続・新スキーム改善問題

八月に入り蝉時雨はアブラゼミからヒグラシへと移りつつあります。早朝に「カナ カナ」と鳴く声を聞きますと、「マダカイナ イツカイナ」とも聞こえて、もの寂しくもなります。秋はもう目の前です。
新スキーム改善問題に関連して匿名氏からフォローコメントをいただいております。問題の本質をよく理解され、具体的施策にも踏み込んだコメントです。 フォローコメントは読者の目に留まることが少なく、スルーされるのはモッタイナイと思いまして、茫猿のRESも併せて記事掲載します。


【匿名氏 2011年7月31日 17:10 】
清水氏の「新スキーム問題の根源」の要約と不動産鑑定業における問題点
1.不動産鑑定士・士協会の独占禁止法違反の疑いの指摘。
→独占禁止法違反は何も防御ができませんでした。
[問題点] 日本不動産鑑定協会が地価公示業務を一括受注していて独占禁止法違反の疑いがあったが、①収集・集計業務と、②企画調整補助業務に分割され、②のみ日本不動産鑑定協会が受注することとなった。
新スキーム問題とは直接リンクしないが、公正取引委員会の岐阜県不動産鑑定士協会に対する警告、沖縄県不動産鑑定士協会の契約の締結妨害ともとれる行為に対する謝罪、固定資産税評価の入札制度の導入などにより独占禁止法違反の疑いは解消しつつあるが、競売評価員の指名や企画競争入札制度などについては不透明度は維持されたままとなっている。
2.公示地価という公用利用のために集めているのに,なぜ取引事例を不動産鑑定業者・不動産鑑定士協会が管理し民業に利用しているのか。
→アンケート主体を国交省に変更して,一般鑑定への利用を「明記」することとした。
[問題点] 取引事例を不動産鑑定業者・各県不動産鑑定士協会が管理し民業に利用できるのか、根拠は無い。アンケート主体が国交省であり個人情報を含むものであるから、国土交通省が取引事例をすべて回収し、各県不動産鑑定士協会・日本不動産鑑定士協会と管理委託契約・利用契約等を結ぶべきと考えるが、何も行われていない。利用料の配分問題はそのあとで議論すべきこと。
3.固定資産税課において登記済み異動通知書を不動産鑑定業者が書き写し取引価格情報を収集する旧来の仕組みそのものが,法違反であることが判明。
→国交省は新スキームの構想を作り,法務省から0次データをもらうことに切り替えた。
[問題点] 移動通知情報の受け渡しルートが変わっただけ。地価公示そのものの有用性・利便性の向上は全くなされていない。地価公示評価員である不動産鑑定士ではなく、その補助者が地価公示評価業務を行っている例が多くあり、国土交通省はそれにも目をつむっている。地価公示評価員の評価能力を向上させる措置(士登録後3年以上のような基準ではなく、不動産鑑定評価書を審査し一定の評価能力のある鑑定士を選抜するシステム)を行うべきである。
【bouenから匿名氏への返信 2011年7月31日 22:36 】
独禁法問題に対処し、事例資料の鑑定評価利用に対する疑念を払拭するために、鑑定協会が主体的に運営する「不動産センサス」の創設を提案しているのですが、この新制度を創設したとしても、問題は解決できないのでしょうか。
また、解決するために「不動産センサス」に何を加え、何を削除したら良いのでしょうか、ご教示頂ければ幸いです。
【匿名氏 2011年8月 1日 23:13 】
森島様から難しい宿題をいただきました。私も不動産鑑定評価の現場にいますので、目線は同じだと思います。
新スキームの一番の問題点は、「成果が無い」ことだと考えています。
このスキームで収集された取引事例は国土交通省の土地総合情報システム_不動産取引価格情報検索のデーターベースとなっています。
土地総合情報システム_不動産取引価格情報検索
しかし、この不動産取引価格情報検索システムを使って○○市○○町○丁目で事例検索しても、20万円/㎡~80万円/㎡までのように幅があり、その土地がどこにあるのか、どういう形状をしているのか、どう使えというのかサッパリわからないことです。不動産鑑定士が見てもサッパリわからないのに、一般の方が見てわかるはずがありません。個人情報保護や犯罪誘発回避などが背景にあると考えますが、結局、国民にとって付加価値を生み出していない→予算をつけることができない→不動産鑑定士にとっては事例化作業の負荷だけ増えるという悪循環になっているのだと思います。
地価公示・地価調査で収集した取引事例の利用については、行政当局と管理委託契約・利用契約を結んで、正々堂々と利用すればいい、利用したいと思います。
土地総合情報ライブラリーの中に土地関連市場マンスリーレポートがあります。
「土地関連市場マンスリーレポート」
