評価の電算処理-3

「前号・評価の電算処理-2より続く」
 電算処理を前提にして、比準方法や比準表の抜本的見直しが必要なの
ではなかろうか。或いは数値比準表を利用する比準方法と従来型比準方
法の並立型併用が考えられないだろうか。
誤解を避けるために、あえて重複して述べるが、筆者は従来型のアナロ
グ的手法を否定するものではない。単件評価の精度という観点からは従
来型・アナログ的評価手法に優るものはないと考えている。
 具体的に云えば、限定された事例地と評価対象地について、その歴史
的背景や人文的背景にまで踏み込んで、比較評価作業を行うということ
は電算処理では至難なことである。
 例えば、職域階層の微妙な差異や近隣地域内における建物の規模・品
等、居住者の年齢や定着度の差異、或いは商店街の歴史、店舗オーナー
の意欲、顧客の年齢層や商店街への親近度といった事項について秤量比
較を行うという作業は、まさに、豊富な経験と知識を有する練達堪能な
評価主体にこそ可能な作業であり、数値化された要因を基礎にして比準
表を用いて行う電算化比準作業の遠く及ぶところではない。
 別の云い方を用いれば、前掲例示したような要因を、数値比準表の適
用に耐えるように階層化及び数値化するという作業は、気の遠くなるよ
うな時間と経費を要するものであり、およそ現実的ではない。
 まさに、ある種のパラドックスとも言えるのであるが、従来型手法が
精緻且つ微細な部分を多く含むからこそ電算処理にはなじまず、同時に
多量評価の衡平さとか迅速さ或いは正確さ明瞭さいう観点からは困難さ
がつきまとうのである。
数値化された比準表を駆使して迅速に透明且つ正確な評価作業を行うと
いう点において従来型手法は一歩も二歩も譲らざるを得ないのである。
 勿論、前述したように電算型評価といえども、全てを数値的比準表及
びコンピューターに委ねられるという訳ではない。比準表の作成におい
て、数値比準の及ばない部分の比較において、そして比準された結果の
調整並びに比準価格の決定という作業において、評価主体の経験・力量
に左右される部分は多く残るものである。
 しかし、数値比準表による透明な比準部分と評価主体の判断に委ねら
れる比較部分は明示することが可能であり、比準表という物差しの明示
も可能であることから、評価作業全体の透明さと恣意的判断をより少な
くすることが実現できるのである。
同時に、電算化し数値化比準表を利用することにより、収集した事例の
多くを比準基礎資料として、常時採用することが可能になるのである。
 具体的に云えば、50地点の評価対象地があるとして、200地点の
事例が収集できたとすれば、常にその全200事例を基礎にして比準結
果を試算することは有益・有効ではないが、少なくとも価格帯が近似し
たり用途が類似する50事例程度は比準対象事例として採用が可能にな
るのである。
 当然に評価対象地の地価水準分布並びに地理的分布の状況と同じく事
例地の地価水準分布と地理的分布の状況が常に正規分布的状況にある訳
ではないから、多数事例を基礎とする比準が常に可能であるとは一概に
は言えない。言えないが、数個の事例に限定するという手法にこだわる
必要は全くないのである。
 各々の評価対象地について、可能な限り多数の事例から比準作業を行
い、その比準結果について、散布状況や偏差値を求めることにより、統
計的中央値を探して、その結果を基礎にして比準価格を追求してゆくと
いう作業が可能になるものである。
 同時に事例価格と事情補正率や時点修正率並びに格差補正率の大小・
多寡・透明度を基礎として、比準価格決定基礎とする事例地を絞り込ん
でゆくという作業も電算なればこそ容易になると云えるのではなかろう
か。
 電算やiNetを手軽に利用できる時代に入って、鑑定評価は変わる
べきではなかろうか。
その意味からは、情報公開に備えるが如き消極的対応は本末転倒であり、
進んで、可能な限り情報を公開すべきではないのか。
 iNetの時代は情報が限りなく廉価に公開され共有される時代でも
ある。非公開を前提とした地価情報作成の時代から、積極的な公開を前
提とした情報作成の時代に入ったわけであり、公示・調査を基幹とする
地価情報全体の作成方法やフォーマットも自ずと公開を前提に整えられ
なければならないと考えられる。
 例えば、固評標宅価格や相続税路線価は標準価格を前提とするもので
あり、地価公示価格や地価調査価格は鑑定評価格(個別的要因格差を内
在させている)である。個別格差補正率が公開されなければ、単純に
固評価格×(100/70)、或いは相続税路線価×(100/80)という比較が可能
ではないのである。
 折しも鑑定評価基準の改定が日程に上っているようである。算盤の時
代に始まった鑑定評価が、三次試験に電卓持ち込みが許されるようにな
り、携帯電算持ち込みによる答案作成だとて荒唐無稽とは云えない時代
に入ってきたのではなかろうか。情報を囲い込む時代は日に日に遠くな
りつつあることを自覚しなければならない。
 終わりに、最近に側聞した標準化補正や個別格差補正に関する数値比
準表の問題点を示してみたい。
※側聞した方位及び接面条件に関する標準化補正の比準表
A.街路の方位比準表  南+3、東+2、西 1、北 0
B.角地 +5
 上記の比準表を使用すると、
南東方向角地は 1.03(南接面)×1.05(角地)=1.08となる。
しかし、正確には側道の接面方向も加味して
 1.03(南)×1.02(東)× 1.05(角地 )=1.10 が正しいのではなかろうか。
さらに云えば、正面街路幅員を比準要因として捉える以上は、側道幅員
も要因として数値化されていることであろうことから、比準要因として
加えるべきではなかろうか。
 他にも、陰地補正(固評)や不整形地の最大利用率(補償コンサル土地
評価)を援用した形状補正、画地規模に関する過小・過大補正や、間口
・奥行に関する間口狭小・奥行短小・奥行逓減・間口奥行比率補正など
を数値化比準表に採用することも喫緊の課題であろうと考える。

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