蕎麦あれこれ

昨日の只管打座に、どうでもよい蛇足ですが、ザル蕎麦とモリ蕎麦の区別が、器(ウツワ)の違いや、きざみ海苔がかけてあるかないかだけになって随分久しいです。流派によって違うようですが、器もさることながら、そば粉が違ったり「そばつゆ」が違ったりするのが本来でして、海苔の有無だけで百円から弐百円も差があるのは解せないことです。


と、書きましたが、書いてから気になりましてWeb Siteを探索しましたら、蕎麦サイトがあるわあるわです。でも茫猿の疑問に正しく応えているサイトは殆どありませんので、改めて茫猿流解釈を述べます。茫猿流解釈と云いますが、随分昔に飲食店でアルバイトをしていた頃に、そのお店の常連様で饂飩・蕎麦通の方から教えて頂いたことです。 古い話ですから記憶違いもあると思いますし、独りよがりもあるでしょうが、その辺りは洒落と云うことでご勘弁下さい。
蕎麦が今のようなスタイルになったのは江戸中期以降です。
それまで蕎麦はそばがきとして餅のようにして食されていました。饂飩のルーツがスイトンのようなものであるのと同じようなことです。ソバがきが、ソバ切りとなり、蕎麦と汁(ツユと読みます。シルとは読みません)を出すようになった訳です。当時のファーストフードということです。
このソバ切りが発展して、切り蕎麦に暖かい汁をかけたモノが「ぶっかけ」であり、その後の掛け蕎麦となった訳です。掛け蕎麦の発展形態が天麩羅蕎麦や山菜蕎麦や鴨南蛮などの種物 (タネモノ)薬物(ヤクモノ)です。
そば切りは明治以降に、蒸籠(セイロ)蕎麦と笊(ザル)蕎麦に分かれます。蒸籠蒸し蕎麦が盛り蕎麦のルーツであり、本来は蒸し上がりの暖かい蕎麦をお汁
で頂きます。関西の饂飩は、大鍋でゆがく饂飩の他に今でも蒸籠蒸しがあります。現在の盛り蕎麦は、ただ蒸籠に盛ってあるだけで、蕎麦そのものはざる蕎麦と何にも変わらないと云うのが普通です。
ざる蕎麦は、湯がいたそばを冷水でしめてから、ザルに盛りつけます。
ザルに盛るのは、水切りを良くするためです。そして蕎麦猪口のお汁を付けて頂くものです。刻んだ焼き海苔をかけてあるのが多いようです。冷たい蕎麦ですから、お汁も盛り蕎麦よりは濃く辛いのが普通です。
お店の流儀によって異なりますが、店の品書きに「モリ」と「ザル」の両方を掲げてなおかつ値段に差が有れば、両者には明らかな差異があってほしいものです。海苔の有無だけでは、お値段の差が解せません。
ザル蕎麦は蕎麦の実の中心の白いところだけを臼で挽いた上質の粉を使い、濃いめのお汁と薬味に山葵を付けるというお店もあるようです。 これに対して盛り蕎麦は、甘皮も多少は含むそば粉でうつというように、蕎麦の質の差をつけているのであれば良心的というかコダワリ派と呼べるでしょう。そして、お汁も違っていて、薬味も山葵は付いて無く、きざみ葱だけです。
茫猿が申し上げたいのは、ザルが上質でモリが中質と云うことではありません。全粒蕎麦というモノがあります。よく田舎蕎麦とか玄蕎麦(クロソバ)とか呼ばれるモノです。蕎麦の甘皮も全て挽きこんでありますから、新蕎麦の時の香りや甘みは格別のモノがあり、東京の名店で供される細く白いそばよりはるかに野趣風情があり、茫猿の好物です。少し太いし腰が強い蕎麦ですから喉越しには難があります。だから勢いよくすすり上げる訳にはゆきませんが、決して下質ではなく好みの問題だと思います。
蕎麦蘊蓄のついでに、茫猿のコダワリを幾つか申し添えます。
1.蕎麦つゆが銚子で出されたら、蕎麦猪口に全部入れない。
蕎麦の水気で汁が次第に薄まりますから、その都度お汁を足して頂きます。
そして、最後に猪口の底に1/3程残った汁にそば湯をそそぎ、残してあった山葵と、これも残りの銚子のお汁で味を調えて頂きます。蕎麦つゆが猪口に沢山残っていると、そば湯が足せません。
2.9月の新蕎麦の季節には白い東京蕎麦ではなく、田舎蕎麦を食して蕎麦の香りと甘みを楽しみたいモノです。この際に、最初の一箸は汁を付けずに食べてみてください。蕎麦がこんなにも美味しいモノだったと気付かされます。
3.信州などの蕎麦産地の名店では、蕎麦コースが味わえます。
ソバガキやソバ餅、ソバ寿司、山菜天麩羅などとザル・モリ蕎麦がコースになっている訳ですが、土日の混み合う時間帯に予約などして行かないことです。何故ならソバが時間に合わせて用意されている場合があり、特に団体客の場合は用意されたソバが伸びてしまっていて悲惨です。 この場合にも時間には余裕がありますからと云い、ザル・モリ蕎麦は席に着いてから配膳して下さいと、予めお願いしておくことです。
4.シンプルな蕎麦
茫猿が最も好きな蕎麦は、福井県今庄辺りの「オロシ蕎麦」です。全粒玄蕎麦に、辛い大根おろしをたっぷりとかけ、醤油と削り鰹節をあわせて頂くモノです。辛味大根と蕎麦の甘みが何とも云えない調和です。シンプル イズ ベスト。この食べ方は饂飩でも素麺でも美味しいモノです。ただし、辛味大根と醤油は少しこだわって下さい。
5.蕎麦打ち
以前は『鄙からの発信』に茫猿が蕎麦を打っている写真を掲載していました。蕎麦打ち体験は数回有りますが、自宅に蕎麦打ち道具を揃えるまでには至っておりません。足腰の達者なうちに、道具を揃えて蕎麦パーティを催してみたいというのが、茫猿のささやかな願いです。

《蕎麦にかけた 都々逸をひとつ》
華奢な白蕎麦 山葵(ワサビ)でなかす
田舎育ちの クロ蕎麦見てご覧
主(ヌシ)のそばよと 香りでなかす。
発信者 退役間近のRA

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