事例収集新スキーム

【茫猿遠吠・・事例収集新スキーム・・04.08.27】
以下は、日本不動産鑑定協会サイトの会員頁に掲載された地価調査委員会報告からの抜粋である。取引事例収集に関わる重要な問題であるから今後の推移に注目してゆきたい。尚、当該記事は会員専用頁掲載であることに配慮して、一部の表現を変更または伏せていますから、詳しくは協会会員専用サイトをご覧下さい。


この問題に関しては、資料委員会(7/13開催)においても同様の報告記事が掲載されている。尚、この問題は9月理事会でも各委員長より報告されるであろうから、詳細についてはお近くの協会理事、地価調査委員、資料委員各氏にお問い合わせ下さい。
『鄙からの発信』としては、関係各位から情報提供や意見発信があれば、直ちに記事にしてまいります。
第4回地価調査委員会 平成16年8月3日開催
議題5.新たな取引事例の収集スキーム(案)
5. 国土交通省の新たな取引事例の収集・提供スキーム(案)について
田畑専務理事からスキーム(案)の概要について説明が行われ、この仕組みにより、法務省から土地鑑定委員会を通じて鑑定協会が定期的に異動情報を入手でき、かつアンケート調査の回収率が上がることが期待できるが、アンケート回答があったものは原則としてすべて事例カードにすることが求められているため、地価公示鑑定評価員にとっては現地調査等の作業が増えることが考えられる。
また、鑑定協会としては情報管理の徹底、個人情報保護法に関するガイドラインの作成等を行うことが必要になる等、個別には検討課題があるが、基本的にはいい方向であるので、この仕組みに取り組む体制を確立していきたいとの提案があり、協議した結果、これを承認した。
関連して、事務局から現在資料委員会において事例資料等の収集・管理・閲覧体制について検討を行い、規程の見直しを行っている。この仕組みを受け入れるためには、協会として利用者、管理者の責任体制について外部に対して説明できるよう整理していく必要がある。士協会等の意見をいただきながら規程を見直すとともに、この仕組みのスムーズな制度化に努めていきたいとの説明が行われた。    『以上協会サイトより抜粋』
従来、地価公示或いは地価調査等作業に際しての取引事例収集は、異動通知書を閲覧し、その閲覧結果を基礎にして取引当事者に各種の方法で照会を行って、取引価格を把握するという方法を中心として行われてきた。
この事例収集作業は筆写に始まるアナログ的作業形態から、異動通知書のデジタル化入力に始まる作業形態まで、照会方法や照会者態様も含めて全国的に見れば様々な作業形態が混在しているものである。
これを全国的に統一した手順・スキームで実施しようと云うものである。
その背景は、法務局の電算化がほぼ最終段階に至っており、従来は閲覧可能であった異動通知書が廃止もしくは、閲覧できなくなるという背景がある。
同時に、個人情報の取扱について、一層厳格な管理が要請されているという社会的背景も無視できないであろう。
さて、地価公示や地価調査に携わる不動産鑑定士にとっては、異動通知書閲覧作業から解放されると手放しで喜んでばかりもいられない。
委員会報告にある「全ての回答について事例化」という作業量の増加も無視できない問題である。従来であれば、公示・調査に必要な事例取引について、取引内容を照会し事例カード化すればよかった訳であるから、具体的な業務量は不明であるが、相当な業務量増加になるものと予想される。
また、何よりも問題なのは、情報の一極集中化が一層進行するのではなかろうかという懸念である。
茫猿がかねてより主張してきたことであるが、取引事例というものは取引価格の判明する事例と、価格が不明な事例とに分けられる。異動通知書の閲覧結果の集成は価格の未だ不明な取引事例資料である(広義の取引事例)。
これに対して、取引価格が判明しているものが一般的に取引事例と呼称され、公示・調査等の取引事例カード化された事例がここで云うところの狭義の取引事例である。
不動産鑑定士たる者は、前掲する狭義の取引事例だけでなく広義の取引事例も駆使して鑑定評価を行ってきた。広義の取引事例がなぜ必要か重要かという点については、以下の記事に述べてきたからここでは再掲しない。
※取引事例悉皆調査 『鄙からの発信』99/07/16
http://www.morishima.com/cgi-bin/np_boen/newspaper.cgi?action=view&code=985099381
そこで、茫猿が問題にするのは、新スキームにおいても評価対象エリアの全取引事例が利用可能であるか否かという点にある。専務理事説明の真意詳細は不明であるが、「アンケート回答があったものは原則としてすべて事例カード化」という点からして、アンケート回答のあった事例のみ公示・調査に携わる不動産鑑定士に開示というふうに限定的に解するならば、新スキームに双手を挙げて賛成という訳にはゆかない。
表現が大袈裟かもしれないが「木を見て、森を見ない」という状況になりかねない。また、下手をすると公示評価が事例作成優先業務に転落しかねない危険性を孕んでいるとも云える。
評価対象エリアの取引状況全容が把握できる状況を踏まえて、個々の事例(それは取引価格が判明する事例も未解明な事例も含めて)の相対的な位置付けを明らかにすることから、取引事例比較法の適用は開始されなければならないと考えるからである。
