記憶しておきたいこと

鑑定協会が年内に対応策を示すように、国交省から突き付けられている二つの課題がある。
一つは、この春先に突き付けられた「新スキーム改善問題」であり、もう一つは先月末に通知された「依頼者プレッシャー対策」である。
鑑定協会執行部はこの両課題についてその対応策を鋭意検討中であるが、その方向性は既に示されているのである。 それは2011年6月1日付けにて公表された「不動産鑑定業将来ビジョン研究会報告」に記載されている。 将来ビジョン報告が示している「現状把握と対応具体策」は両課題について的確な分析を行い、適切な対応策を示していると評価できる。 あとはビジョンが示す基本方針に基づいて”小骨一本抜くことなく”具体策を作成できるか否かに懸かっているのである。
今回のビジョンは報告が述べているとおり、従来のビジョンとは異なり、日本不動産鑑定協会みずから「不動産鑑定業将来ビジョン研究会」を組織し、外部識者を委員に招き、会員の意見も踏まえて業界の将来展望を策定したところに特徴がある。 茫猿はこの両課題について提案を示してきたが、もう言挙げすることは止めようと思っている。これからはビジョン報告に示す改善方針にしたがって如何なる具体策が示されるかを注目してゆきたいと考えている。


2011年08月26日付けで、鑑定評価等業務の適正な実施の確保について徹底を図るため、国交省は(社)日本不動産鑑定協会会長に対して通知を発出しました。
通知には、1.鑑定協会会員に周知徹底を求める事項、並びに2.適切な対応措置を求める事項の二項目があります。適切な対応措置を求める事項には(1)鑑定評価実務指針等について、早急な点検と必要な改正を求めています。 同時に(2)依頼者プレッシャー対策を講じることを求めています。また、a、b両件についてとりまとめた対応措置の報告を求めています。
この通知を受けて(社)日本不動産鑑定協会は同日付けにて、「会員が行政処分を受けたという事実並びに「国土交通省通知」を真摯に受け止め、不動産鑑定評価制度の存続をおびやかしかねない重大な問題として捉え、別紙のとおり、再発防止に万全の覚悟で臨むべく、対応策を講じることといたしました。」と述べる会長声明を発しました。
会長声明「別紙、本会としての再発防止策」には次のとおり記載されています。

 今回の行政処分及び「国土交通省通知」を踏まえ、本会では、次のとおり、再発防止に向けて対策を講じることとしております。
1.鑑定評価監視委員会(仮称)を設置し、そこで依頼者プレッシャー通報制度の運用、価格等調査ガイドラインの実施状況の検査等を行うこととします。
同監視委員会の構成にあたっては、弁護士、公認会計士及び学識経験者を加え、第三者の視点による透明性、客観性を担保します。
2.不動産鑑定士としての倫理の徹底を図るため、定期的に義務的研修を実施します。
3.本会の各種指針類(実務指針、業務指針、留意事項等)について、早急に点検作業を実施し、その結果を踏まえ必要な改正を行います。

依頼者プレッシャー通報制度とは耳慣れない表現であるが、同制度は2011年6月1日付けにて公表された「不動産鑑定業将来ビジョン研究会報告書」のⅢ.ビジョン実現に向けた取り組みの提案、(7)自主規制の強化と依頼者プレッシャーへの対応に記述されている。同研究会には緒方現会長も委員として参画しているものである。

(7)自主規制の強化と依頼者プレッシャーへの対応
① 取り組みの主体
鑑定協会
② 基本的視点
・鑑定業者・鑑定士の独立性を侵害する依頼者からの働きかけ(依頼者プレッシャー)に応じることは、不当な鑑定評価に繋がる恐れがあり、鑑定評価制度に対する社会の信頼性を揺るがしかねない。
・実際に、過去における不当な鑑定評価においては、その背景に依頼者プレッシャーがあることが確認されている。
・依頼者プレッシャーに対しては、国土交通省の指導により、「不当な依頼の謝絶」の要請があるが、依頼を謝絶しても他の鑑定業者が受託してしまうことや依頼者側の「自らにとって都合の良い鑑定業者探し」を増長させる事態となることから、かえって鑑定評価制度に対する不信感を招きかねない。
・依頼者プレッシャーとしては、評価内容に関する事項(一定の鑑定評価額の要請や誘導や妥当性を欠く評価条件の設定等)と評価業務に関する事項(評価内容に影響を与える報酬に関するプレッシャーや著しく短期間での評価スケジュール等)がある。
・このため、自主規制を強化するとともに、依頼者が不当なプレッシャーをかけないような仕組み作りが必要である。
③ 具体的提案
・鑑定業者・鑑定士だけでなく、鑑定業者に所属する鑑定士以外の役職員に対しても倫理研修を行うことが考えられる。
・各種規程を再度周知徹底させるとともに、懲戒等の罰則に関する運用強化を図ることが考えられる。
・依頼者プレッシャーを抑制させる仕組みとしては、依頼者プレッシャー通報制度の創設、依頼者からの経営者確認書の受領義務、成果報告書への記載事項の追加等が考えられる。