これらの分析は、国土交通省の職員が業務として作成すべきものなのかと疑問に思います。むしろ、不動産関係の公益法人が分析作成すべきものではないでしょうか。新スキームを不動産センサスに昇華するためには、これらの業務を取り込む必要があります。また、不動産センサスの一部として、地価公示・地価調査で収集した取引事例を元に「実勢路線価」なる会員制情報サイトを作成して課金収入を得る必要があると考えます。会員は、地方自治体、銀行、生保、農協など。評価技術の開発、ノウハウの蓄積が必要と思われます。
不動産鑑定評価業務に比較的近いところとして、固定資産税路線価、相続税路線価の付設業務があります。これらの業務を行っているのは、測量会社や建設コンサルタント会社などです。不動産センサスの一部として作成された「実勢路線価」が構築できれば、固定資産税路線価や相続税路線価の付設業務の取り込みは容易なのではないでしょうか。測量会社や建設コンサルタント会社とも競合しますので、各都道府県鑑定士協会単位で動いても独禁法違反にはなりません。
取引事例を見て、なぜ緯度経度情報がないのかいつも不思議に思っています。緯度経度情報はGoogle_Mapsで簡単に得られます(世界測地系WGS84)。取引事例作成時の必須記載事項とすべきだと思います。ちなみに、マピオンは日本測地系、国土数値情報の地価公示・地価調査ポイントのデータは直交座標系です。
Rea Review 制度については、資金的・労役的負担を発生させないというメリットがありますが、それが逆にデメリットなのではないでしょうか。つまり、資金的・労役的負担が発生しないということは収入にもつながらないため、鑑定業界全体を動かすことは難しいと思います。不動産証券化案件に限って言えば、評価書一部を鑑定協会に提出させ、鑑定協会が指名する不動産鑑定士がレビューを作成し、評価依頼者宛に発行するシステム(当然、報酬はいただく。1件8万円くらいでしょうか)が良いと考えています。金融庁も前向きな姿勢を示してくれるのではないでしょうか。
【bouenから匿名氏への返信 2011年8月 2日 05:30 】
早速のフォロー、有り難うございます。
貴兄が実態を的確に把握され、向かうべき方向性も確かであることに、敬服しております。
《匿名氏》 地価公示・地価調査で収集した取引事例の利用については、行政当局と管理委託契約・利用契約を結んで、正々堂々と利用すればいい、利用したいと思います。
(Bouen) 不動産センサスを提唱する真意はそこにあります。
《匿名氏》 土地関連市場マンスリーレポート等の分析は、国土交通省の職員が業務として作成すべきものなのかと疑問に思います。むしろ、不動産関係の公益法人が分析作成すべきものではないでしょうか。
(Bouen) 異論はございません。
《匿名氏》 取引事例を見て、なぜ緯度経度情報がないのかいつも不思議に思っています。
(Bouen) Rea Map の目指すところはそこにあり、Map Client の完成は、座標値取得を簡便化したと考えています。 JIREI 10 フォーマットにもようやく地理座標値フィールドが用意されたと聞いております。後は座標値を取得・入力するだけです。 とは申しても、この座標値の取得・入力を会員に理解して頂くのが難物です。(注、住居表示が施行されていないエリアはGoogle_Mapsが機能しません。)
《匿名氏》 取引事例を元に「実勢路線価」なる会員制情報サイトを作成して課金収入を得る必要があると考えます。
(Bouen) 不動産センサスの次のステージとして、ターゲット・テーマにしたい事業です。 不動産取引・悉皆調査を基礎とするニュービジネス創設を、常に考えていますが、協会の社団体質を考えれば別の組織も有りかと考えます。 別組織についても延長線上の発想では効果が乏しかろうと考えています。
《匿名氏》 Rea Review 制度については、資金的・労役的負担を発生させないというメリットがありますが、それが逆にデメリットなのではないでしょうか。
(Bouen) お説のとおりと考えます。 であればこそ、鑑定士には期待せず、鑑定評価依頼者のコンプライアンスやCSR(corporate social responsibility)に期待しているのです。
証券化案件について、ERの開示も無くて十万円以下の報酬でレビュー作成を引き受ける鑑定士が現れるのか疑問に思っています。 それよりも詳細データの開示、続いて評価書データのファイル化(鑑定評価のデータベース作成・開示)に向かえば、自ずと閾値が形成されると考えているのですが、如何なものでしょうか。
小生が協会に有しているポジションは平理事だけですし、しかも短期間です。 でも「新スキーム改善問題」は、この秋が正念場だと考えます。 この秋をいつもどおりの「Too Late Too Fuzzy & Too Little」にしてはならないと考えます。 とても陳腐な表現ですが、微力を尽くしたいと思っています。 是非とも匿名氏にお目にかかれる機会を得たいものと存じております。 せめて、寄稿をお願いできないでしょうか、できれば実名でお願いしたいのですが、匿名でも結構です。

