評価額の見積合わせ

 表題は「評価報酬額の見積合わせ」の間違いではありません。かねてから水面下で囁かれていた、REIT等証券化不動産評価の発注に際して、複数の評価業者に評価簡易査定を依頼して、最上位査定額を提示した評価業者に評価依頼を行うという行儀の悪い行為が横行しているという噂がありましたが、08/06/17付け証券取引等監視委員会の金融庁宛の勧告が、その実態を明らかにしています。


 「08/06/17付けプロスペクト・レジデンシャル・アドバイザーズ株式会社に対する検査結果に基づく勧告について」(証券取引等監視委員会)は、不動産鑑定評価と記載しておりますが、茫猿としては鑑定評価業者の行為に値しないものと考えますので、あえて「評価査定業者」と表記しています。つまり、当該勧告に関わる業者は、不動産鑑定事務所などではなく、ただの評価・査定業者にしかすぎないという意味です。
 評価報酬額についての見積もり合わせならば、地価調査業務受託に際してさえ入札が行われている実態からすればありえることだし、渋々ながら容認もできます。
 しかし、事柄は評価額に関することです。評価額について簡易査定を依頼し、その依頼に応じた業者の内から、最上位評価額を提示した業者に評価発注を行うという行為は、REIT関係法人にも許されない行為です。もし、高額評価書類が得たいのであれば複数の業者に評価業務発注を行い、そのうち上位の評価書を採用すればよいのです。

 『証券化不動産の評価行為として、直ちによいとは云えませんが、許容でき得る範囲とは云えましょう。もちろんのこと、その背景として、評価業者への不当な節度を越えた働きかけ行為がないという前提付きです。』 

 こういうことです。
「先生 (こういう時に限って、笑顔で、ときに揉み手をしながら、先生、先生と言うのです。 だから、茫猿は先生と言われるのが嫌いなのですけれど。 それはさておき) お願いしますよ。目一杯高く評価して下さいよ。 次回も、ぜひとも先生に評価をお願いしたいですから、ネッ、ネッ」という囁きとともに評価依頼が行われるのです。
 ところが、今回の証券取引等監視委員会勧告は、そんな生易しいものではない実態を伝えています。
末尾に勧告書の抜粋を掲載しておきますが、この事件に関与した評価業者は「鑑定評価倫理綱領」に違反するものであり、不動産鑑定評価に関する法律第5条並びに「不動産鑑定評価基準」にも抵触する行為と考えます。日本不動産鑑定協会がどのような行動を起こすか、社会は注目しているであろうと考えますし、協会の自浄能力が問われている事件だと考えます。関与評価業者名については、REIT掲示板の「プロスペクト・レジデンシャル投資法人」に関わるスレッドに詳しいですから、そちらをご参照下さい。また同投資法人の公開する情報をご覧になってもよいでしょう。
 プロスペクト・レジデンシャル投資法人が評価を依頼した評価業者の全てが、簡易査定見積もり合わせに応じた結果なのか否かは定かではありません。しかし、浮かび上がってくる業者名は、その代表者が鑑定協会の理事役員に名を連ねるような著名業者が多いだけに、茫猿は「ブルータス、お前までもか!!」という心境です。不良投資法人とお付き合いをすれば、その結果は投資法人自らが開示すると承知していながら、なぜ評価依頼を受託したのか、評価額見積もり合わせに参加したのか、茫猿にはとても理解できません。何よりもそれら評価業者に働く鑑定士達の心情を思えば、とても哀しくなります。
 「比準価格より高い収益価格の横行」、「特定価格を隠れ蓑にした、DCF法収益価格の杜撰さ」、「DCF法に潜む、飴細工的トリック」、「DCF法は精緻ですからと、うそぶく業界の著名人の数々」  鑑定協会は今や二つに分離すべきではないかと思われます。証券化等特定価格を指向する評価業者で構成される「DCF評価業者協会」と、地価公示や地価調査、固定資産税評価並びに取引価格情報開示制度に協力し、悉皆調査:不動産センサスに積極的に取り組む「不動産鑑定士協会」とに別れるべき時期がきていると申しても言い過ぎではないでしょう。少なくとも、不良債権の処理を目指したようなREITに奉仕するだけの鑑定評価基準は再改訂を国土交通省に申し入れて、特定価格について本来の姿に早く戻すべきでしょう。
 念のために申し添えておきますが、鑑定評価基準が悪いのではありません。それを悪用した評価業者が責められるべきものです。 が、しかし、そのような恣意的解釈や跳梁跋扈を許しかねない鑑定評価基準も不備ありと云わざるを得ないのです。
 REIT等証券化不動産の鑑定評価に対して社会が求めたのは、投資法人の添付付属資料や護符ではなかったはずです。監査の引き受け手が現れない企業は自ら襟を糺すか市場から消えるしかないのと同様に、鑑定評価の引き受け手が現れない証券化投資案件や投資法人は市場から淘汰されてゆく、その監視者としての役割が求められていたはずです。「ナノニ、アーソレナノニ」と今更云っても詮方ないことですが、証券化不動産鑑定に関わるモニター制度やレビューの生ぬるさを見ていても、我々鑑定協会の自治、自浄能力が乏しく、自縄自縛に陥っているさまが、我がことながら哀れです。
【蛇足】
 今回の勧告において、所管庁でもない証券取引等監視委員会が不動産鑑定評価に踏み込んだ勧告を公表した背景には、金融庁が平成19年9月14日より不動産鑑定士職員を募集していることがあると考えられます。他者の庭先のことをとやかく言わないのが霞ヶ関の従来からのマナーでしたが、自者内に不動産鑑定士資格を有する職員がいれば話は別物です。金融庁に鑑定士が在籍することの反映がこの勧告に現れていると云えば穿ちすぎでしょうか。別の表現をすれば、金融庁が鑑定業界のお行儀の悪さに辟易した時期がこの頃と云えましょう。

プロスペクト・レジデンシャル・アドバイザーズ株式会社に対する検査結果に基づく勧告について
平成20年6月17日 証券取引等監視委員会
1.勧告の内容
証券取引等監視委員会は、プロスペクト・レジデンシャル・アドバイザーズ株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長 真木 剛、資本金2億円、役職員18名)を検査した結果、下記のとおり、当該金融商品取引業者に係る法令違反等の事実が認められたので、本日、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、金融庁設置法第20条第1項の規定に基づき、行政処分を行うよう勧告した。
2.事実関係
(1) 不適切な利益相反管理態勢
プロスペクト・レジデンシャル・アドバイザーズ株式会社(以下「当社」という。)は、プロスペクト・レジデンシャル投資法人(以下「本投資法人」という。)との間で締結した資産の運用に係る委託契約に基づき行っている本投資法人の資産の運用において、当社の親会社等の利害関係を有する者(以下「当社の利害関係者」という。)からの取得となる不動産の鑑定評価を依頼するに際し、以下のとおり、利益相反防止の観点から問題となる、不動産鑑定業者の独立性を損なう不適切な働きかけを行い、また、不適切な不動産鑑定業者選定プロセスをとっていた。
① 不動産鑑定業者への不適切な働きかけ
当社は、当社の利害関係者からの取得となる3物件の不動産の鑑定評価を依頼するに際し、概算の鑑定評価額(以下「概算評価額」という。)の算定を依頼した不動産鑑定業者に対し、売主の売却希望価格と同額以上で概算評価額の算定をするよう依頼し、不動産鑑定業者の独立性を損なう不適切な働きかけを行い、特に、うち1物件の不動産については、概算評価額が売主の売却希望価格に必ず到達するよう、特段の働きかけを行っていた。
② 不適切な不動産鑑定業者選定プロセス
当社は、当社の利害関係者からの取得となる5物件の不動産の鑑定評価を依頼するに際し、複数の不動産鑑定業者に対し、売主の売却希望価格を伝えたうえで概算評価額の算定を依頼し、概算評価額が売主の売却希望価格に達しない場合には、当該希望価格以上又はそれに近似する額が提示されるまで、不動産鑑定業者を追加して概算評価額の算定を依頼するとともに、いずれの物件についても、最高価格であり、売主の売却希望価格以上又はそれに近似する概算評価額を提示した不動産鑑定業者に鑑定評価を依頼する、売主の売却希望価格を最優先とした不適切な不動産鑑定業者選定プロセスをとっていた。
当社の利益相反管理態勢は著しく不十分であり、金融商品取引法第51条の規定による業務の運営の状況の改善に必要な措置をとることを命ずることができる場合の要件となる「業務の運営の状況に関し、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるとき」に該当するものと認められる。
(2) 不動産鑑定業者に対する不適切な資料提供に係る善管注意義務違反
当社は、当社の利害関係者からの取得となる不動産の鑑定評価を依頼するに際し、不動産鑑定業者に対し、不適切な資料の提供をし、必要な資料の提供をしなかった。
当社が行った上記行為は、「投資法人に対し、善良な管理者の注意をもつて当該投資法人の資産の運用に係る業務を遂行しなければならない」ことを定めた投資信託及び投資法人に関する法律(ただし、平成18年法律第65号による改正前のもの)第34条の2第2項に違反するものと認められる。

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