他にも、全面的なデジタル化が当然に予想されることから、情報管理体制の整備も重要であるが、同時にデジタル化情報を容易に取り扱えるだけの情報基盤整備も並行して準備されなければならないと考えるのである。
さらには資料委員会において同様の報告と並行して「GISを利用した地価マップの作成」が議題として審議されたことが報告されている。
これに関して云えば、アルプス社の「PESスマートソリューション」が、注目される。詳細は、下記URLよりデモを見て頂きたいが、このシステムの概要はベクトルデータ地図(座標地図)と取引事例や賃貸事例のテキストデータが簡単にリンクできるところにある。しかもWEB版にて複数のクライアントが共同利用できる点にも注目したい。
PESスマートソリューション利用の概略は次の通りである。
・データベースの項目定義を行う。(取引事例要因項目)
・事例テキストデータのインポート
・地図と事例データを所在地番によって照合し自動的にリンクさせる。
・地図上に事例地点をアイコン表示する。
その後のカスタマイズは様々なメニューが用意されているようであるが、事例収集新スキーム案に示されている、原始事例データ(所在地番、地積、取引時点)と地図が、自動的且つ簡易にリンクすることによる便益は計り知れないものがあるだろう。並行して公示・調査地点も地図上に表示させるであろうことは云うまでもない。
例えば、事例カード作成段階では主要な施設までの距離計測、都計用途地域の判定等が容易かつ自動的に行える。
評価作業段階では、評価対象エリア内の取引結果が素早く確実にかつビジュアルに把握できる。
さらに大胆に云えば、こう云った先駆的GISシステムの利用は従来型の取引事例比較法の適用作業処理手順を大きく変えてゆくであろう。
つまり、大量のデータを素早く確実に駆使できることから、限られた少数の事例を基礎にした比準価格試算手法から大量データに基づく試算手法の併用に進んでゆくであろうと予測する。
あえて併用と云うのは、限られた(選択した)少数の事例について精密な調査を行って得た取引事例を基礎とする比準価格と、大量データを駆使して得た市場資料分析結果とも云うべき比準価格が併存する状況が現れて来るであろうと予測するのである。これもかねてより茫猿が主張してきたことであるが、数値化土地価格比準表の採用によって、標準化補正や地域格差補正をデジタル的に行うということも検討されてよいであろう。
誤解の無いように付け加えますが、デジタル化だけが全てではありません。
しかし、デジタル化、ネットワーク化が世間の大勢である以上、その動きに背を向けていることは許されないでしょう。
取引事例だけに限りませんが、取引事例に関してだけでも、地図システムを採用し、地形図についてもデジタル化入力を行い、さらには事例地のデジタル写真貼付などが要求される時期は目前に迫っていることであろうと予測します。
それらについて不用意に取り組めば、単にコスト増を招くだけでしょう。
フレームとかスキームと云う様なカタカナ語に惑わされず、全体構造・構図を正しく柔軟に描くことから始めなければなりません。
同時に、どのような事態にも対応できるような柔軟な基盤整備(情報ネットワーク基盤の整備)も必須でありましょう。
そういった観点からすれば、全国一斉に新スキーム着手は危険が大きいと云えましょう。初年度はパイロット地区(士協会)を指定して、実験と検証作業を行うべきでしょう。また、このパイロット作業は可能な限り早く着手すべきであろうと考えます。パイロット作業によって実際業務上の問題点洗い出しが可能でしょうし、全国導入へ向けたスキーム・フレームの改良も可能だと考えるからです。
アルプス社
http://www.alpsmap.jp/
プロアトラス・エンタープライズ・サーバスマートソリューション
http://www.alpsmap.jp/software/pes_ss/index.htm
操作デモ
http://www.alpsmap.jp/software/pes_ss/demo.htm
『以下は、サイト上でのアルプス社の惹句です。』
手軽に導入できるプロアトラス・エンタープライズ・サーバスマートソリューションを使えば、地図データとロケーション位置情報(緯度経度座標をマッピング・プロット・マーキング)を利用して、ビジネスの効率化を図ることが可能です。
導入コストも安く、物件のデータを手軽に空間データ化できるプロアトラス・エンタープライズ・サーバ・スマートソリューションを採用し、マッピング・プロット・マーキングを行う。
どの鑑定事務所からでも同じ事例資料の検索閲覧が可能になったうえ、距離検索もできる為、評価対象エリアに応じてすぐに検索条件に添う資料を地図上のエリア図にして一括表示できるようになり、説得力のあるスピーディな評価作業が可能となった。さらに、携帯デジカメで撮影した事例地現況などの画像も現場から更新できるようになり、常に最新の情報を提供できるようになった。
(表現の一部を、不動産業対応表現から鑑定対応表現に変えています。)

関連の記事


カテゴリー: REA-NET構築 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください