数値・数量化比準表

先号記事“土地価格比準表[六次改訂]”で、茫猿は標準画地評価方式《間接比準方式》の否定とも受け取れかねない記述をしたが、標準画地方式(間接比準方式)を否定するつもりは毛頭ない。土地価格比準表の個別的要因と地域要因には重複が多く、煩瑣かつ重複補正を招きかねないと指摘するのみである。特に比準表を数値化及び数量化をする際に、画地条件以外の要因補正については重複による負の相乗効果を招きかねないと云うのである。

1969年の不動産鑑定評価 基準の改正に際して、1964年原初基準の市場資料比較法を取引事例比較法と名称変更し間接比準方式を採用した大きな理由は、不動産鑑定評価 の精緻化にあったと記憶する。 事例地近隣《類似地域》の標準画地を想定し事例地要因の標準化補正を行い、次いで地域格差補正、個別格差補正を行うことに論理的矛盾はない。しかし、電卓すら高価でありもっぱら算盤などに頼る、当時のアナログ的比準工程ならばそれが《見かけ上は》容易でも、パソコンを利用し、価格形成要因データの数値化及び数量化並びにデジタル化を行おうとする場合にはとても煩瑣である。何よりプログラミングに際して、アルゴリズム《計算方法》を確立するのが容易ではない。

採用する各事例地及び規準標準地・基準地ごとに、類似地域内標準画地を設定したうえで、各要因数値を取得し数値化及び数量化要因でもって標準化補正を行わなければならない。数件の事例地についてであればそれが可能であっても、デジタル化数値比準手法を採用するのであれば、可能な限り多数の事例地について比準結果を求めた上で検証作業を行い比準価格を決定するのが望ましいものであり、前記の作業を行うことは容易ではない以上に実益を伴わないのである。この件に関して、茫猿は後述のように考える。

【最初に断っておきますが、現場を離れて既に数年、巷では鑑定評価支援ソフトも多数出回っていると聞き及びます。それら市販支援ソフトのなかには後述する事柄などはとっくの昔に乗り越えて、より精緻かつ柔軟で簡便な鑑定評価支援ソフトが存在していることであろうと思います。お恥ずかしながら、六日の菖蒲  十日の菊は先刻承知の上で、関連する1999年以来の記事の整理の意味も込めて自説を述べるものです。茫老猿の戯言とお読み流しくだされば幸いです。※本稿末尾に、住宅地演算モデルのダウンロードURLを掲載しています。それを見ながら読んでいただければと思います。】

閑話休題 雨上がりの朝、長く水底にひそみ姿を見せなかった鯉が、ようやく水面に顔をのぞかせるようになった。そろそろ餌食いも活発になるのだろう。実は、池の鯉の写真を「鄙からの発信」にアップするのはこれが初めてである。記念される第一写である。以前といっても十数年前のこと、池に鯉がいた頃は写真をサイトに揚げるなど容易なことではなかった。《このこと一事を取り上げても、PC進化の目覚ましさを実感させる。》DSC08363

この記事に関係するPDFファイルを、ホームページ・TOPカバー写真の下・公開評価モデルに掲載しております。PDFファイルを閲覧あるいはダウンロードして、記事をお読みいただくと判りやすいかと思います。

一、数値比準表について
評価に際して作成する価格形成要因格差比準は、国土交通省監修の「土地価格比準表」に準拠した比準表を用いて格差率を判定する。 同比準表の各価格形成要因格差率は地域要因と個別的要因において重複するものが多数存在すること、並びに評価主体の判定に依存する要因が相当数存在する。それらの理由から、相乗効果等による誤謬を避けること及び格差判定精度の向上を目的として、評価案件に即して改訂を施した数値比準表を採用するものである。

誤解をさけるために付け加えれば、国土交通省監修の「土地価格比準表」の発行された目的は、国土利用計画法の施行に際して都道府県における価格審査担当者の便宜を図り、審査の適正さを担保するところにある。価格審査は地価公示・標準地価格または地価調査・基準地価格を規準として行われるから、標準化補正の件数も価格形成要因判定手数も実際上はそれほど煩瑣ではない。

さらに、最寄り駅の特性、公共施設の配置密度、社会環境の良否、商業施設の集積度等について、当該案件評価に際して作成した比準表において比準格差を判定しないのは、判定基礎資料が得られないこと或いは得るためには多くの困難が伴うこと、並びに該当事項の相当部分については他の価格形成要因に既に包含されていると考えることにある。と同時に、恣意的な判断を極力避けることにも留意するからである。

それらの評価主体の判定に基因する価格形成要因については「その他」要因で包括的に検討するものである。さらに比準価格の決定に際して重視する比準結果《事例資料》の選択等において、これらの判断要因は考量され得るものでもある。 尚、価格形成要因を個別的要因と地域要因に区分するのは便宜的なものであり、概ね画地条件に該当するものを個別的要因に区分し、画地条件以外の街路条件や接近条件等を地域要因と区分するものである。
【 数値化比準表のサンプルシートPDFはこちらに → 比準表 】
【 以上の区分を示す演算シートPDFはこちらに → 140605hijun 】

