収益還元法と a,Y,R

【茫猿遠吠・・収益還元法におけるa,Y,R・・03.10.10】
 03.10.08、大阪市内で開催された大阪府士協会主催の
「収益還元法におけるa,Y,R」と題するフォーラムに出席してきました。
その参加レポートです。
 云うまでもありませんが、
a:一期間の純収益(NOI、NCF)
  NOI:Net Operating Income NCF:Net Cash Flow
Y:割引率(Yield Rate 、Discount Rate)
R:還元利回り(Cap Rate) のことです。
 新領域のオピニオンリーダーとして迎えられたパネリストの各氏は
・奥田かつ枝氏 (緒方鑑定事務所)
・山下誠之氏 (日本不動産研究所)
・村上直樹氏 (東京建物株式会社)
・小林秀二氏 (不動産金融工学研究所)
・堀田勝巳氏 (堀田鑑定工学研究所)(コーデネーター) 以上です。
 当日参集されたパネリスト各氏は気鋭のオピニオンリーダーであり、斯界の
著名人ばかりです。奥田氏を皮切りに各氏の持ち時間約50分間で話された内容
は、要約するのも大変ですから、パネルディスカッションを中心に、茫猿の印
象のみをお伝えしてみます。
朝9:30から夕刻16:30に及ぶ長時間講義でしたから、茫猿の体力が附いてゆか
ず聞き間違いやメモ間違いがあるかもしれませんが、それは御容赦願います。
『新基準とa、Y、R』
 奥田氏は、所属事務所主宰者緒方瑞穂氏とともに新基準作成に深く関与され
た方であり、名高い才媛です。新基準の背景を熟知しているだけに、逆に歯切
れが悪くなるのはやむを得ないこととして、懇切丁寧な新基準収益還元法解説
は判り易い講義でした。
 新基準について、「妥協の産物」とか「所管庁押しつけ基準」という他パネ
リストからの批判に対して、奥田氏は鑑定協会が草案作りから深く関与してお
り「押しつけ、云々」は当たらないと反論されていました。「妥協云々」につ
いては細部に及べば及ぶほど異論続出であり調整が困難であったと述懐されて
いました。同時にパブリックオピニオン募集に際して、鑑定士からの意見送付
が少なかったとも云われました。
 国交省サイトに公開されている国土審議会土地政策分科会不動産鑑定評価部
会議事録に見る限りにおいて、部会事務局(国交省)の誘導とか主導は結構なも
のと茫猿は思うのですが、如何でしょうか。
 またパブリックコメント募集も改定案がほぼ確定してからのものであり、な
おかつ地価調査の最繁忙期に短い期間が与えられただけであり、鑑定士の意見
を十分に聞いたと云うには不満が残ります。
 鑑定協会としても、基準改訂に際して積極的に情報を公開し広く意見を求め
たと云えるかどうか疑問でしょう。というよりも、鑑定士自身に自ら鑑定基準
を作成しようと云う意欲があったのでしょうか。
基準は与えられるものと思っている方がいるようですし、基準を超えることな
ど論外という同輩も少なくない様に見ますけれど。
 なお、この件に関して山下氏は、同じく新基準作成に関与された立場から、
鑑定評価基準は最大公約数的フレームであり、その上にどのような実務指針を
構築するかが大切なことだと話されました。
・国土審議会土地政策分科会不動産鑑定評価部会URL
http://www.mlit.go.jp/singikai/kokudosin/fukan/fukan.html
・中間とりまとめ(今後の不動産鑑定評価のあり方について8/8発表)も、
掲載されています。
 他に奥田氏の発言で印象に残ったのは、「市場の流れを読むことは重要であ
るが、市場に追随することのないように留意すべき」と云われたことです。
永遠の真理でしょうし、深遠な哲理でもありましょう。
・緒方鑑定事務所URL
 http://www.ogata-office.co.jp/
・奥田氏の講義レポート「収益用不動産の評価~その論理と実際」
(アーク都市塾)
 http://www.academyhills.com/gijiroku/okuda/toshi.html
『不動産証券化評価とa、Y、R』
 山下氏は日本最大の鑑定機関に所属し、最先端業務である不動産の証券化プ
ロジェクトリーダーの立場から、同評価に於けるa、Y、Rを説明されました。
最先端業務に携わる自信に満ちたお話でしたが、なかで、「DCF法は価格を
試算する手法ではあるが、同時に目論見書等において価格決定に至る経過を説
明する資料でもある」と述べられたのが印象的でした。
 豊富な資料、経験、ノウハウ、人脈を有する研究所においても、Y決定の決
め手についてはまだまだ模索中であり、YはDCF法収益価格試算の重要因子
ではあるが、同時に価格決定後においてYの在り処が示され、その積み重ねが
経験則的にYを形作って行くと、茫猿は拝聴しましたが、いかがでしょうか。
 市場から得られる資料というものは、市場におけるプレイヤーの判断の収斂
する結果なのでしょう。それはまた価格確定後において傍証として説明因子を
構成するものなのでしょう。
山下氏の
「詳細な調査と分析に基づく評価が証券化の基礎」(アーク都市塾)
と題する講義録は下記URLへ
http://www.academyhills.com/gijiroku/okuda/toshi.html
『企業収益価値評価とa、Y、R』
 名門東京建物において企業収益評価を実践されている村上氏は、不動産鑑定
士は不動産評価に止まらず、企業収益評価に踏み込んだらよいのではと話され
ました。市場にアピールすれば需要は喚起できるとも話されました。
 同時に鑑定評価収益還元法を学ぶに際しては、企業評価論から入った方が理
解しやすいのではとも云われました。
 鑑定評価書がコモデティ化(安価で便利な商品化とでも訳せましょうか)して
いる市場では、より専門化してゆくことが大切であり、プロパテイマネージメ
ントや企業評価の市場は存在するし、鑑定評価書のレビュー的市場も存在する
だろうと話されました。
 さらに、Y及びRに関しては山下氏や小林氏も含めて、一様にJREITに
言及されたことも述べておかねばならないでしょう。
・氏の勤務する東京建物(株)URL
 http://www.tatemono.com/
・なかでも、東京リデザイン・プロジェクト
 http://www.tokyo-re-design.com/index_f.html
『不動産金融工学とa、Y、R』
 不動産鑑定士である前に、アナリストである小林氏は、ファイナンスアナリ
ストの立場から、モンテカルロ法とかリアルオプションとか専門用語を駆使し
てお話されました。DCF法も万能ではないとも話されましたが、正直に申し
上げて茫猿の理解の範疇外です。
 定価120万円のダイナミックDCF法分析ソフト「FUJIYAMA」を使いこなす様な
局面に巡り会うことなどないようにと祈りつつ、眠りに墜ちた茫猿でした。
 コーディネーターの堀田氏が、「本日の講義で、小林氏は少数の信奉者を獲
得し、大多数のアンチ小林派を作り出した。」とコメントされましたが、少な
からぬ聴衆はアンチよりも何よりも、理解できたかどうか。
 ランダムヴォークもマルチンゲールも「酔っぱらい親父の足跡?」とか「白
衣の天使の縁者?」としか理解できない茫猿が言揚げできることではありませ
んが。 ま、Evaluation に掲載される、氏の執筆記事でも読んで下さい。
 小林氏に関しては、次のURLからもどうぞ。
 http://www.refe.co.jp/
 コーディネーター堀田氏については、下記URLをどうぞ
 http://www.kanteishi.net/
・・・・・・閑話休題・・・・・・
 奇しくも茫猿の記事量は、各氏の講義を茫猿が理解できた量に比例したよう
です。最先端で活躍する各氏の講義の一部は、茫猿も少しは理解できた様な気
分がしましたが、本当のところは何も理解できていないのでしょう。
 なにより、現場に立たないと付け焼き刃の半端知識など何ほどのこともない
でしょう。
 それでも、都会の先端分野の雰囲気にふれただけでも、佳しとしましょう。
 a、Y、Rについての言及もさることながら、総じていえば収益還元法とい
うツールを基礎にして新しい領域あるいは周辺領域に鑑定士がいかに関与して
ゆくかという論調が多かった様に思います。
 国土審鑑定部会中間取りまとめが「幅広い不動産の評価に関わるサービスが
求められており、実態上、他の専門業者が類似のサービスを提供可能な厳しい
競争環境にある。」と指摘することを踏まえて、公認会計士が監査業務とコン
サルタント業務を分離する必要性から生じる間隙を、鑑定士がつくべきであろ
うという示唆などは、茫猿にとっては、なるほどそういうものかと思うことで
した。
 東京山手線内に起きていることは、いずれそのままで或いは形を変えて鄙に
も波及してくることであり、その視点からすれば、a、Y、Rについてより深
い理解が求められていると受けとめましたと云えば、まとも過ぎましょうかね。
 その意味で村上氏が笑いをとった話が、ズシンと響きました。
「DCFソフトの真贋について、直接還元法と同じデータで試算すれば、両者
の価格は一致する。一致しなければソフトにバグあり。」というコメントです。
 当たり前といえば当たり前のことですが、直接還元法とDCF法の関係を端
的に表現した言葉でしょう。先ずは両価格が一致する状態から出発して、幾つ
かの因子を変化させて、価格及び各種数値がどのように移動して行くのかとい
うシミュレーションを行えば、a、Y、Rもより理解し易いのでしょう。
 なお、両者を比較するに際しては、未収入期間や購入売却費用そして、元利
逓増償還率の扱いに御注意あれ。
・・・・・・いつもの蛇足です・・・・・・
 「中間取りまとめ」について、改めて通読してみて、鑑定業界が置かれてい
る環境の厳しさを思い知りました。
・試験・研修制度の見直し
・組織形態の改善による多様な市場ニーズへの対応
・隣接、周辺業務の位置付けと行政による監督
・事業実績の開示
・鑑定業界としての共同の取組 等々
 いずれの事項も、厳しい指摘ばかりです。
企業合併や企業再生或いは独立法人化などに伴う、企業等保有不動産の大量・
広域・一括評価発注の荒波に揉まれているうちに、本来的な不動産鑑定評価の
環境は厳しさを増して行くばかりなのか、曙光が見え始めているのか、どちら
なのでしょう。茫猿には判りません。

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