一連の公的評価と都市情報

 右肩下がりの地価に連動して鑑定評価も右肩下がりと云われて久しいが、昨年から今年にかけては、地方圏では固定資産税標準宅地評価に始まる公的評価の業務に忙殺され、都市圏では不良債権処理に関連する評価業務量の増加に忙殺されて鑑定業界の将来に対する危機意識が影を潜めたかのようにみえます。しかし、カウンセラー会が発表した「高度評価原論・Evalution論」に待つまでもなく業界に余力のある今こそ、確かな将来展望に基づく基礎固めが必要な時期ではないでしょうか。


 地価公示に始まる公的評価は地価調査・相続税標準地評価・固定資産税標準宅地評価と連鎖し、さらに路線価評価等固定資産税標準宅地評価の付随業務として結実することが、鑑定業界のさらなる業容拡大を意味し、今後の展開の奥行きと裾野の広がりをもたらすのではないでしょうか。
 具体的にいえば、一連の連鎖する公的評価業務を如何にシステム化するか、一連のものとして捉えきれるかが今後を決めると考えます。同時にこれら公的評価の流れのなかで鑑定業界が入手し得る多くの情報を基盤とする多面的業務展開或いは拡充に踏み込めるかが、五年後十年後の鑑定業界の姿・在処を決定的にするであろうと予測します。 もし、そうでなければ、鑑定業界は公的評価の高波に埋没しかねないとも思います。
 業界組織の求心力は取引資料悉皆調査を嚆矢とする広範な土地情報が握っていると考えますが、公的評価、就中、固定資産税標準宅地評価或いは固評付随業務を斯界事業のゴールにしてはいないでしょうか。 各種公的土地評価業務を受託する中で入手できる、上下水道配管系統図・都市ガス配管系統図・バス路線図・学区図・各種施設配置図・状況類似地区区分図・用途地区地域区分図・路線価図・公的評価地点地図・地価マップ等々について、個々の鑑定事務所が分散して保有するのではなく、業界の共有財産として整備管理する。そして共有財産としての都市情報システムの基盤造りを始める時期ではないでしょうか。
 GIS(地図情報システム或いは地理情報システム)を導入しようとする自治体が増えつつあります。自治体の財政事情は大変に厳しいものがありますが、逆に厳しいからこそ、増加する業務量に対応するために或いは介護保険など新しい業務への対応能力を高めるためにも、GISの導入は不可欠と考えられているのです。行政機関がそうであるように民間企業もGISやWeb対応に向かって走り出しています。独り鑑定業界だけが、この時代の潮流に無関心であってよい訳はありません。
 固定資産税路線価評価業務だけがGIS関連業務とは申しませんが、路線価評価業務を抜きにして我々のGISが考えにくいのも事実と思います。勿論一面では、路線価業務は既に市場争奪が終わっているとも云えます。だからといって、その市場と情報の圏外に安住していてよい理由にはならないと考えます。それは、前述のように、路線価評価業務が都市情報システムやGIS構築のスタートラインとしては最も相応しく容易であるからです。
 といって、路線価業務の受託は簡単ではありません。路線価評価ソフトの入手と習熟や必要機器の設備投資と習熟にはじまる事務所や業界の充実だけではなく、業務完成保証の問題や業務受注に伴う競争に対応する問題等、越えなければならない問題が山積しているからです。このことは、上場企業である大手先発航測企業或いは鑑定業界の先発大手事務所と競争して受注に至ることが、如何に大変かを想像すれば御理解頂けるでしょう。であるからこそ、都市圏であれ地方圏であれ、事務所陣容が数名未満の鑑定事業者にとって路線価業務は共同受注共同作業以外には考えられないのです。
 路線価評価の技術的な問題は解決されていると考えます、100%解決とは申しませんが、大凡は解決済みです。であるからこそ、大手航測会社或いは路線価受託先発鑑定事務所等が行っている業務に伍して、受注競争に参加してゆくための準備は可能だと考えます。資本装備・人的装備・ノウハウには劣ることがあっても、地元精通の不動産鑑定士としてのセールスポイント(的確な比準表作成・綿密な地価バランスの検討等々)は優ることが多いはずです。それらを考え併せれば解決できると考えるのです。既に公開・販売されている路線価評価ソフトも複数ありますし、機器は廉価で入手できるようになりました。後は進出する意欲と習熟度を高める努力だけでしょう。
 業務を如何に受注し、遂行するかに関して云えば、市町村は路線価評価業務を単独に分離発注する場合もありますが、多くは航空写真や地番図或いは画地認定・画地評価と一括して発注致します。この際に、分離発注であれ一括発注であれ、発注行為が競争入札か随意契約かが、肝心な問題です。我々不動産鑑定士は分離分割発注で随意契約を望みますが、如何にしてそこまで持ち込むかも大変なことです。
 単位社団・部会内部で競争を始めたら、単位社団・部会外の鑑定業者や航測業者との競争には伍してゆけません。さらに、単位社団・部会もしくは社団・部会内部に形成される別組織が首尾良く受注できたとして、受注業務を如何にして完成させるかも大変なことです。地方圏では高齢化が進む鑑定業界ですから、不測の事態に備える準備も必要なのです。又、そういう準備無くしては市町村は安心して零細鑑定業者には発注してくれません。
これらの困難があるにしても、単位社団や部会が困難を乗り越えて路線価業務に進出することが、GISへの道を開くものであり都市情報システムを構築する糸口となるのだと考えます。

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