新スキーム改善問題Q&A

新スキーム改善問題については、日を追うごとに茫猿の発言がラディカルになっているとお感じになる読者は少なくなかろうと存じます。 でも茫猿はラディカルになっている訳ではありません。 各位ご承知のように、『鄙からの発信』は最近リニューアル致しました。そして発足以来の記事にタグを付けたり、カテゴリーを編成し直したりという作業を暇々に行っております。

過去記事を見直しますと新スキーム問題について、茫猿はこのサイトの前々々身時代から新スキーム等類似問題について発言を続けてきたことに改めて気付くのです。 当時は悉皆調査と呼称し、その後土地センサスあるいは不動産センサスと申しておりました。 新スキーム導入が検討される頃からは、「新スキーム」とか「いわゆる新スキーム」と表現していますが、茫猿は一貫してセンサス制度創設という立場に立っております。 センサス、つまり全数調査或いは悉皆調査という観点からこの問題を考え続けております。

その原初的ポジションから改めて、現新スキーム改善問題を考えてみれば、やはり到達目標である不動産センサス制度創設という立場から全ての事柄を考え直すべきであろうと思うに至ったのです。 昨年秋以来、直接的間接的に新スキーム改善問題を考える会合に何度も招かれて、討議を拝聴しなにがしかの発言をさせて頂く機会を得ております。 それらの折りに話題となった疑問点などについて、茫猿なりの考えを披瀝させて頂きましたので、それらを元に本記事Q&Aを作成してみました。 改めて申し上げるまでもないことですが、茫猿は現実を遊離してはならないと考えます。しかし、現実に囚われてもならないと考えております。

Q.1 鑑定協会は地方の実情を見ない、意見を聞かない、地方を考えない?
A.1 鑑定協会執行部の多くの方が都市圏域出身であり、地方の実情にさほど詳しくないのは御意見のとおりでしょう。 でも、皆さん自身は地方の実情を伝える努力をしてきましたか、地方出身の役員も少なくはないのです。 地域連絡会会長は常務理事です、地方区出身理事も存在します。各常設委員会には地方連絡会推薦委員が多数在籍しています。 何も特別な方法に拠らなくても、それらの多くの役員・委員を通じて地方の実情を執行部に伝えることは可能と考えます。
地方出身役員が地方の実情を伝えていないと批判することは簡単ですが、会員の皆様自身が身近な役員・委員各位を媒介として執行部との対話や協議を図ろうとされたのでしょうか。 執行部や役員の怠慢を云う前に、自らが情報を受信し発信しようとされたのかとお伺いします。

Q.2 郵送費をはじめとする資金、調査業務に提供する役務、配分法その他の知的貢献を考えれば、事例の所有権、せめて管理権は我々作成者のものである。 鑑定協会はなぜ事例所有権や管理権を主張しないのか?
A.2 地価公示発足以来、公示由来の納品成果物は委託者(国)に帰属することは仕様書その他で明示されています。新スキーム調査依頼書(土地鑑定委員会発)においても同様の趣旨が記載されています。 地価公示由来事例の一般鑑定利活用は、鑑定評価制度の本質から事実上認められてきたものであります。この帰属について黒白を争うことは、互いに無益であろうと考えます。 三次データは事業発足当初から地価公示ネットワークに納品集約されておりますし、公示システムにおける事例カード納品方法が変わったことから、今後は地方士協会が関与することなく事例データは地価公示ネットワーク・サーバに集約されます。

Q.3 事例管理等について、不動産鑑定業法や地価公示法の改正を求めないのか?
A.3 法改正や政令付記は当然に求めてゆきたい事柄です。 しかし、過去に法改正が唱えられた結果を振り返ってみて下さい。 着手すらできなかったのが実態です。同時に鑑定協会には法政令改正についてコンセンサスは生まれていません。 またコンセンサスを得るまでの時間、法政令改正の発議に至るまでの時間を考えれば、直面する課題の解決にはなりません。 忘れてはならず常に火を灯し続けなければならない課題であるとは考えますが、今は喫緊の課題を解決することが優先されます。 喫緊の課題とは新スキーム問題に存在する「安全性担保」と「透明性確保」なのです。 この両者を避ければ、鑑定協会のコンプライアンスが疑われます。

