査結果 等」としては活用できなかったという。つまり、不動産鑑定士から見て上記概算額 は信用性に欠けるということである。
 《と述べていながら、鑑定評価には不適当でも、何故に意見価額査定には採用できるのか、理解不能である。》

4.意見価額の付記について
 意見価額を付記することが直ちに否定されるものではない。しかし、其処には正当な意見付記条件が存在しなければならない。正当なというのは、専門職業家としてその社会的公共的意義を自覚し、依頼者のみならず関係者及び社会一般に対して分かりやすく誠実に説明しうるものでなければならない。つまり説明責任を果たせるものでなければならない。

それらの事項を踏まえてみれば、先ず「山より大きな猪」に等しい行為である。正常価格の86%相当もの大きな額を控除する意見価額なるものが妥当であると社会的に容認されるか否かは自明だとも言える。しかも撤去処分費用額について信用性に欠けるものと認識していてのことである。仮に依頼者の強要が存在したとしても、意見価格の記載は引き受けるべきではなかった。

(注)意見価額記載を是認しなければ、鑑定評価自体の受託も取消された可能性が高い。後講釈に過ぎないが、一旦手許を離れた鑑定評価書(価格調査報告書も含めて)は独り歩きするものである。依頼者の手許にいつまでも留まっている訳ではない。時には複写物が反社的存在に利用されることだってある。だから専門職業家として、当然払うべき注意や洞察を怠ってはならないのである。

四、Z鑑定評価書について
1.正常価格
依頼者:森友学園  発行日:2017年8月10日
正常価格:1,300,000千円(※2016/05 Y鑑定 956,000千円)
評価条件:更地、独立鑑定評価
(注) 瑞穂の国記念小学院建築工事中であるが、更地、独立鑑定評価を行う。

2.Z評価書についても幾つかの指摘ができる。
(a)2016年6月20日に森友学園が134,000千円で売買契約済み。
(b)期間10年間の買戻し特約設定登記済み(売買代金の記載有り)
鑑定評価に際して最近の登記簿を閲覧するのは必須事項である。登記簿を閲覧すれば、上記a、b二項は当然の如く確認できるものである。

(c)指定期間中に指定用途(小学校新設)に利用しなかった場合等には買戻特約が実行される土地について、更地・独立鑑定評価を行うことが妥当か否か、十分な検討が必要である。

 それらを承知の上で、依頼者が2016年6月に134,000千円で取得した土地を、更地独立鑑定評価とはいえ翌2017年8月に1,300,000千円(およそ9.7倍)と何故評価できるのか、茫猿には理解不能である。同時にZ評価は地下埋設物の存否について触れられていない。以上の経緯及び事項について、専門職業家として、当然払うべき注意や洞察を行って欲しかったと思うのである。

五、総括
 X、Y、Zと三社の鑑定事務所発行の鑑定評価書等を大阪会調査報告書及び添付資料から管見したのであるが、総じて言えることは専門職業家として当然払うべき注意や洞察が些か欠けていたのではと惜しまれることである。

 もう一つは『Client Influence Problem』の存在である。XとYについては指名見積合わせを行う近畿財務局に対して依頼者プレッシャーもしくは忖度の介在が懸念される。 Zについて森友学園からどのような働き掛けがあったか窺い知ることは出来ないが、売買取得価額の十倍近い評価額を得る為に何らかの働き掛けが有っただろうと推察はできる。

《以上で管見終了》
 本記事については(1)(2)を通じて、さらに慎重な推敲が必要なのであるが、今はとても眼が疲れているので、しばらくはこのままにする。お読み頂いた読者の中で、お気付きの点があればフォローコメントなりメールなりでお知らせ頂ければ有り難く存じます。
森友案件に係る鑑定評価&調査報告(1) 投稿日: 2020年5月20日

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