ミネルバのふくろう-2

【茫猿遠吠:ミネルバのふくろう-2:05.01.21】
 今年は阪神淡路震災10年目の年である。
そして、戦後60年の節目の年である。(戦後は還暦を迎えた)
年頭に
『ミネルバのふくろうは、黄昏(たそがれ)とともに飛びはじめる』
と書きました。日々の事象現象に振り回されるばかりでなく、
一歩引いて、立ち止まって真理や哲理を考えてみたい。
そんな心づもりを書きました。
 某日のNHKラジオで、吉永小百合さんが語っていました。
彼女は今年3月に還暦を迎えられるそうですが、
「戦後で在り続けてほしい」と言われています。
含蓄の深い言葉だと思います。
戦後を戦後でなくそうとする風潮に釘をさす言葉です。
彼女はイラク派兵に反対し、憲法9条を大事にとも話されました。
「サユリスト」たる者、今一度この言葉を噛み締めたいと思います。
 さて、お約束の書評を書こうかと思いましたが、止めることにします。
代わりに、ブックサービスの書籍紹介を転載します。
全て購入しても、8千円弱のことですから、ご自分で購入されて
お読み頂きたいと思います。
どの書籍も、不動産に関わろうと関わるまいと、何かを考えたいと思う人ならば、
是非ともお読み頂きたい書籍です。
※クロネコ・ブックサービス(着払いあり)
http://market.bookservice.co.jp/top/index.html
 読む順番は、掲載順がよろしいと思います。
住宅喪失、封印される不平等、希望格差社会と読み進むたびに、
とても暗い気持ちになるでしょう。
しかし、現実を改めて認識するには必要な作業といえましょう。
その上で、だまされることの責任、農から見た日本を読めば、
怒りを通り越して、呆れるかもしれません。
戦後60年が一体全体なんであったのかと、暗然とするかもしれません。
でも、そこからスタートする以外にないのです。
出発点を見出せば、少しは救いの灯明が見いだせるかもしれません。
 鄙からの発信が『鄙からの発信』である所以は、
農林漁業というものが、単に産業としての農林漁業であるのみでなく、
日本の原風景を下支えする生業(ナリワイ)であることに由来します。
 山林が木材生産の場だけでなく、酸素供給の場であり、水資源保全の場であ
るように、農地が農作物生産の場であるだけでなく、故郷の原風景を維持する
場であり、環境保全の場であるように、港や浜が水産物生産の場だけでなく、
河川や海浜の保全の場であるように、背景やトータルコストを考えたいのです。
 そういった原点を考える意味で、紹介する書籍は何かの役にたつでしょう。
特に「農から見た日本」は、都会に居住して日常的には農業が見えない人々に
役にたつでしょう。軽妙な語り口ですが、著者の山下惣一氏は永年にわたって、
佐賀県唐津市に居住し農業を生業(ナリワイ)としながら、多くの啓蒙・警告書
を世に問うてこられた方です。
 今や、氏は語り続けることに疲れて、遺書として「農から見た日本」を上梓
された訳です。軽妙な語り口だからこそ、その陰に潜む氏の慨嘆がよけいに強く
心に迫ってくる本です。
 農地や林地といった土地を何処に位置づけるか、単に住宅地の予備軍と位置
づけるだけでは解決できない多くの示唆を得られます。都会ではひたすら農家
を非難することに明け暮れてきました。そして、自分たちの食料も環境も
金を出せばなんとかなると考えてきました。でも、そうではないのです。
 飲料水一つとっても、コンビニで買えば済むと云われそうですが、実はそう
ではないことに都会の消費者が気付くべき時期が近づいています。
 農林業生産者を批判し、非難し、スケープゴートに貶めておけば済む風潮は
安楽でしょうが、気付いたら農家が居なくなり、林業家が居なくなり、
身近な小売商店が居なくなり、住宅とコンビニとスーパーマーケットと工場しかない
地域社会『消費者と大手資本系列店舗で構成される地域社会』を迎えてからでは遅すぎるのです。
 そのことはフェアトレードの思想を国内外的に考える基礎となります。
地産地消に根ざした身許の明るい健康的な食生活を始めるスタートとなります。
 度々申していますが勝ち組とか逃げ切り組などと云う表現は嫌いです。
とても品の無い、薄汚い表現だと思います。でも、それに近い現実が存在する
ことに目を背けることは許されないと考えます。
 蛇足的に云えば、勝ち組を誇ることや逃げ切り組を自称することが、
品のないことであり、薄汚い品性をさらけ出すことなのでしょう。
何かを始めるに際して、自分の来し方行く末を考えるに際して、自分の立ち居
振る舞いを見直すときに、「品性や如何」と考えることが少なくなったように
思います。
行動規範に「品性や如何」を据えることが、問われていると思うのです。
次回「ミネルバのふくろう-3」では、全く違った角度から書籍紹介をします。
『住宅喪失』
著者名 : 島本慈子    出版社名 : 筑摩書房
出版年月 : 2005年 01月出版  税込価格 : \735
     
