事例収集新スキーム(2)

【茫猿遠吠・・事例収集新スキーム(2)・・04.08.28】
前号記事の取引事例収集新スキームを実施日程に載せてゆくには幾つかの課題が存在している。それらの課題について考えてみたい。
検討すべき課題は大きく分類して三つになる。


1.集中処理(管理)か、分散処理(管理)か
新スキームを実施するには、入手した異動通知書に関連するテキストデータを日本不動産鑑定協会が全国を統一して集中処理及び管理する方法と、各都道府県単位士協会毎に分散処理・管理する方法が考えられる。
単位士協会の規模などの事情から実施が困難な小規模単位会では、地域毎に合同して実施することも考えられる。
新スキームの実施行程は概略次のようになると予想される。
・不動産取引に伴う異動通知書関連テキストデータの入手。
・事例収集システムファイルにテキストデータのインポート。(一次データ)
・収集システムから、アンケート調査用紙等の印刷。
・アンケート発送、回収、回収データの入力。
・取引事例データの公示等評価員への配布。(二次データ)
・配布データについて調査を行い事例作成システムに入力。(三次データ)
・地価公示等取引事例カードの作成(印刷)。
※一次データは原始データであり、取引事例について、所在地番、地目、地積、取引時点、取引当事者、地上建物の有無及びその内容等から構成される。
※二次データは取引価格(回答)を含むものである。
※取引事例カードを作成するには、画地条件や街路条件、接近条件、都計規制等の属性データを調査入力して三次データを完成させる。
以上の作業行程を実施するに際して、集中処理或いは分散処理を選択する分岐点となるのは、事例収集ファイルシステムをどのように位置づけるかに左右される。同時に事例収集ファイルシステムと事例作成システムを分離するか統合するかにもかかってくる。
a.集中処理を選択すれば、個々の単位会や分科会にかかる負担は軽減されるが、集中処理を行うサーバーと単位会や各分科会(必要に応じて分科会を構成する鑑定士)とのネットワーク構築に関わる問題やセキュリテイに関わる問題が生じるであろう。
即ち、大規模システムを維持するに必要なバックボーンの問題、大規模であるが故に情報管理システムの複雑さや煩雑さが生じるであろう。
また、回収データ票に記載される取引価格以外の周辺情報をどのようにしてデータファイル化するか、配布するかという問題も指摘できる。
b.分散処理を行えば、システムにアクセスする鑑定士が限定されるし、システム自体も小規模なもので実施可能である。
しかし、各処理エリアにおいてシステム構築・維持の経験或いは実施能力の多寡が問われることとなる。また、分散処理を行えば事例作成システムとの統合も可能であるし、一次、二次データを広汎に利用することも可能となる。
この場合においても、鑑定協会と単位会(分科会)と鑑定士を結ぶブロードバンド・ネットワークが必須となるであろう。
さらに情報保護、機密維持等の観点から、営利法人と個人鑑定士が混在する組織が混在する組織が新スキームに携わることが妥当であるか否かが改めて問い直されるべきであろう。鑑定士内部だけの問題として認識するのでなく、客観的外形基準を満たす組織態様であるか否かが問い直されなければならない。
2.著作権問題
作成した事例は地価公示等主宰者に帰属してしまうのであろうか。
委託業務の成果物全ての著作権が公示等主宰者に帰属してしまうのは少なからず割り切れない思いがある。新スキーム実施と並行して著作権問題を整理したいものである。公示・調査成果物は国民共有の財産であるという認識は当然であるが、三次或いは四次加工が許容されるべきことと、全事例作成と引き替えに著作権の共有はできないものであろうか。
ここでも、鑑定士等で協会は構成されなければならないであろう、仮に協会に帰属すると認められた著作権が営利法人にも与えられることは軽々には容認できない。
3.継続するシステムか、新規システム構築か
過去の地価公示等作業の延長線上でシステムを構築してはならない。
鑑定評価のおかれた現状を考えてみても、発展性のあるシステム、多様性のあるシステムを構築しなければならないと考える。例えば、イメージデータを共有できるシステム構築であってほしいと願うのである。