新スキーム問題を考える上で、原点とも言えるのは「土地情報ワーキンググループ 中間とりまとめ -今後の土地情報政策のあり方-」です。(2003/07/30 国土審議会土地政策分科会企画部会の下に設置された土地情報ワーキンググループ において土地情報の提供に関する今後のあり方について審議が行われ、2003年6月に中間とりまとめが公表)
当初は取引価格情報提供制度創設に際して、法整備やA案(全面開示)も検討されていたのが現行(B案)に落ち着いた経緯がある。 同時に、B案の開示内容は年々充実しつつあることも注目しておかなければならないのである。 「中間報告概要版「土地情報ワーキンググループ 中間とりまとめ」(概要)

中間報告では鑑定評価に関連してこのように述べています。『不動産鑑定評価については、これまで特に収集が難しく、収集に労力を費やした取引価格事例が簡便に利用できるようになれば、利用できる取引事例数が大幅に増加するので不動産鑑定評価の信頼性が高まることにより、そのニーズが高まることも期待される。』

中間報告は2003/12/19付けにてWG報告として取りまとめられ、企画部会に報告されました。
土地情報ワーキンググループ 企画部会への報告 ー今後の土地情報政策のあり方ー

Q.4 どうせ多数決で押し切られるのであれば、何を言っても無駄である?
A.4 鑑定協会の会員構成を見るまでもなく、地方圏域所属会員は1/3前後にしか過ぎませんが、士協会数からすれば八割前後を占めます。 多数決は民主主義の大原則ですが、同時に少数派の意見にも耳を傾け、聞くべくは聞くというのも大原則です。自らの意見を開示し真摯な議論を重ねることがとても大事なことと考えます。

Q.5 あまりにも事を急ぎすぎ、性急に過ぎる。 新公益法人制度への移行まで待てないのか?
A.5 新公益法人制度へ四月に移行すれば、六月総会で事業計画案及び予算案が審議されます。 そこで如何なる対応をするのか、今から準備されておくべきでしょう。また移行すれば理事は自動的に士協会会長に代わりますが、執行部並びに関連委員会構成は現行のままです。
何よりも、この問題が浮上して既に一年が経過しましたし、個人情報保護法が施行されたから既に九年が経過し、新スキーム制度が稼働してからでも五年余が経過しています。この間に解決されていなければならなかった問題が現在まで先送りされているのであり、これ以上の先送りは許されない状況にあるということをご理解下さい。 先送りの責任は一に協会執行部にありますが、その責任の一端は士協会役員並びに会員も負わなければならないものです。
何処で間違えたのか

Q.6 事例の安易な閲覧料改訂は士協会財政を揺るがすこととなり問題である?
A.6 原則から申し上げれば士協会運営は会費をもってまかなわれるべきであろうと考えます。事例閲覧事業収入に過度に依存することは避けなければならないと考えます。 また多くの地方圏域士協会は自らの会員より閲覧料名目の徴収は行っていませんが、様々な負担金や特別会費名目で「事実上の内部会員閲覧料」を徴収しているのが実態であり、その額は外部会員の支払う閲覧料よりは多額であるのも実態なのではないでしょか。

Q.7 2011年06月に士協会会長会議で示された一次改善案初稿に掲載されていた、「新スキーム事例の一般鑑定評価利活用問題を整理する。」あるいは「所管庁と鑑定協会とのパートナーシップ型移行を検討する。」といった事項が2012.02一次改善案には消えているが、何故か?
A.7 詳しい経緯は承知しませんが、Q.2へのお答えでご理解頂きたいと考えます。 2011/06案で示された事項は、観測気球に過ぎなかったということであり、多くの会員に過大な期待を与えたとすれば、問題を複雑にし困ったことであったと思われます。