関連の記事


カテゴリー: 鑑定協会 パーマリンク

続・新スキーム改善問題 への2件のフィードバック

  1. 匿名 のコメント:

    新スキームの取引事例作成問題は不動産鑑定士に負荷をかける結果となっていますが、不動産鑑定業界における重大な問題は、それを飛び越えたところにあると思います。
    それは、日本政府と地方自治体が有する財政赤字です。
    日本政府の平成23年度予算は92兆4116億円で、
    歳入内訳は、税収:40兆9270億円、その他収入:7兆1866億円、公債金:44兆2980億円
    です。(財務省ホームページより)
    http://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2011/seifuan23/yosan001.pdf
    この予算が絶望的なのは、歳入の半分が借金である点です。そして、国債に頼った予算編成の累積により、日本政府が有する借金は875兆8336億円(H23.8.3時点、日本の借金時計より)となっています。
    http://www.takarabe-hrj.co.jp/clockabout.html
    まるで、破綻に向けて一直線に突き進んでいるかのようです。公共事業予算削減により鑑定需要も大幅に縮小しており、今や不動産鑑定の入札で、40%・50%引きは当たり前で、中には80%引きの入札まで出てきています。クオリティの高い鑑定評価書を書こうとすればするほど、鑑定マーケットから退出を迫られる状況です。
    先日、日本不動産鑑定協会から送られてきた「鑑定のひろば」を見て”ゲエッ”と思ったのですが、H23.3.1~5.31の日本不動産鑑定協会への入会者は12人、退会者は50人となっていました。これが、今の不動産鑑定業界の置かれている状況をよく表していると思います。
    不動産鑑定士:北谷奈穂子さんのブログで、Mr.X 氏による論文「難しい試験に受かったのにやってられねー僕らの行く末は?」
    http://olive-fk.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/index.html
    が掲載されていますが、これから不動産鑑定業を行っていこう世代(私も含めて)は暗澹たる思いだと考えます。
    新スキームの問題は、より大きな問題の前では霞んで見えます。
    この業界を去る日が近いかもしれませんので、このまま匿名でいこうと思います。時々、こちらにも書き込みをさせていただきます。

  2. bouen のコメント:

     ご指摘の「鑑定のひろば」記事には、小生も驚いており、最近の趨勢を確かめてから一度記事にしたいと思っていました。 日本の現状については、小生の愚息などは日本から退場し海外に人生の場を求める選択も高い確率で有り得るなどと言います。
     そこまで問題検討の場を拡大しなくても、3.11大震災を前にして、かくも小さなコップの中の嵐にいつまでも拘泥していてよいのかと思わされます。 この問題がその姿を露わにするにつれて、多くの有力な会員から強固な現状維持論が語られるようになりましたことも、暗澹たる思いに沈ませます。
     業界の若手の皆様からは、「逃げ切ってしまった世代」にとやかく言われたくないというお話しにも、内心忸怩たるものがございます。 こんな問題から早く離れて、退隠生活を謳歌したいとも考えます。 いずれにしても、これらの問題の期限は10月一杯、遅くとも11月一杯と見極めています。 せめて、そこまでは微力をと考えているのです。
     是非とも時折は、辛口コメントをお寄せ下さい。お待ちしております。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください