新基準-DCF(投稿)

【茫猿遠吠・・新基準-DCF(投稿)・・02.10.19】
堀田です。ご無沙汰しております。
市場分析の重たい投稿の後で、いささか拍子抜けの感はありますが、
DCFについてです。
>  貸家及びその敷地のDCF法収益価格を標準とする正常価格とテナントビルの投資
> 採算価値を表すDCF法による特定価格には、具体的にどのような差異があるのであ
> ろうか。茫猿にはよく理解できない。(どなたか、教えて下さい。)
DCFは本来、投資採算分析に有効な手法ですから、
特定の投資家の採算性に着目した投資価値
を求めることに適しています。
(これは鑑定ではなく、コンサルになると思います)
特定の投資家の資金調達能力(借入比率・金利等)、自己資金に対する期待収益率、
将来における賃料や地価変動に係る予測等、
その人固有の数値を代入することにより、
その人だけにとっての投資価値が算出されます。
新基準の投資採算価値は、鑑定評価としての特定価格ですから、
もう少し一般化する必要があります。
つまり、証券化等される対象不動産に対する一般的投資家を想定して、
その「想定像」における標準的資金調達能力、期待収益率、
対象不動産に係る標準的将来予測等の数値を代入する必要があります。
あくまでもSPC法や投信法の制度下における
投資家(需要者)側の立場に立った価格といえます。
一方、正常価格を求める場合のDCFでは、
従来の直接還元法と同様に、
対象不動産に対して万人が妥当と認める諸条件を考慮する必要があります。
あくまでも実物不動産に対する投資であり、
それを購入する一般的購入者の資金調達能力、期待収益率、
標準的将来予測等の数値が必要になります。
対象者は特定価格の場合より、広くなると思います。
そしてこの収益価格は、比準価格と合理的な協働の範囲内にあるはずです。
なぜなら、収益>比準ならば、買えば得するので需要が増大し、
取引価格は上昇して両者が一致するまで調整され、
収益<比準ならば、買えば損をするので需要が減退し、
(あくまでも金銭換算できる効用面のみ。心理的満足度などは別問題)
取引価格は下落して両者が一致するまで調整されるはずです。
(市場が効率的であるならば)。
DCFとは、収益還元法の一般式に過ぎませんから、
純収益の変動予測、転売価格の予測、割引率・・・等の諸数値に
何を採用するかによって、出てくる結果が異なるというわけです。
>  また、直接還元法収益価格を採用せずに DCF法を採用する理由として、DCF法は
> 説明性に優れたものであるから鑑定士の説明責任を充足するものであると云うが、
> 説明因子が多くても各説明因子の把握が不十分であれば結果として「合成の誤謬
> (用語的には少しズレルが)」を招く可能性があると云える。
それはそのとおりだと思います。
しかし、説明因子の把握が不十分だと結果を誤るというのは、
直接還元法でもまったく同じです。
ただ、直接還元法だと"いい加減さ"が表に出てこないという利点がありますが、
それに比べてDCFは、"いい加減さ"を白日の下に晒すという意味において、
説明責任を果たしているといえます。
> DCF法は地価(賃料)上昇期には有効であるが
> 地価下落期には問題が多いという指摘もある。合成の誤謬
> の可能性は高いと云えるのでなかろうか。精緻と言わないのは評価できるが。
日本よりも早くDCFが多用されるようになった米国では、
なるべく高い価格をつけるために、DCFが好んで用いられたふしがあります。
そもそも純収益や転売価格が下落するような物件に投資家は投資しないので、
投資をするからには必ず値上がりを前提とする。
楽観的なシナリオを前提としたDCFによる価格は高くなります。
DCFが構造的に地価下落期に不適なのではありません。
手法はあくまでもニュートラルです。
不良債権にからんで最初に鑑定協会でDCFを取り上げた時、
あまりにも悲観的なシナリオで試算することを奨励したような格好になってしまい、
DCFは「使えない価格」を出す手段、
というような間違った認識が生まれてしまったのは、たいへん不幸なことでした。
> 賃料変動率について横這いないし下落は採用し難いという説がある。
> その理由として日本経済のファンダメンタルズを考えれば
> 長期下落は容認できないというものである。しかし、収益価格というものが将来
> の予測可能期間における純収益の総和を求める手法である以上、予測可能期間に
> おける賃料推移を横這いもしくは下落とする判断の存在をハナから否定するに足
> りる論拠としては説得力に乏しいのでなかろうか。
私は、土地残余法では基本的に、g>0とせよ、と主張する論者です。
それは、土地残余法は永久還元だからです。
「将来の予測可能期間における純収益」の変動については、
それが合理的に予想できる限り、マイナスのgを採用しても一向にかまいません。
問題は、いつまで予想できるかということなのです。
今後10年くらいは下落しつづけるだろうとの合理的予測のもとに、
DCFの分析期間が10年とすると、その間、毎年賃料下落というシナリオを書くこと
に、何らの問題もありません。
それは、市場分析者としての鑑定士の能力を尽くした結果、
10年間は右肩下がりです、と主張していることになります。
しかし、永久還元式において、g<0とすることは、
算式上は、未来永劫賃料が下落しつづけるということを意味しますので、
そんなことを断言できる勇気を持っている人以外は、やめたほうが良いと考えます。
「日本経済はもう終わりだ。GDPは長期トレンドとしてはもう上向かない。
不動産の収益力はもう2度と向上することはない」
と断言できる人だけが、永久還元でg<0を採用してください。
今までの地球上の歴史で、そんな国が存在したのか、
を考えれば、それが恐れ多い予測であることは明白でしょう。
「永久還元式では遠い将来の収益が現在価値に与える影響は小さいので、
g<0としたところで、結果に影響するのは近い将来のことだけだから、
結果が大きくずれることはない」という反論をする人があるかもしれませんが、
それならば、収益下落期間とそれ以降の定常的状態の期間とを分けるべきです。
V=a1×複利逓減年金現価率+a2÷還元利回り×複利現価率
  ただし、V:収益価格、a1:初年度純収益、a2:逓減期満了後の標準的純収益
  複利逓減年金現価率とは、複利逓増年金現価率のgにマイナスを採用したもの
  還元利回りは、a2を永久還元するための利回りで、ここに反映させるgは非負
>  前記と対比できるのは、デフレ基調における「地価水準横這いという判断」は
> 実質上昇であるという論旨がある。その伝に倣えば、横這いとする賃料変動率は
> 実質上昇であると云えないだろうか。
これは、デフレ下でも価格の下がらない財は相対的に実質価値が上昇している
ということを言いたいのでしょうが、
鑑定価格は名目価格ですから、実質上昇などという議論は無意味です。
賃料変動率を予測する場合には、当然のごとく、
「名目GDP」成長率との関係を考えるのであって、
一般物価の変動は埒外です。
一般物価の変動が加味されるのは、投資収益率の方、即ち割引率です。
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HOTTA, KATSUMI
==2つのサイトを開設しています==
■Official
不動産鑑定士堀田勝己のWEB SITE: http://www.kanteishi.net/
●Private
K氏の葡萄酒的日常: http://kanteishi.net/wine/
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