第1章 「人が住まいを失うとき」
第2章 地すべりを起こす雇用
第3章 住宅ローンの新たな戦略
第4章 マンションを追われて
第5章 日本の住まいはどこへ行く
第6章 迫り来る列島大地震
補章 住宅に関する政党アンケート
震災から十年。変貌するこの国の住宅政策を鋭く撃つ衝撃の書。
『封印される不平等』
著者名 : 橘木 俊詔【編著】  出版社名 : 東洋経済新報社
出版年月 : 2004年 07月出版   税込価格 : \1890
     
第1部 競争社会において封印される不平等を語る
・競争のチャンスそのものがない社会
・能力と運と不平等
・日本が向かっている競争社会は、旧ソ連への道だ
・モデルなき道を進め
第2部 不平等化の理論的・実証的な背景と政策問題
・不平等化が進んでいる
・機会不平等社会の盲点
・結果の不平等をどこまで認めるか
・競争社会と公平な社会は両立できるか
 日本の社会は今、大きく分断されつつある。
1つは、アメリカ型の競争社会の到来を喜び、格差の大きい社会こそ効率的な
社会だと信じるグループ、いわゆる勝ち組であり、
 もう1つは、繰り広げられる競争から知らぬ間に締め出されつつあることに
気づかないまま、「自己責任」の言葉で負け組としての生活を強いられるグルー
プである。
 どちらのグループからもひろがりつつある日本の「機会不平等」は
目を背けられ、「封印」されている。
『希望格差社会』
著者名 : 山田昌弘      出版社名 : 筑摩書房
出版年月 : 2004年 11月出版  税込価格 : \1995
     
1 不安定化する社会の中で
2 リスク化する日本社会―現代のリスクの特徴
3 二極化する日本社会―引き裂かれる社会
4 戦後安定社会の構造―安心社会の形成と条件
5 職業の不安定化―ニューエコノミーのもたらすもの
6 家族の不安定化―ライフコースが予測不可能となる
7 教育の不安定化―パイプラインの機能不全
8 希望の喪失―リスクからの逃走
9 いま何ができるのか、すべきなのか
 職業・家庭・教育、そのすべてが不安定化しているリスク社会日本。
「勝ち組」と「負け組」の格差が、いやおうなく拡大するなかで、
「努力は報われない」と感じた人々から「希望」が消滅していく。
将来に希望がもてる人と、将来に絶望している人の分裂、
これが「希望格差社会」である。
『だまされることの責任』
著者名 : 佐高 信 魚住 昭【著】  出版社名 : 高文研
出版年月 : 2004年 08月出版      税込価格 : \1575
1“国民的英雄”中坊公平が果たした役割
・「中坊幻想」から目が覚めた理由「統治主体意識」を説く欺瞞ほか
2“タカ派”と“宗教”の癒着が腐食させる民主主義
・なぜ少数意見・異論が排除されるようになったのか
・自公連立がもたらしたものほか
3戦前から戦後へ連綿と続く「無責任体制」
・石原莞爾‐辻政信責任ライン、「国家」を背負う瀬島龍三ほか
4「自己」を溶かす日本人
・スターリン感謝運動、リクルートの「社畜」適性検査ほか
5伊丹万作「戦争責任者の問題」と六〇年後の日本
・日本人にとっての「自己責任」「戦争責任者の問題」の危険性
 1945年日本敗戦、日本人の多くは「だまされた」と言った。
 そして60年後の今、再び「だまされた」と人々は言うのか。
『農から見た日本』
著者名 : 山下惣一       出版社名 : 清流出版
出版年月 : 2004年 07月出版   税込価格 : \1575
     
「肥汲み」に悩んだ少年の頃 村から家から「逃げろや逃げろ!」
農村改革に邁進した日々 「米を食べると馬鹿になる」だって!?
農家も国も食糧の自給を放棄、減反政策は日本文化の否定
日本は「命の源」の農業を放棄、ミカンは家族の団らんの象徴だ
「先憂後楽」から「先楽後憂」「オレの跡を継ぐな!」〔ほか〕
 ある農民作家の遺書
持続的、永続的な農業と安全な食と健やかな暮らしを目指すとすれば、
この半世紀で壊してしまったこの三つの修復、
回復しかないと著者は考えています。
 それは直線的に昔に帰ることではなく、現代の技術と知恵で原理原則を、
決して行き詰まることのない循環に転換していくということです。
きっと時代はそう動いていくでしょう。
それぞれの立場で、やれる範囲で一人でも多くの人が
その流れに加わって下さることを祈るのみです。
私たちは、なにを切り捨ててきたのか?
なぜ失ったのか?日本の真実が見えてくる。

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