また採用する数値比準表では、数値で表示される地積要因、間口奥行要因、街路幅員要因、距離要因、基準容積率等要因の比準格差点数の計算にはリニアモデル《線形モデル》を採用している。

リニアモデルを採用する理由は、マトリクスモデル《行列・格子状モデル》では各要因の数値格差区分毎に比準点数が一定値を与えられることにより、要因条件差以上に格差点数差が大きくなったりする場合や要因格差に比較して格差点数差が小さい場合を避けるためである。

(注.1)リニアモデル(リニアプログラミング)  企業経営における生産・輸送および長期にわたる経済計画などを最適にするのに用いられる数学的方法の一つ。制約条件をいくつかの一次の等式または不等式によって表し、計画の効果をはかる尺度も一次式によって得られるもの。(線形モデル)

(注.2)マトリクスモデル  数字や文字を正方形または長方形に配列したもの。マトリックス。(格子状モデル)

二、数値化と数量化について
比準表の数値化とは、数値を採集できる価格形成要因については具体的数値を採用して比準試算工程を、明瞭にしようとするものである。画地の規模・間口・奥行をはじめ、街路幅員、駅、学校、商業施設、ランドマークなどへの距離等である。 数値化といっても、微細に計測することにはさほどの意味はない。評価主体による計測方法の統一性こそが重要である。

この点はカーナビのルート検索条件と似ているものである。距離を優先するか、主要街路を優先するかなどということである。 距離測定条件等がバラバラである第三者が作成する事例を利用しないのは、こういった理由からでもある。《同様の理由で、事情補正や配分法の再検討も必須と茫猿は考えている。そもそも第三者作成事例は、作成工程が不明でありデータチェックができないという短所を有している。すなわち比準価格試算工程についての説明責任が果たせないのである。》

話は本筋を逸れるけれど、数値比準表を用いてデジタル演算を行う大きな要素は、時間的経費的に許される限りの多数かつ最新の事例をデータ化した上で、演算を行いより多くの比準演算結果を得ることにある。それらの比準結果を検討し取捨選択の上で、比準価格を決定するのである。それは評価の精度向上にも適うものと考える。《既に地価公示支援ソフトでは行われていることでもある。ただし、予定調和を意図するものでは断じてない。》

また、採用した数値数量化比準表と、採用事例地毎の各試算結果については総て評価書に添付し、評価の工程を依頼者等に明らかにしてきた。説明責任をそれなりに果たすものでもあろうと考えている。

数量化とは数値が得られない要因について、カテゴリー毎に区分されるデータを数値に置き換えることである。例えば画地の形状、街路接面方位、街路の種別、供給処理施設の有無、都市計画用途地域などについて数値に置き換えるのである。 方位についていえば、東西南北を東=1、南=2、西=3、北=4、南東=5、南西=6、北東=7、北西=8へと置き換えるのである。置き換える順序は、原則として格差評点が高い順とするのが好ましい。この置き換えコードについても、国土庁《現国交省》フォーマットに準拠している。

三、重複する価格形成要因について
土地価格比準表では、地域要因と個別的要因で多くの要因が重複している。例えば、街路の幅員・舗装であり、駅や商店街への接近性等々である。 もちろん地域要因では近隣地域と類似地域との比較を行うものであり、個別的要因では各々の地域における標準的な画地との対比において比較されるものである。

マトリックス比準表を用いてアナログ的処理を行う上では、重複はさほど問題にならず、格差を検討する過程を明らかにし段階的に検討を行うという意味において、評価の精緻化が図れると云えよう。しかし、比準表を数値・数量化しデジタル化を図ろうとする時には、煩瑣であるだけでなく要因格差の重複も招きかねないのである。

例えば、駅への距離について検討してみると。
・評価対象地Aの最寄り駅までの距離:X(m)
・同近隣地域Aの標準画地の最寄り駅までの距離:α(m)
・採用事例地Bの最寄り駅までの距離:Y(m)
・同類似地域Bの標準画地の最寄り駅までの距離:β(m) と仮定した場合に。

・事例地の標準化補正値は β/Y、
・地域格差補正値は α/β 、
・個別格差補正は X/α となる。
この比準格差補正算式は、β/Y × α/β × X/α = X/Y となる。したがって、標準化補正において画地条件以外の重複する要因を検討する必要はなく、個別格差補正においても同様である。ただし、比準工程を明確にするために、100/Y1 × 100/Y2 × X1/100 と表示するがY1 は事例地の画地条件の標準化補正値であり、Y2は画地条件以外の地域格差である。X1も評価対象地の画地条件についてのみの個別格差補正値である。

(注.3)価格形成要因のうち数量化要因コード表は下記のPDFフィルに示します。
【 数量化要因コード表PDFファイルはこちらから →   140606code  】

