最低売却価格についての提言(転載)

【茫猿号外・・最低売却価格についての提言(転載)・・03.06.25】
 03.06.24付「PROGRES NEWS 号外版」に、資産評価政策学会が競売における
最低売却価額制度について提言を行ったという記事が掲載されました。
発行者のご了承を得ましたので、その全文を転載致します。
興味深い内容を含む記事ですから、是非ともご一読下さい。
 03.06.18付「日本不動産鑑定協会の第一次提言」と対比してお読みになると、
なおのこと宜しいかと存じます。
※「PROGRES NEWS 」について
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※以下はメールマガジンの転載記事です。
        PROGRES NEWS 号外版
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※資産評価政策学会・競売市場研究会(座長 田中啓一、日本大学経済学部教
授)は、6月19日法務省記者クラブにて以下の中間提言を行いました。号外版
として参考送信させて頂きます。お役に立てば幸甚です。
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2003年6月19日
=最低売却価額は基準価額とし、内覧受認義務を課すべき=
-開かれた不動産競売市場の実現のために-
(中間提言)
資産評価政策学会・競売市場研究会
座 長 田中  啓一(日本大学経済学部教授)
副座長 熊田  禎宣(千葉商科大学政策情報学部教授)
委 員 上原 由起夫(国士舘大学法学部教授)
    久保  朋義(不動産鑑定士)
    瀬下  博之(専修大学商学部助教授)
    田中  準三(不動産鑑定士)
    寺島  鐐太(不動産鑑定士)
    中野  英夫(専修大学経済学部助教授)
    平澤  春樹(不動産鑑定士)
    福島  隆司(政策研究大学院大学教授)
    古田  豊人(不動産鑑定士)
    堀川  裕巳(不動産鑑定士)
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(1) 不動産競売制度は、「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等
の一部を改正する法律案」(2003年3月14日閣議決定・国会提出)により、短
期賃貸借保護制度が廃止され、民事執行法上の保全処分等の要件が緩和される
など、大きく改善されることとなった。
 しかしながら今改正がなされても、最低売却価額制度の義務付けなどいくつ
かの重要な問題点が残されている。このため法務大臣「民事執行制度の見直し
に関する諮問」(2003年諮問62号、3月24日付け)により、民事執行制度の見
直しを行うことが予定されている。担保・執行法制のさらなる改善は必須であ
る。
(2) 一方、競売不動産の評価に関しても、例えば地方のリゾート物件に典型
的に見られるように、必ずしも実情を反映しない評価額に基づいて設定された
最低売却価額のために競売不成立となる場合が少なくないなど、入札希望者か
ら高い信頼を得ているとは言い難い状況にある。
(3) 競売を不成立にさせて債権者に安値での任意売却を迫る執行妨害を助長
する一方で、投資家からの信用を失墜させている最低売却価額制度は、不動産
競売市場の健全化を図るうえで残された阻害要因の象徴である。
 その抜本的改善は、債権者のためのみならず、不動産競売市場が透明かつ公
正な開かれたマーケットとして機能して担保権の実行を通じた債権回収を促し、
不良債権処理を円滑化させて、金融秩序の再構築を図りつつ経済再生を実現す
るという国民的利益のためにも必須である。
(4) これらに鑑み、執行妨害による不当な利益の収受可能性を完全に断ち切
るとともに、不動産競売市場が投資家からの信頼を勝ち得るためにも、担保・
執行法制のさらなる改善及び競売不動産の厳正かつ適切な評価の実施について
提言する。
1.担保・執行法制のさらなる改善のために
(1) 最低売却価額の基準価額化
  次の(A)又は(B)のいずれかとする。
 (A) 現行の最低売却価額制度は原則として廃止し、評価額は入札者が入札額
を判断するうえでの基準価額とする。競売終了後、債権者又は物件所有者は一
定期間内に落札価額より高い価額で自ら買い取る旨を申し出ることができ、申
し出のうち最も高い価額の提示者を買受人とする。
 (B) 第一順位の抵当権者の選択により最低売却価額を設けないことができる
