権限無き事例管理

標題のような憂き世の些事にかかわることに草臥れている。一年もかかわれば十分なのである。 何をどう関わったかと問われれば、『鄙からの発信』に掲載した関連記事数と上京した日数が示しているのである。 好きでやっていることだから、愚痴をいう筋合いではないが、茫猿の関わりが何かを生み出したか、何かを変えたのかと問えば、目に見える成果など何もないのである。

そう振り返って見れば、とても虚しいのである。 思えば警鐘を鳴らし続けて五年いいえ七年か、幸いにして想定外の事故は起きなかったが、これからも起きないと云う保証は何処にもない。 理事として鑑定協会(連合会)運営に末席で関わるのも今月でお終いであるが、最後に何がと云うよりも何を述べて消えようかと考えている、この連休である。

新スキーム改善問題は、12.04.10理事会において一次改善案が承認されたことにより、一応は第一段階に到達したとみえる状況にある。 しかし、その本質的・根源的問題が解決されたと云える状況にはない。 多くの士協会は依然として「自らの事例資料管理権限に拘泥する状況」にあり、その管理権限の正当性主張を放棄していないのである。

新スキーム改善問題の根幹は、『地価公示評価員は地価公示の契約書(仕様書)と守秘義務により新スキームで作成した事例情報を都道府県鑑定士協会に提供することは出来ず、現状では本会・士協会いずれも事例を閲覧させたり閲覧料を徴収する根拠が整理されておらず、問題が生じた場合に事例の閲覧制度が出来なくなる。』(2011.06.20付 新スキーム特別委員会発「新スキーム特別委員会と不動産取引価格情報提供制度」より引用)にある。

しかるに同レポートは「新スキームで収集した事例を一般鑑定で使用することについての整理を行う。 鑑定評価制度の持続的な発展と信頼性の向上のためには、事例の収集・利用のための継続可能な体制の整備が必要。」を最初に掲げ、問題の本質を正しく説明してこなかった。 つまり、問題点提示の順序が異なっていたのである。

具体的にいえば、2005年、2006年の試行期間を経て、2007年より全面施行された新スキーム事例収集管理閲覧制度は、「権限無き事例管理状態」を2011年まで放置し、鑑定協会、現連合会並びに全国都道府県士協会は、現在も放置していると云って差し支えない状況にある。 さらに云えば、それだけでも問題であるのに、その上各種法令との適合性についての疑義についても放置したままの状況にある。

(注)「閲覧システムの委託事務の実施にあたって士協会は、各種法令との適合性を留意のうえ、事務局の端末を他士協会会員の利用に供するなどの措置を講じ、閲覧システムを他士協会会員に対しても提供する。」(同じく、一次改善案より引用)

結論的にいえば、2012.04.01より新公益法人並びに連合会に移行した鑑定協会は、自らの公益法人としての事業のあり方が問われているのであり、「正当性を疑われる事例管理提供事業のあり方を、早急に是正しなければならない。」のである。 以上の問題提起を理解するうえで、取引事例に関わる経緯を考えてみたい。

一、取引事例の収集・管理・閲覧提供に関する経緯
1.新スキーム以前(2004年以前) 『異動通知書を基礎とする時代』

士協会が主に地価公示及び地価調査スキームのもとで事例収集に関与し、士協会事業として事例を収集し閲覧に供していた。 悉皆調査を実施していた一部士協会を除けば、いわゆる五次データ(士協会が公示等評価員から公示等由来データの提供を受けて、閲覧に供する)のみの時代といえる。 だから、事例の管理・閲覧提供権限が士協会に与えられていた(容認されていた)のであり、異動通知閲覧申請書を提供する国交省地価調査課、及び都道府県地価調査主管課を関係機関とし、その事業主体は士協会であった。

2.新スキーム創設後(2004年~2011年) 『全国一元的事例収集時代』

不動産取引情報の透明性確保並びに個人情報保護法の施行を反映して、地価公示スキームによる取引価格情報提供制度が創設されて事例収集を行うこととなったが、慣例的に士協会関与を認めていた。 この時点からいわゆる三次データが出現したが、少なからぬ士協会ではいまも閲覧に供されていない。 このいわゆる新スキーム事業の母体である「取引価格情報提供制度」の事業主体は国交省市場課であり、受託事業主体は連合会なのである。

3.地価公示ネットワーク稼働後(2012年以降) 『全国一元的事例収集・管理時代』

地価公示スキームによる事例収集管理の実態は地価公示ネットワークに移管された。 地価公示ネットワークは地価調査課と連合会の共同管理なのである。 実際の運用形態は、収集事例資料を公示ネットワークから連合会閲覧システムに複写移管することにより行われるものとなり、いわゆる三次データ及び四次データは既に全国一元管理のもとにある。 なお、地価調査由来の四次データについてはいまだ未整理である。 士協会が公示評価員から事例を提供させ閲覧に供する行為は(五次データ)、非正規行為(権限外行為)または規定違反行為(地価公示実務運用指針違反)なのである。