また、新スキーム改善策についてビジョンは同じくⅢ-1-(3)で、以下のように述べている。

(3)取引価格情報提供制度(新スキーム)を通じた事例情報の収集・管理・利用体制の整備
① 取り組みの主体
国土交通省、鑑定協会
② 基本的視点
・取引事例等は不動産の鑑定評価に必要不可欠であり、鑑定評価制度の持続的な発展と信頼性の向上のためには、事例の収集・利用のための継続可能な体制の整備と安全管理の徹底等が必要である。このビジョンに盛り込まれている各種提案の実現のためにも、取引事例等を継続的かつ安定的に収集・管理・利用する仕組みが必要であることは言うまでもない。
③ 具体的提案
・個人情報保護の動き等により、鑑定士の事例収集を巡る諸環境が激変し、新スキームを前提として鑑定士が事例を収集できる環境になっているにもかかわらず、多くの鑑定士が、新スキームの内容と課題について十分理解していない現状にある。これは看過できない問題であり、鑑定協会が現場にもわかりやすい説明を工夫し、早急に周知する努力を始める必要がある。
・地価公示法に基づく業務以外の業務(一般鑑定)に対する新スキームの事例の活用について、鑑定業界としては、その有用性を主張するだけでなく、鑑定協会と士協会は、透明性の確保、情報管理等についてのこれまでの取組を速やかに検証し、その改善点も含めて明確にする中で、適正な一般鑑定が地価公示法に基づく業務と一体となって、適正な地価の形成に寄与するものであるという観点から、よりクリアな整理を国に求めていくことが重要である。
・ この取り組みの中で、取引事例を始めとする個人情報の安全管理について、データの取扱い可能な範囲を明確にする必要がある。その際、地価公示の鑑定評価員が事例作成のコストの多くを負担しているという観点から、鑑定業界の中での適正なコスト回収策として透明性の確保された閲覧制度等を構築し推進していくことがポイントとなる。一部の士協会で検討されているログによる使用履歴の管理等も具体的な方策として検討していくことが効果的である。
・以上の取り組みは、一朝一夕に最終的な制度に到達するわけではないという認識の下、問題点を着実に解消しつつ、改善を加えていくことが重要である。

両課題への対応策について、(3)並びに(7)に述べる具体策のみではいささか不十分ではないかと考えられるが、(2)に述べる「情報・データベースの整備」、続いて(8)に述べる「態勢の整備」を伴えばそれなりに実効性が認められる対応策が得られるであろうと評価できるものである。

(8)態勢の整備
① 取り組みの主体
鑑定業者・鑑定士
② 基本的視点
鑑定評価制度の信頼性・透明性を向上させるためには、個々の鑑定業者における態勢の整備が必要となる。
・特に、鑑定評価の結果が広く影響を及ぼす業務や国民の財産に関わる業務については、社会の関心度が高く、その必要性が高い。
③ 具体的提案
・証券化対象不動産の鑑定評価や財務諸表作成目的の鑑定評価等、その結果が広く一般投資家等に対しても影響を及ぼす業務や公共用地の取得や国公有財産の売払い等、国民の財産に関わる業務については、特に、鑑定評価制度の信頼性・透明性向上の観点から、鑑定業者・鑑定士自身が社会に信頼される態勢(受託審査・報告書審査体制、コンプライアンス態勢等)を整備することが必要である。

