水無月二日

水無月の名のとおりに、カラカラ天気が続いている。畑を耕すと土ホコリが起つ有り様である。母が逝ってからもう二十日あまりが過ぎ、後始末も随分と進んだ。屋内の片づけは取り敢えず一段落したし、納屋や畑もそれなりに一区切りである。 七七忌法要の案内状も出したし、医療及び介護保険関係の書類提出も支払いもあらまし済んだ。 お世話になった関係先への挨拶廻りも、ようやくに終えたところである。


時間が経てば少しは薄らいでゆくだろうと思っていたが、逆である。悔いとも焦燥ともつかない思いが沸き立ってくる。前期と後期の老人二人だけの住まいだし仕事も控えているから、日々追いたてるものは少ない。多少の事柄などは投げ遣りに打ち捨てているから、過ぎ去った断片的な一つ一つが今さらにつながってくる。 それにしても、あまりにもあっけなかったと思える。今だから言えるのであろうが、やはりあっけなかったし早すぎた。まだまだ飽いても倦ねても疲れてもいなかったと振り返るのであるが。

母を亡くしていちばんに想うことは、人の死はありふれている、日常茶飯ごとである。それでも我が母の死はたった一つのことであり、かけがえのないことなのである。
『鄙からの発信』の更新が間遠になっているのは判っている。ストック記事は断片も含めれば数本あるが、いずれも”ボツ”が当然の駄モノなので、更新する気にはならない。
 水無月といえば、夏越祓の菓子、水無月の季節である。この季節のミナズキには思い入れがある。

ところで一年前、私は何を考えていたのだろうと、ふと気になる。(09/05/19:手紙&サンカク)

 5/19 大垣市民病院にて、MRIやFDG-PET等検査を受ける母に付き添って。
(病名告知を受けて、しばらく後のことである。)
母の椅子  押して長き  廊下あゆむ
いす停めて  トイレ待つ我は  遠き見ゆ
車いす  たたみ方知らず  教えこう
朝十時より午後四時まで、母のお喋りにつきあい、「車いすの方です。」と申し継ぐ病院のスタッフの心遣いに感謝しながら、”手紙”の歌詞を思い出すともなく思い出していました。

来週には一連の検査結果を伺う予定ですが、自らのありようも含めて老いてゆくと云うことを、さりげなく受けとめてゆく、そう、さりげなく、そして平らかに受けとめてゆく、そんな人生の季節に自らが居るのだと思っています。

畑にいると、母は何を考えながら野良仕事をしてたのであろうと、とても気になる。
(09/11/08 艶蕗の花)

 太い枝を切り落とし、細かい枝の剪定をしながら、親爺は毎冬に何を考えながら剪定をしてたのだろうかと考えた。 親爺だけでなく母(89歳)だって、毎日、何を考えながら畑の手入れをしているのだろうかと思わされる。 随分と耳が遠くなって日常会話すら聞き分けられないのに、年間365日、雨が降らなければ畑に出ている母である。 親爺は毎日ではないが、それでも雨降りでなければ、読書三昧のあいま、夕刻前の二、三時間は畑に出て何やら動いている。

柿の木も今の倍以上あったし、陸稲、麦、薩摩芋を作っていた戦後間もない頃と異なり、収穫物を換金するわけではないし、日々の食材をまかなうには十分に足りている畑仕事である。 汗水流して大根や葱や蕪や里芋や馬鈴薯や白菜や茄子や胡瓜、莢豌豆を育てても、それだけでは食膳は単調になる。特に冬場は青野菜に欠けることとなる。 たぶん、何十年も続けてきたから、畑仕事が習い性になっているのだろうと思う。 母親の口癖に、「やたらと作っても仕方がないが、畑を荒らして草茫々にしておくわけにはゆかない。」というのがある。

病床で母が語っていたことを、急に思い出す。我が茅屋には”ドーゾー”と呼んでいる一画がある。其処は戦前に、母が嫁いでくる前に亡くなった祖父が、生前に造ったものの今は荒れている庭がある。
母は云う。「ドーゾーで草取りをしながらお祖父さんに謝っている。アチコチ痛んでいる処を修理もしなければいけないが、何もできない。せめて草を抜き、お祖父さん、済みませんと謝りながら、掃除をしているのだよ。」

母の一生とは何だったのであろうか、子供の成長、我が家の生計の維持、いつからかは孫たちの成長、最期まで孫たちのことを気づかいながら逝った母。
乾いた畑に花の苗を植えてみた。霊前を飾ることができればと思うものの、この日照りに無事に育つかどうかは判らない。

母や父の歳まで生き長らえることができるとすれば、あと四半世紀、それとても明日やも知れないし、年末かも知れないし来春かも知れない。 間違いもなく第四コーナーを廻ってしまった茫猿なのである。 何がしたいのか、何をすべきなのか、我と我が身に納得できる”日々”とまでは無理だろうが、せめて後悔に苛まれる”日々”だけは願い下げにしたいものである。

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