4.現時点において整理されなければならない課題

(a)閲覧ネットワークの一元管理並びに安全管理措置の担保。

(b)事例収集経費(照会郵送費、事例収集管理費、閲覧ネットワーク維持経費)等及び事例調査担当者への収集役務費用補填額等の総額、すなわち事例収集実費額の積算並びに負担方法の整理、そして透明性の確保。 閲覧料は前項実費額を基礎として査定されるものである。

(c)士協会事務局閲覧や閲覧料の士協会独自基準は、士協会の恣意的行為なのであり、各士協会が独自に定めてよいものではない。

以上を整理すれば、『権限無き事例管理状況』を早急に是正するという観点からは、2012.04.01以降の三次データについては連合会が一元管理し閲覧管理ネットワークを通じて全国の会員に閲覧提供すればよいのであり、四次データについては閲覧料並びに閲覧形態に関わるコンセンサスが得られていないことから、三次データと同様の管理を希望する士協会についてのみ、四次データも閲覧に供すればよいと整理できる。

二、新スキーム改善問題に関わる情報開示

鑑定協会公式サイトにおいて、新スキーム改善特別委員会の議事録はなぜか公開されていないことから、地価調査委員会議事録より情報開示状況を辿ってみる。なお、同議事録公開は会員専用サイトでの公開であることから、開示することが微妙な表現は伏せておく。 文章的にこなれていない表現があるが、原文のままに転載しておく。

2010年度・第7回地価調査委員会(2011.04.20)
(3)新スキーム特別委員会の設置について
後藤副委員長から新スキーム特別委員会設置の趣旨、委員会メンバー及び作業スケジュールについて説明が行われた。

2010年度第8回地価調査委員会(2011.06.23)
(2)新スキーム情報の取り扱いについて、
後藤新スキーム特別委員長から、新スキームで収集した事例を一般鑑定で使用することについて、特に、安全管理措置の徹底、公平性、利用の透明性を確保した新しい仕組みを検討しているところであり、去る平成23年6月20日に開催された士協会会長会にて、新スキーム特別委員会設置の趣旨と不動産取引価格情報提供制度について説明を行った。今後、各士協会の要望等も聞きながら、検討していきたいとの説明が行われた。

2011年度第2回地価調査委員会(2011.11.18)
(2)新スキーム情報の取扱いについて
標記の件について、小川委員長から、当初は国土交通省とパートナーシップ型を目指して検討していたが、(諸般の事情に鑑みて)当面まず鑑定協会の自主改善の検討を行うこととしたとの報告の後、後藤副委員長から、去る11月1日に開催された士協会会長会議での新スキームの第一次改善案の説明について、「安全管理の徹底」と「新スキーム情報の利用の透明性」を柱とし、「安全管理の徹底」の観点からは新スキーム情報は本会が管理責任を負うことから、システムによる一元管理を前提とし、「利用の透明性」の観点からは、閲覧料等について現行の規程でも実費主義をうたっているためその徹底を図ることとしている。

現状は各士協会が主体となって閲覧を実施している側面から、なぜ一元管理が必要か、士協会で厳密に管理すればよいのではないかとの意見も強く、理解をしていただく努力と検討時間が必要であり、引き続き、各士協会の意見を聞きながら検討していきたいとの説明が行われた。 併せて、11月10日付で「不動産鑑定士協会の資料閲覧業務に関する実態調査のお願い」のアンケートを実施したことについて報告が行われた。

※( )内は筆者の注書きである。
※(2011.11.18)記述に明記されていることは、次の二点である。
1.新スキーム情報は本会が管理責任を負う。
2.閲覧料等について現行の規程でも実費主義をうたっているためその徹底を図る。

三、事例資料問題から見える不動産鑑定評価の本質
思えば、不動産鑑定評価が情報の処理加工業務であるとすれば、不動産鑑定士にとって事例資料とは評価業務の基盤であり肇なのである。 鑑定士にとって米櫃といってもよかろう。 この事例情報というものにどのように対処したらよいのか、対処すべきであるのかという視点から考え始めることが大事なことであろうと思われる。 米櫃とは何も取引価格情報のみを指して云うのではない、取引情報全てを指して云うのである。

事例を広く多く収集するということは云うまでもないことである。 次にその事例情報を多くの人と共有するということも云うまでもない。 なぜなら自らにとって不要である情報も他者にとっては重要であることが多いのであり、自らが必要とする事例情報の多くは他者が用意しておいてくれたものに他ならないからである。 不動産鑑定評価というものが常に協働作業であるという所以である。

だから「鑑定士の勘違い」を云うのであり「土地センサス事業創設」を云うのである。  思えば『鄙からの発信』は、その初めから情報の管理と利用のあり方について、その望ましい姿について語り続けてきたように思う。 秘匿する情報の上に成り立つ鑑定評価などなにほどのことがあろうか、開示された情報を基盤とする不動産鑑定評価こそが、真の鑑定評価であろうと思う。 同じ情報を基礎としながらも、そこに示される分析能力や予見能力の違いにこそ鑑定評価の価値があるのだと、今さらながら思うのである。

 サツキもヒラドも昨年に較べて遅れている今朝の鄙茫庭である。昨夜からの雨に洗われて緑は好ましい艶を見せている。 今年も1/3が過ぎゆきたのである。

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