新スキーム改善策についても(2)情報・データベースの整備において関連する対策を示している。

(2)情報・データベースの整備
① 取り組みの主体
国土交通省、鑑定協会
② 基本的視点
不動産情報に対する透明性や信頼性の向上のためには、国民が利用しやすい情報・データベースの整備が必要である。
・個々の鑑定業者・鑑定士が取り組むことが困難、或いは非効率な情報・データベースについては、鑑定業界全体の専門性の向上及び業務効率化のため、共同で整備することが有効である。
③ 具体的提案
・国土交通省において、現在「土地総合情報ライブラリー」上、独立したスタイルで公表されている「地価公示情報」、「取引価格情報」、その他の地価関連情報を一元化し、国民が利用しやすい不動産価格関連情報提供サービスを構築することが考えられる。
・また、金融市場及び住宅市場を支えるインフラとしての不動産価格(賃料)関連インデックス等を構築することが考えられる。
・不動産価格関連情報提供サービスや不動産価格(賃料)関連インデックス等の構築においては、鑑定士の活用、鑑定士と学術研究者との共同研究・共同開発等の企画が考えられる。
・このほか、農地利用の規制緩和による農地取引の増加に対応するため、農地の標準地の設定による公示制度の導入等、農地の価格水準に関する指標を充実させることも考えられる。
・鑑定協会において、鑑定業界全体の専門性の向上及び個々の鑑定業者・鑑定士の業務効率化のため、不動産関連の情報・データベースの整備を行うことが考えられる。
・また、これらの情報を社会に対して提供することで、鑑定業界の認知度を向上させることも考えられる。

新スキーム改善問題も、依頼者プレッシャー問題も、その根源は一つであり、社会的存在としての鑑定評価の位置付けをいかに考えるかにある。 そしてそれは情報開示(透明性確保)に帰結すると云える。社会の情報開示要請にどう応えるか、応えられるかということなのである。
取引価格情報には個人情報保護法という存在があり、鑑定評価には鑑定評価業法が存在しており、ともに守秘義務が課せられている。そして鑑定士は守秘義務を盾として情報開示に背を向けてきた。そして、その守秘という閉鎖された結界のなかで、いつしか鑑定士の基本姿勢は歪められてきた。
取引価格情報も鑑定評価書も、社会において意味あるものとして存在し続けるためには情報開示が根本なのであり、不動産鑑定士は自ら開示を提唱するところから始まるのであり、開示こそが基本姿勢であるという鑑定業界の基本原則を確立することにあると云える。
開示されないことを暗黙の了解事項としては来なかったか、公開されないことに安住しては来なかったか、公開されないが故に一部の狭い利害にこだわっては来なかったかと振り返ることから、両課題に対処する方策が見つけられるのであり、情報を開示し透明性を確保することから「鑑定評価の信頼回復」は始まると云えるのである。 キーワードは《鑑定評価の透明性確保》なのである。記憶しておきたいのは、このキーワードである。
ビジョンはその結び「Ⅲ.ビジョン実現に向けた取り組みの提案」で次のように述べている。

3.産業としての確立に向けて
現在、我が国では、あらゆる分野において、構造改革を迫られている。このような状況において、近年、弁護士、公認会計士等のいわゆる専門資格者の在り様についてもさまざまな変革の取り組みが行われており、資格付与の仕組みやその養成の在り方はもとより、それぞれの専門分野における既存の規制の見直しや事業領域の拡充にまで及んでいる。
鑑定業は、数ある専門資格者の事業分野でも特異な側面を有している。それは、公的土地評価を中心にした官公需の存在であり、鑑定評価制度創設以来、結果として官公需に依存した事業拡充が一定の成果を収めたが故に、いまだに官公需頼みの事業体質から脱却できない状態にある。
しかしながら、「Ⅰ.現状認識」で分析したように、個人を始め、様々な民間の経済主体から、不動産に関わる機会の増加や不動産を有効・適正に利活用することの必要性の高まりに伴い、不動産にかかる多様な情報サービスの提供を期待されている。
これに真摯に取り組むことこそ、専門資格者として資格を付与された鑑定士の使命ではないだろうか。この使命を果たすための取り組みは、鑑定士にとっては、社会に根ざした持続的な鑑定評価制度を確立することにほかならず、それは、鑑定業が産業として確立するプロセスであり、その担い手である鑑定士の専門家としての地位を確立する道であるといえる。

(注)依頼者プレッシャー対策は「鑑定評価業務適正化特別委員会」が所管し、新スキーム改善問題は「新スキーム改善特別委員会」が所管している。

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