ことする。具体的には、第一順位の抵当権者が、裁判所が定めた評価額を最低
売却価額とするか、基準価額とするかのいずれかを選択できる制度とする。こ
の場合にも競売終了後、債権者又は物件所有者は一定期間内に落札価額より高
い価額で自ら買い取る旨を申し出ることができ、申し出のうち最も高い価額の
提示者を買受人とする。
 
 (A)案は、原則として基準価額未満での売却を認めるものである。これに対
して(B)案は、第一順位の抵当権者が、評価人による評価に基づき裁判所が定
めた価額を見て、その評価額未満での売却が望ましくないと判断すれば、従来
通りこれを最低売却価額とすることもできるし、その評価額が最低売却価額と
しては高すぎると判断すれば、それを下回る価額での売却を認めるものである。
ⅰ最低売却価額は執行妨害集団による不当利益の収受の防止に寄与していない
かつては入札希望者が一同に会してせり売り・入札が行われていた。このため
最低売却価額も、執行妨害集団が、(a)入札希望者を威嚇し、(b)自らが安値落
札して、(c)転売により不当な利益を収受することを防止している点で、一定
の意義はあった。
 しかしながら期間入札すなわち郵送で入札される今日、入札希望者を威嚇す
るのは困難であって、執行妨害の主要な手口は、(a) 占有屋を雇うなど物件に
介入し、(b)占有排除等に多額の費用が掛かると匂わせて競売を不成立にさせ、
(c)債権者に安価での任意売却を迫るものにかわった。最低売却価額によって
妨害集団の介入を排除できるはずがない。より容易に競売不成立にできる最低
売却価額こそが、むしろ執行妨害を助長しているのである。
ⅱ最低売却価額は、より高値での売却(債務者や後順位の抵当権者の保護)に
も寄与しない最低売却価額は、より高値の買受希望者には無意味であり、単に
安値の買受希望者に入札参加を見送らせるだけである。入札者は「(物件価値)
-(占有排除費用)」の多寡によって自らの入札額を決めるのであって、最低
売却価額規制を課したからといって、入札額を高くする者はいない。
要するに競売物件が何割減で換価されるか、執行妨害集団の不当利益収受がど
れだけ防止できるかは、その防止制度(例.占有排除手段の強化、刑事罰の強
化)如何によるのであって、最低売却価額は無関係である。最低売却価額を廃
止しようが存続しようが、妨害集団が介入すれば同様に落札額が下がるのであ
れば、債務者や後順位の抵当権者の保護にも寄与しない。最低売却価額に達し
ないため売れないからといって、裁判所がかわって買ってくれるわけでもない。
単に入札不調を助長させているにすぎないのである。
ⅲ「思いがけない安値での落札」など、ほとんど起こりえない
現に東京地裁及び大阪地裁では、入札情報をインターネットで公開しているし、
多数のコンサルティング業者が全国の競売物件を情報提供している。最低売却
価額が廃止されれば、入札参加者が飛躍的に増大することを考慮すれば、例え
ば1億円で売れる物件がフタを開けたら1000万円で落札されたなどという「ハ
プニング安値落札」などあり得ない。
仮に、万が一「ハプニング」が生じても、債権者や物件所有者が買戻権を行使
し、仲介業者を通じてより高値の購入希望者を見つけるのは容易である。
ⅳ「一発落札」が重要
「1度で落札されなくても、最低売却価額を下げ、2度目・3度目で落札され
ればよい」などといわれることもあるが、落札が半年から1年遅れるだけでも、
資金回収を急ぐ債権者にとっては痛手である。また落札が遅れるほど、適切な
メンテナンスのできない競売物件の落札額は下落する。一発落札されたほうが、
債権者にとっても、債務者にとっても余程有り難いことは当たり前のこと。
ⅴ「最低売却価額」を「基準価額」に代替しても支障はない
「最低売却価額は、無剰余競売であるかの判断基準や売却代金の配当基準とし
て必須」だともされ、たしかに民事執行法には次の最低売却価額引用条文があ
るが、「基準価額」に代替して何ら支障はない。
- 利害関係人のした条件変更の合意を執行裁判所に提出する期限(59条5項)
- 一括売却が超過売却であるかどうかの判断基準(61条但書)
- 競売が無剰余競売となるかどうかの判断基準(63条)
- 入札またはせり売りを行う場合の公告事由(64条4項)
- 保全処分を求める差押債権者がなす予備的買受申出の買受額の基準値(68
条2)
- 一括売却における各不動産の売却代金及び執行費用の割り付け基準(86条2
項)
(2) 内覧受認の義務付け
ⅰ不動産競売では、入札者に内覧なく値付けを強いることが、不当安値落札、
入札不調の元凶となっている。任意売買では、物件を内覧せずに不動産を購入
する者などいない。内覧権を確保することは、競売市場が当たり前の不動産市
場となるうえでの必須要件である。 
ⅱ競売では、債務者・占有者と抵当権者・入札者との利害が対立する。このた
め、情報の非対称性によって入札者が十分な取引の前提を入手し得ないという
市場の失敗が発生する。その情報開示に関しては制度的担保が不可欠である。
ⅲ改正法案では、権原を有する占有者が同意しなければ内覧ができない。執行
妨害者と結託した債務者がこれに同意するはずなく、内覧権は画餅に過ぎない。
すべての占有者に対して、正当な理由がない限り、内覧受認義務を課す制度と
すべきである。 
ⅳ競売不動産も公開原則が貫徹されてこそ、評価も厳正化され、投資家の信頼
を勝ち得る。
ⅳ-ⅰ「占有者にとって苛酷な場合がある」のか
例えば病気療養中など、内覧が行われることが占有者にとって実質的に障害に
なる場合にのみ、そのことを斟酌すれば足りる。内覧を義務づけられ、執行妨
害の手口が封じられて初めて、高値売却のためにも債務者が積極的に協力する
ようになるのであって、苛酷となる事態は生じない。
ⅳ-ⅱ第三者である賃借人には強制しても問題はない
「デフォルトを起こした債務者はともかく、第三者である賃借人には強制でき
ない」などともいわれるが、契約慣行では、物件の賃借希望者又は購入希望者
が家主の立ち会いのもとで内覧する場合に、借家人が承諾することが特約によ
り定められている。このためにプライバシー侵害問題が生じてトラブルになっ
たこともない。正当な借家人にとっては、内覧受認義務が課されることによる
事情の変更は一切ない。
2.競売不動産の厳正かつ適切な評価の実施のために
(1) 収益還元法の重視による適切な評価を
ⅰ従来、競売不動産の評価手法は法令上明記されていなかったが、1998年の民
事執行規則改正により、「取引事例比較法、収益還元法、原価法その他の評価
の方法を適切に用いなければならない」こととされた。ところが地方圏では、
依然として土地評価は取引事例比較法に、建物評価は原価法に過度に依存する
あまり、市場価格から大きく乖離した評価がなされ、マーケットから信頼され
る評価額を提示しきれず、落札不調・競売不成立の原因となっている。
ⅱ評価人は、自らの評価技術の研鑽を怠ることなく、投資の判断基準となるよ
うな収益還元法を重視した適切な評価を行うべきである。格別な執行妨害もな
いのに、高すぎる最低売却価額のために落札されず、だったら最低売却価額を
3割、4割下げればよいなどという事態が頻発していては、評価人のみならず
不動産競売市場自体に対しても、投資家からの信頼は得られない。
ⅲ競売評価人の99%は不動産鑑定士である。不動産鑑定協会が研修・広報等に
より会員の技術向上を支援することも有益である。ただし評価人の能力向上に
最も効果的な手段は、基準価額と落札価額を併せて公表することである。何故
ならば、基準価額と落札価額がどれだけ乖離したかが評価人の能力を判断する
格好の指標となり、結局、基準価額は「評価人による落札予想価額」となって、
評価能力の低い評価人が自然淘汰されるからである。このようにして基準価額
は、市場の実勢を反映しない最低売却価額よりも、よほど信頼のおける判断基
準となるのである。
(2) デューデリジェンスの徹底を
ⅰ不動産の収益価値が重視されることは、事前評価、リスク評価としてのデュー
デリジェンスが徹底的に行われるべきことを意味する。
ⅱ評価人は、デューデリジェンスの責任が課されていることを認識すべきであ
る。
(3) プロフェッショナルとしての不動産鑑定士たれ
ⅰりそなグループの政府支援問題では、監査法人の公認会計士の自殺が注目さ
れた。不幸な事件ではあったが、公認会計士は不適正な監査による損害に関し
て個人として全面的な責任を課されているからこそ、プロフェショナルとして
の高い信頼を得ていることの象徴的な事件でもあった。
ⅱ不動産鑑定士も、個人としての責任を自覚し、プロフェッショナルとしての
信頼を勝ち得るべきである。
ⅲ競売評価人は、裁判所から評価命令を受けた時のみが評価人であり、常時は
競売評価人候補者でしかなく、国家賠償責任についても適用がない等の状況が
ある。これらについても制度的な位置づけを明確にすべきである。
ⅳ競売評価人制度に関連し、現行の不動産の鑑定評価に関する法律が「業法」
であることによるデメリットにより、不動産鑑定士の社会的責務や説明責任と
の関係であいまいであり、不動産鑑定士制度についての見直しも必要である。
以 上

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