ネットワークそもそも論

 10/04から新スキームによる取引事例調査試験施行が始まりました。
試行区域は東京都区部、大阪市、名古屋市など一部の都市区域だけですが、ファイルソフトのバグなど若干の初期トラブルはあったものの順調に経過しているようです。そんな折りも折りに何故、NW(ネットワーク)そもそも論かということですが、新スキーム対策委員会はじめ諸方面の意見を伺えば伺うほどに、「そもそもネットワークとは何ぞや」が理解されていないのではと危惧するのです。


 このように申し上げると多分、「そんなことは云われなくとも判っている。
問題はネットを構築して何を行うかなんだよ茫猿君。」という答えが返ってきそうです。でも判っていないと思う。なぜ判っていないと思うかと云えば、ネッ
トワークなんてものは道具の一つにしか過ぎないのであり、そこで何を行うかという議論はあまり有益ではないのである。
 むしろ、何が行えるかを議論すべきなのである。
 何やら禅問答みたいになったが、「特定目的に限定した何を行うか」を議論すると、議論が矮小化し下手をすると袋小路に入ってしまうのである。ネットワークの無限に近い可能性を議論し、多様性かつ多面的な利用形態があるであろうことを理解することが重要であり、六千名弱の会員の目指すであろう方向も多様であろうと理解することが必要なのである。
今さらに「そもそも論」を言挙げする由縁は、こういうことです。
・ネットワーク構築是非論と利用目的OR利用事業論は異なると考えること。
・ネットワークは鑑定業界のインフラ構築であると考えること。
・ネットワーク運用はブラウザーのみで、こと足りると考えないこと。
・利用目的・目標が事例閲覧事業に傾斜特化することへの危惧があること。
・事例閲覧事業は、ネット上での様々な事業の一つに過ぎないと考えること。
・事例閲覧事業作成モデルは基本タイプに限定すべきと考えること。
一、ネットワークとは何ぞや
 関係者各位の意見を伺って改めて、そもそも「ネットワークとは何ぞや」と考えます。アスキーデジタル用語辞典などを参照しますと「ネットワークとはハードウェア、ソフトウェア、データなどを共有する目的でコンピュータを結び付けた状態を云う」とあり、広辞苑的に云えば「放送網、情報網、通信網」などを云うようである。
 すなわち、デジタルと断らなければ、電話網でありファクシミリネットであり古くは郵書ネットであった訳です。今、我々が構築しようとしているのは、前段に述べたコンピュータ・デジタルネットワークなのである。
二、なぜ、ネットワーク構築なのか
 ここで云うネットワークは、ファクシミリや電話に代表されるアナログネットではなく、デジタルネットワークである。
定義付ければ、インターネットプロトコル(IP)によるブロードバンドを利用したネットワークであり、さらにネットワークの十全な安全管理が求められるものと云えましょう。既に鑑定業界で利用されているものにIP-VPN或いはSSL-VPNがある。
Internet Protocol   (ワンクリックで解説へ) 
ブロードバンド    
IP-VPN     
SSL-VPN     
 では、アナログネットに代わってデジタルネットがなぜ必要なのだろうか。
それは、鑑定業界で作成し交換される様々な資料がデジタル化したからである。
 手書きやタイプ印刷や銀塩写真などが姿を消すか著しく減少し、地価公示作業に限っても、選定・点検・事例作成・評価書作成など、その作業の殆ど全てがデジタル化したことに帰因すると云える。
 デジタルデータとして作成した資料を印刷してファクシミリ送信する。
受信した側はその資料を再入力あるいはOCRスキャニングして保存したり利用したりする。そんな莫迦な過程を経ることは非効率であり無駄な時代に入ったのだと云える。
 デジタル作成されたデータはデジタルのまま送受信し利用する。今やアナログ・イメージデータもデジタル化して送受信し保存管理するようになったといえる。この鑑定業界の現状に相応しいインフラとしてデジタルネットワークの構築が求められていると考える。
 他の資格者業界に較べて、不動産鑑定業界にはデジタルネットワークがより必要な理由も挙げることができます。それは地価公示を例にしてみれば理解できると思いますが、公示作業は事例作成のみならず、選定・点検・要因検討・価格検討の各作業段階に置いて、常に分科会討議を経るという共同作業です。
 個々に鑑定評価作業を行う場合でも、過去に共同作成した様々な資料を基礎資料として引用利用するものです。それら他者が作成した資料を利用するということの意味は取引事例資料の共同作成並びに共同利用に止まらず、賃貸・建設・収益等各般の事例やその他多くの価格形成要因資料等が挙げられるのは云うまでもないことです。