四、標準画地の設定について
数値化比準表を用いて比準価格を試算する場合には、標準画地の設定が不可欠である。標準画地は近隣地域並びに類似地域に共通するものとして、画地規模、形状(一般的には長方形)、間口、奥行、街路接面条件(一般的には中間画地)を設定し、前提条件とする。本来的には、近隣地域と類似地域の標準画地・画地条件は同じではない。しかし、画地条件が類似すればこその類似地域なのであると考えることから、便宜上ではあるが標準画地・画地条件を共通のものとして設定するのである。
《例示》 規模 250㎡ 長方形 間口12m 奥行21m 中間画地 方位西

五、数値要因比準格差計算例(例として、ある要因施設までの距離)を示す。

格差区分

(優る・a)

(普通・b)

(劣る・c)

(限界値)

要因数値

<500m

≧500m

≧1000m

9999m

格差評点

±0点

−5点

−10点

−30点

マトリクス手法では、上記比準表では要因格差が100/100、95/100,90/100の三指数以外は求められない結果、(b)〜(c)間の要因510mと990mはともに95/100となる。同時に(a)490mと(b)510mでは100/100と95/100の格差を示してしまう。

マトリクス法は数量化可能な定性的要因の比準手法には適しているが、距離条件や規模・間口・奥行等数値で把握できる価格形成要因の比準には適していない。 尚、例示する上記比準表における、要因最小値は0mであり、最大値(限界値)は9999mである。限界値を設けるのは、(劣る・c)と最大値とのあいだの格差点数計算上の便宜からである。したがって限界値を無限大にはできないし、999999mとすればよいというものでもない。
尚、例示は格差を三段階に区分しているが、茫猿モデルでは数値化要因は7〜8段階区分を採用している。《数量化要因は当然ながら要因カテゴリーに応じて区分する。》

リニア手法で要因(b区分)690mである場合の評価対象地(標準地)格差評点は、以下の計算式により求められる。各カテゴリー毎に単位当たりの±評点を計算して、要因数値に乗じて試算表点を求めるものである。
(c区分評点−b区分評点)÷(c要因区分−b要因区分)×(対象要因−b要因区分)+b区分評点
=[-10点−(-5点)]÷[1000m−500m]×[690m−500m(b)]+ (-5点)
=−6.9点(93.1/100)

この場合に事例地要因が(a区分)350mであれば、事例地の格差評点は−3.5点(96.5/100)である。 この両者の相対格差は(96.5/100)÷(93.1/100)=(103.7/100)である。 また、事例地要因が(c区分)2500mであれば、事例地の格差評点は−13.3点(86.7/100)である。 この両者の相対格差は(86.7/100)÷(93.1/100)=(93.1/100)である。

(注.4)リニアモデルにおける比準表構成は、各要因区分もしくは比準評点のいずれか又は双方において、等差数値で構成するものではなく、等比数列的配置を行う。これは、各要因が価格形成に与える影響の度合が要因区分において異なるからである。例えば駅までの距離を検討するときに、近接するほど距離差に帰因する価格差が大きく、駅から遠ざかるほどに距離差に帰因する価格差が小さくなるからである。

この等比級数的配置は、データの統計的解析結果に基づくべきものであるが、解析データの不足と茫猿の解析能力がそこに至っていないので、経験値をもとにして年ごとに順次改善を加えてきた。いわば、演繹的手法によらず帰納的手法によるものと考えている。 すなわち、茫猿のアナログ的鑑定評価結果と、演算モデルによるデジタル評価結果がおおむね一致すれば良しと考えるのである。別の表現をすれば、数値・数量化比準表を用いたデジタル評価結果を基礎として、アナログ的鑑定評価を加えたものが茫猿の鑑定評価結果なのである。

なぜならば、数値・数量化演算モデルを採用することの最大の理由は、評価工程の説明責任を明らかにすることにある。だからこそ、不動産鑑定評価書には採用した比準表や個別比準結果演算表を添付するのである。

(注.5)以上の試算工程を経た格差比準結果を示すシートは、下記のPDFフィルにてご覧いただけます。
【 比準結果演算シートPDFファイルはこちらから → 140605hijun 】

《蛇足ですが》 以上に述べた数値比準演算・XLSファイルを開示します。最近は現場を離れており稼働させていませんから、演算マクロや印刷フォーマットに齟齬が生じるかもしれませんが、概要は読み取れると思います。印刷用紙はA3用紙が適当であろうと思います。 また、95年以降、日常業務に実際に使用し数次の改訂を重ねてきましたが、2009年以降は改訂を行っていませんので、付随する収益価格試算などは、最近の状況を反映していません。

この演算モデルの稼働にはエクセルの基本的知識と、比準要因項目の選択や置換え並びに比準要因格差の判定及び検証が必須です。すなわちアイテムの選択・絞込・置換、カテゴリーの判定と検証を行わなければなりません。リアルにご利用なさる場合には、完全自己責任であることもご承知おきください。データを入力すれば価格が自動的に試算されるというお気楽モデルではないのです。なお、演算マクロをクリックして稼働させる前に、シート・評価書作成の一行目から十行目におおよその作業工程を記述していますから、ご一読ください。
【 数値比準演算・XLSファイルはこちらから → 080918enzan 】

関連の記事


カテゴリー: 茫猿残日録 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください