地価データの有効活用

先日の記事で、悉皆調査(新スキーム)はその当初から社会的存在であり、その蓄積である地価データは社会的資産と云わなければならない。 その社会的資産を社会に有益な情報として還元してゆこうとする姿勢こそが、今の鑑定業界に求められるものであり、そのことが鑑定評価のすそ野を広く大きく育てるものであり、同時に鑑定評価の精度という頂きをさらなる高みへと導いてゆくのであると述べた。
さらに、2010年度のNSDI-PTは外部有識者を含めたプロジェクトチームに再編成され、悉皆調査結果の社会還元モデルを構築することに着手すべきであろうと考える。 その研究テーマは悉皆調査結果を基礎とする地価推移の傾向分析並びに予測モデル等の構築を行うことにあり、その成果をWebサイトを通じて世の中に問うことが鑑定業界の為すべきことであろうと考える。 このことについて、今少し敷衍してみたい。


鑑定協会が管理する、または関与する地価データには地価公示、地価調査、相続税標準地評価、固定資産税標準宅地評価、そして膨大な取引事例データ(いわゆる新スキームデータ)が存在する。 多くの官公庁所管にまたがるこれら大量の地価データに日々関与しており、これらの地価データを一元的に管理でき得る組織は鑑定協会のみである。 またこれら地価データについて地理座標値を取得し、地図表示を行い得るのも現状においては鑑定協会のみである。 これら各種地価データの視認性を高めることは、それらの関連や均衡を理解する上で有効なツールとなるであろう。(以下は、GIS-DATAと呼称する。)
NSDI-PTの事業目標は当初から、これらのGIS-DATAを基礎として地価の傾向分析を行い、その結果を地価公示を始めとする鑑定評価の精度向上に資すると同時に、地価情報の社会的発信を行い鑑定業界のプレゼンス向上に努めることにあった。
GIS-DATAを基礎とする地価分析は基本統計の解析にとどまらず、メッシュ表示による地価分布、ヘドニックアプローチ等を利用した地価解析など多様かつ先進的な試みが可能なのである。 それらは過去データの解析に止まるものではなく、さらに地価水準のリアルタイム把握につながり、地価動向の予測へと発展すると考える。 いわば地価の傾向と対策なのであり、鑑定評価の精度向上、背景データの充実、プレゼンス向上につながってゆくと考えるのである。
さらには対外的情報発信システム(ウエブサイト)を構築して、すべからく無償のGIS-DATA・

情報開示(個人情報保護法が許す範囲において)が可能になる。それこそが目指すビジネスモデルの構築なのである。
残念ながら、斯界の現状は日暮れて道遠しという状況にある。悉皆調査(新スキーム)の経費負担にとらわれていたり、管理を委託されているに過ぎない現状を、所有状態にあると誤認し、ひたすら情報の閉鎖化を計ろうとするなど、茫猿から云わせれば本末転倒、時代錯誤、状況誤認と云わざるを得ない状況にある。 言い過ぎを承知で云えば、《貧すれば鈍する》と云わざるを得ない。
どうして、ひたすらに既存状況を守ろうとするだけなのであろうか、しかも社会の理解が得られそうもなく、諸官公庁の理解や支援が得られそうもない手段を選択しようとするのか、茫猿には理解できないのである。 逆風下にあるからこそ、セクト々々においてトラの子をひたすら抱え込もうとする姿勢を理解しないわけではない。 でもそのような姿勢は時代の潮流に逆行するものであり、虚しい足掻きにしか過ぎないのである。
少し視線を転じてみれば、iNetの世界を始めとして、情報の開示と対価の低廉化、コモディテイ化は止めどなく進みつつある。 政府情報も書籍著作権も様変わりしつつあり、中国の情報管理だって危うい状況に近づきつつあるという見方もできる。
iNet世界における「情報の開示or閉鎖」というものの考え方、情報管理の有り様が変わってきているということに、もうぼちぼち気づいても良さそうだと思えるのである。 その昔に民法概論を習ったとき、「権利の上に眠るものは保護されない。」と習った記憶がある。「権利の上に惰眠をむさぼるものは許されない。」とも教えられたように記憶する。
今や、情報の宝の山にアグラをかく者は保護されず、許されないと言ってよかろう。やや遅きに失したと考えるが、それでも改め始めるに遅いということはないのである。2010年度はGIS-DATA構築の年であり、撃って出る年でありたいと願うのであるが、茫猿の世迷い言、絵空事と笑う人が多いのであろうと思われる。 あるいは「云わんとすることは判るが、現実は簡単ではない。」と、自らの無気力の言い訳にする人たちも少なくないであろう。 それでも始めなければ、何も変わらないだけでなくジリ貧に陥るだけなのだと言わねばならないのである。
全国に6,000名余の不動産の専門職業家のネットワークを維持し、日々地価情報を更新し、年間数万とも数十万ともいえる箇所の地価を調査し、現場を踏査している集団の力について再認識し、自信と誇りを見直すことから始まると考えるのである。
【追記】iNetに溢れている地価データ情報のリンクを載せてみる。
・国土交通省の土地総合情報ライブラリー
・日本不動産研究所の「市街地価格推移指数」
野村不動産アーバンネットの「地価・マンション価格情報」
・三友システムアプレイザルの「SSRI Reports」
・三井不動産販売(株)の「リハウス・プライスリサーチ」
リクルート住宅総研の「リクルート住宅価格指数」
・東京カンテイの「中古マンション価格指数」
・不動産市場賃料研究会の「東京地価指数(住宅地編)」
※興味深いのは、SBIライフリビング提供の「全国地域情報比較」である。公共料金、児童手当、保育所待機児童数などについて、比較できるデータである。

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