 いわば、鑑定士がデジタルデータをデジタルデータとして有効に作成する為に、そして効率的に交換流通する為に、そして効果的に活用する為に、ネットワークは必要であり且つ有効なツールとして存在たり得ると云える。
 鑑定評価資料はテキストデータ以外にも、地図、写真、様々な図面等々のイメージデータも多いし重要である。これからのネットワークはこれらイメージデータを自在に扱えなければならないのである。
三、目標とするネットワークとは
 さて、我々鑑定士がネットワーク構築を目標とする時に、最初に問われるの
は「ネットワーク上にて何を行うのか」という問い掛けである。
この様な問い掛けが生じるのは当然と云えば当然のことである。
しかし、前一項、二項で示したように、何を行うのかという問い掛けは有効な様に見えて有効でも有用でもない。
 このことは、郵書ネットワークで、電話ネットワークで、ファクシミリネットワークで何を行うのか、或いは行っているのかという問い掛けに答えてみようとすれば理解できるのではないでしょうか。これら旧態アナログネットワークにおいてさえ、実に様々な利用が為されているのである。
 しかし、現在の鑑定業界・協会のなかでネットワーク構築の目的として語ら
れるのは取引事例管理及び閲覧に関してである。極論的に申し上げれば、事例に関する以外のこと、それも「ネット上における取引事例の閲覧に関する事項」以外は全くと云っても言い過ぎでないほど人々の関心事ではありません。
 「取引事例、取引事例!!」と声高に発言することによって、意図してか、
意図せざるしてかに関わらず、ネットワーク構築目的・目標の著しい矮小化が進められていると云えます。
 そもそもデジタル・ブロードバンド・ネットワークの構築という事業は、エポックメーキング的な事業なのであり、鑑定士のナレッジマネージメントにつながるものであり、社会的発信能力を向上させ、社会的存在感の充実・向上につながるものなのである。
 少しばかりキザったらしく別の表現方法を採用すれば、
「鑑定士の鑑定士による鑑定士の為の、快適で、効率的で、安全で且つ廉価なネットワークを構築して会員の利用に提供する。
 会員は、分科会は、士協会は、鑑定協会は、その安全・廉価なネットワーク上において様々な利用を行い、様々な事業展開を図れば好いのである。
 構築されるネットワークは、安全・廉価だけでなく、それらの拡張性、柔軟
性、将来性を備えるものでなければならないとも云えるのである。」
 ネットワーク構築のモチベーション(動機付け)として、取引事例管理・閲覧
システムの構築を挙げるのはやむを得ない一面があることは十分に理解します。
しかし、折角のネットワーク構築が事例管理閲覧というレベルに止まってはな
らないのであり、少なくともそのような低次元の議論で構築の是非が語られて
はならないのです。
四、新スキームとネットワーク
 このあたりの事情を新スキーム作業工程において検討すれば、より判りやすいと思えるのである。
1.様々な情報の管理
 新スキームでは様々なデジタル化情報が用意される。例えば、
(a)調査項目入力済み事例テキストデータ、
(b)回収した調査票PDFファイル、
(c)作成した公示事例カードの二枚目(位置図・地形図)、
(d)調査工程で入手した地形図や建物図面その他公簿資料等が挙げられる。
 これらをどのように保存管理しようとするのであろうか、現在では中央管理
サーバに一部が保存されるだけである。しかも、新スキーム参加公示評価員以外は閲覧はおろかアクセスすらできない。
 参加公示評価員にしても、所属分科会所掌区域のみ閲覧できるだけである。
直ちに問題になりそうな事柄、近い将来に課題となりそうな事項を意識してネットワーク構築を進めるのか、それとも事例の開示範囲とか閲覧料と云った低次元の話題で問題を矮小化したり停滞させたりするのであろうか。
2.ネットワーク構築がもたらすもの
 前項で挙げた資料の内、公図・公簿等資料は当然のことながらデジタル化は未了である。公示事例ーカードの二枚目デジタル化も多くの士協会では未了であろう。しかし、公図等資料を関係する公示評価員への提供など、事後の利用を容易にするためにはデジタル化保存が好ましいのである。
 公示事例の二枚目デジタル化も事例交換をより効率的に行おうとすれば、事例作成段階の早い時期におけるデジタル化が好ましいのである。
 即ち、様々な資料のデジタル化はネットワークの有効な利用につながるものであり、効率的なネットワークの構築は各種資料のデジタル化につながるといえるのである。
 地価公示という評価作業を通してみる時に、不動産鑑定評価業はその根幹部分において協同作業を基礎とするものである改めて気付かされる。
そして、そこに気付くことが鑑定ネットワーク構築の原動力となるのである。

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