事例所在地位置図、地形図、事例地写真などを納めることが可能なファイルシステムであるべきと考えるし、GISとのリンクや近い資料の取引事例公開を、当然に視野に入れるべきである。
その観点からしても、一括・一体・大型システムの採用は好ましくないと考える。分散・分離・小型システムが望ましいのである。地域毎に分散するシステムと一次・二次・三次データ毎に分離するシステムを構築すべきである。
それらの間は、統一フォーマットでデータのインポート、エキスポートが可能であるようにシステムを構成すれば足りることである。
さらに、分散・分離型システムの利点は、各エリアや各作業段階で多面的な利用や時宜に応じた改良が可能な点にある。マンモスは望まず小回りの利くシステムを望むのである。
『補足して』
a,アンケート回答票の重要性
回収されたアンケート票には、取引価格以外に書き込まれた様々な記述がある。それら感想ともいえる情報にも重要な手がかりが存在する。いわば、この細密情報をどのように加工・利用するかについて、準備しておく必要がある。
b.アンケート調査を全国統一して行うことが回収率の向上に直結すると考えるのは早計かも知れない。アンケート照会主体と取引当事者の距離が離れることは回収率向上に直結するか否か疑問であり、慎重に検討する必要がある。
c.中長期目標
既に述べたことであるが、イメージデータも処理可能なシステム設計は必須であると考える。それは同時に取引情報の公開を前提に考えたときに、親切な情報公開であり、より大きく社会に資する公開となるであろう。
GISとのリンクも鑑定側にとって有益であり重要な課題であるが、情報公開を前提にするときには必須条件と云えよう。
d.セキュリテイ等
セキュリテイの観点からいえば、分散処理の方が安定すると考える。全国的に見て一部単位会を除けば、単位会は概ね100人未満で構成されている。
人的移動が少なく、互いの顔が見える範囲であれば、お互いの信頼関係も高くなるものであり、人的関係を基礎とする安全性が確保できると考える。
なお構成会員数等から、分散処理に直ちに対応することが困難な単位会では、合同処理を検討することも考えられる。複数の単位会が共同でサーバーを立てて、構成メンバーをブロードバンドやVPNで結べばよいのである。
※VPN(バーチャル プライベート ネットワーク)専用回線を使用せずして、仮想ネットワークにより、高速通信を実現するものでイントラネットの一形態といえる。
e.アンケート郵送費の問題
アンケート調査票郵送費をどのように負担するのか、同時に返信用封筒に郵券を全て添付するのか、返信回収された票のみ着払いとするのか。
通信費は巨額になると考えられるから、返信票通信費及び負担方法については最適の方法を検討しなければならない。
f.メデイア(媒体)の問題
データを移送する手段について考えておかなければならない。
従来通りにFD(フロッピーデイスク)の採用を考えてはならないのである。FDは簡便であるが、イメージデータの移送にはおよそ不向きであり発展性がないし、FDの簡便さは漏洩の危険性もつきまとうのである。
この際は、イントラネット、VPN、ブロードバンドなどの採用を是非とも検討したいものである。
g.とりあえず準備すること
冒頭にも述べたように、事例収集システムは全国的に様々な方法が実施されている。アンケート調査票書式についても、データ移送方法についても、郵送料支払い方法についても、幾つかの形態が存在しているであろうと推量される。それらについて、正確にその実態を把握することから始められなければならないと考えるのである。
そして、互換性を維持するためにデータ・フォーマットは統一するが、実際の事例収集システムは多様性を認めるという方向での検討が望まれるのである。
多様なシステムはいずれより効率的或いは便利なシステムに収斂してゆくであろうが、その収斂過程が大切なのであり、当初から統一してしまったシステムには発展性が無いとは云わないが、発展の可能性という芽を摘んでしまうとは云えるのである。
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