新スキームの行方

新スキームのあり方が話題になっている。しかもスノビズム的〔snobbism〕に話題になっている。どういうことかと言えば、さる6月1日に公表された不動産鑑定業将来ビジョン研究会報告書のⅢに明らかにされている。
報告書のⅢは「ビジョン実現に向けた取り組みの提案」を行っており、(1)研修の充実、(2)情報・データベースの整備、(3)取引価格情報提供制度(新スキーム)を通じた事例情報の収集・管理・利用体制の整備、以下(14)項に至るまで縷々述べられている。
幾つかのお題目はお題目として、見逃せないのが(3)項なのである。(3)項はこのように述べている。『取引事例を始めとする個人情報の安全管理について、データの取扱い可能な範囲を明確にする必要がある。その際、地価公示の鑑定評価員が事例作成のコストの多くを負担しているという観点から、鑑定業界の中での適正なコスト回収策として透明性の確保された閲覧制度等を構築し推進していくことがポイントとなる。』


これだけを読んで、アア、ソウイウコトカとお判りになる方は相当の事情通である。ざっと読んだだけでは何のことか判らないのが普通である。 その前に、茫猿が「新スキームの行方」を話題にするに、何故にビジョン研究会報告から入るのかと云えば、この研究会は今後の鑑定協会をリードしてゆくであろう方々で構成されるからである。
外部委員としては、岩城豊氏(国土交通省土地・水資源局地価調査課)、内部委員としては緒方新会長、熊倉、新藤副会長がメンバーである。いわばこのビジョン報告書というものは、今後二年間の鑑定協会運営指針とも、マニュフェストとも云ってよいものであろう。
そこで、「取引価格情報提供制度(新スキーム)を通じた事例情報の収集・管理・利用体制の整備」は、何を言わんとするのかである。

・鑑定協会と士協会は、透明性の確保、情報管理等についてのこれまでの取組を速やかに検証し、その改善点も含めて明確にする。

要するに情報管理主体について鑑定協会と士協会の棲み分けを明確にしようというのであろう。いまだに安全管理上の問題点を指摘されている士協会などがあると云うからには、それら士協会の閲覧体制については速やかに問題点の改善を求めるというのであろう。

・取引事例を始めとする個人情報の安全管理について、データの取扱い可能な範囲を明確にする必要がある。

要するに開示データと非開示データを明確にしようというのであろうが、06/21総会質問のなかで新スキーム一次データの開示に関連する質問がありました。これに対する理事者答弁はデータの集計結果に終始していました。個々の具体データについては意識してか、無関心なのか判りませんが、全く言及は有りませんでした。この問題についてここで言及はしませんが、一次データが有している具体的取引情報の価値については、茫猿と認識を大きく異にしているのは紛れもないことのようです。

・地価公示の鑑定評価員が事例作成のコストの多くを負担しているという観点から、鑑定業界の中での適正なコスト回収策として透明性の確保された閲覧制度等を構築し推進していくことがポイントとなる。一部の士協会で検討されているログによる使用履歴の管理等も具体的な方策として検討していくことが効果的である。

この項が新スキーム関連事項の眼目なのである。 閲覧制度のなかで事例作成コストを回収し、地価公示評価員の負担に報いたいということである。 透明性が確保されたコスト回収策は、ログによる使用履歴の管理を行うということである。
このビジョン研究会報告を受けて、06/20に開催された士協会会長会議には「新スキーム特別委員会と不動産取引価格情報提供制度」と題する50頁ものリポートが提出されたのである。 茫猿はこのリポートを入手して二度三度と読んでみたが、何を伝えたいのかさっぱり判らない。 現状認識はともかくとして、(現状認識にも幾つかの問題点があるのだが。)どの方向に改善したいのかさっぱり見えてこないのである。
先ず、目的として掲げる「新スキームで収集した事例を一般鑑定で使用することについて整理を行う。」とあるのは、何を意味するのであろうか理解できない。 大手を振って一般鑑定の事例資料として使いたいと云うのであれば、それは戯言に過ぎないと云わざるを得ない。 不動産取引価格情報提供制度は国が施行する事業であり、その事業成果を一業界の業益のために利用して良かろうと考えること自体が井蛙である所以であろう。
他にも「パートナーシップ型へ漸次移行する。」とあるのだが、誰と誰がパートナーになるのか、そこに形成されるパートナーシップとは何ものなのか、何も説明されてはいないのである。 安全管理措置については、何を今さらなのであるし、三次データ閲覧の実現に至っては「情報アクセス手段を自ら縛っておきながら、」これまた何を今さらなのである。
この問題、『取引事例:悉皆調査』問題は至極単純なのである。
一、大義を背景とする。
個人情報保護法施行以来、移動通知書にアクセスできなくなった鑑定士は、地価公示スキームのなかで、取引価格情報開示という大義を背景にして、一括して悉皆的照会調査を全国的に展開しているのであり、既に7年を経過しているのである。
二、50年の実績:デファクトスタンダード
なお、地価公示等スキームのなかで事例調査を行っているのは、何も今に始まったことではなく、地価公示施行以来既に50年近い実績を有しているし、収集データの多面的な利活用についても半世紀にわたる実績とデータの蓄積を有しているのである。
三、オンライン管理
デジタルデータとして既に存在している収集データを利活用(閲覧)するには、オンラインネットワークを介して行うものであり、データファイルの安全管理という観点からすれば、それ以外の方法は有り得ないのである。 これも自明のことである。
四、ログ管理による課金及び経費支払
以上の一項から三項までを理解し実施すれば、閲覧に伴うログ管理も閲覧料徴収も、事例作成料配布も、速やかに簡易に実現可能なのである。これは、茫猿が過去記事で何度も提唱してきたことである。 ビジョン報告書がピジョン報告書になったり、棚ざらしにされたりしないことを祈るのである。
事例問題は微妙である。いわゆる地方圏では都市圏に事例提供を通じて奉仕しているとか、搾取されているという被害者意識が根強い。しかし、本当にそうなのか、実態はどうなのかについて未だ明らかさにされたとは聞いていない。 地方圏の鑑定士が下請け扱いされているとも聞くが、地方圏の実態はそれほどに貧困でも困窮してもいないので、下請けに甘んじているのは都市圏の一部鑑定士ではなかろうかと考えている。
いずれにしても事例閲覧問題だけを取り上げてもことは解決しないのであり、安値受注やClient Influence Problemを同時並行的に打開しなければ、マイナスのスパイラルは続くのである。 茫猿がRea NetやRea Mapと合わせてRea Reviewを提唱する所以はそこにある。
《閑話休題》
さて、改めて申し上げることでもないが、06/21総会を経て、筆者:森島信夫は(社)日本不動産鑑定協会理事に就任している。任期は新公益法人移行までの数ヶ月間、最大でも来年三月までの予定である。(遅くとも来春には移行認可の予定である。)
短命ではあるが、その間の当サイトにおける発言は、個人のものとか私的なものなどというケチなことは言わない。すべてひっくるめて森島信夫のものである。逃げも隠れもしないということであるし、理事会などで得た情報は特に秘守を求められない限り公開を原則とする。

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新スキームの行方 への1件のフィードバック

  1. 福田勝法 のコメント:

    拍手です。

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