Q.8 士協会外部の鑑定協会会員に安価かつオンライン閲覧の便益を安易に提供すれば、安易な事例利活用が蔓延し、鑑定評価の堕落を招く?
A.8 士協会外部の鑑定協会会員(会員外鑑定士も含まれる)に安価かつオンライン閲覧の便益を提供するということは、改善が「安全管理の担保」並びに「透明性の確保」を目的とする以上、避けられないことです。 と申しますよりは、安全管理・透明性を実現することは、広く鑑定士に等しく便宜を安全に供与することに他ならないのです。
このことが安易な事例利活用を蔓延させたり、鑑定評価の形骸化を招くとすれば由々しきことですが、その対策は別途講じられるべきでしょう。 小生は先に提案申し上げました「公的土地評価・事例資料等取扱基準案」の(注-3)において幾つかの提案を致しております。 地方圏会員のアドバンテージを有効に活用することで、報酬額低廉な簡便評価を駆逐したいと考えております。

Q.9 第一次改善案には現状を彌縫する施策は述べられているが、鑑定評価の将来につながる施策が述べられていない。
A.9 そのような懸念は小生も感じております。 であればこそ、「公的土地評価における新スキーム由来等事例資料の取扱基準案」を提案しているのです。 事例取扱に関して、公的土地評価の一元化を求め、その管理権限は士協会に付与すべきであると提唱するのです。 このことは事例の一元管理や安全性担保や透明性確保と何ら矛盾することのない提案であると考えます。
各位も自らの所属士協会にて本提案をご検討頂きたいものと願います。
【公的土地評価における新スキーム由来等事例資料の取扱基準案ファイルを開く】

前掲の中間報告では、固定資産税評価との関連について以下のように述べています。
[施策例3] 公的土地評価の効率化と信頼性の向上
相続税路線価、固定資産税評価は、地価公示を目安として利用しているが、個別の路線価を評価する際には、実際の取引価格情報が有用である。すべての取引価格情報を簡単に利用することができれば、全国の市町村で3年毎に実施している固定資産税評価と約40万地点の相続税評価における取引事例収集に係る事務の効率化に資する。また、豊富な事例を利用することができるので、より信頼性の高い評価とすることができる。

Q.10 新スキームと地理情報
A.10  鑑定評価の将来という観点からは「地理情報」が重要な位置を占めると考えています。 その意味からすれば、新スキーム調査報告のPDF用紙Nouhin.10二頁末尾に用意されている座標(緯度経度情報)入力欄は見逃せません。 ここに緯度経度情報をコピー&ペーストして事例情報に地理情報を付加することにより、本当の意味での鑑定評価のデジタル化やGIS化が始まろうと考えています。 新スキームと地理情報は不即不離の関係にあり、地理情報を自家薬籠中のものとすることが即ち、地方圏士協会会員の優位性を強化することと考えます。
地理空間情報と鑑定評価

地理情報(GIS)に関連して、前掲の中間報告は以下のように述べています。
「3 インターネットと地理情報システム(GIS)による土地情報の提供」
土地取引に必要な土地情報は、インターネット等を通じて、ワンストップでいつでもどこからでも安価に情報を入手できるようにすべきである。その際、位置と範囲を持つ土地情報の特性に鑑み、地理情報システム(GIS)によって当該情報を地図上で重ね合わせて表示できるようようにする等、一般の利用者が理解しやすい方法で提供することが重要である。国は、土地情報のワンストップ提供のために必要な情報基盤の整備を推進すべきである

《追記 2012.03.19 11:50》
鑑定協会BBSにて先ほど、「本会が昨年10月24日付で内閣府公益認定等委員会宛に提出した公益認定申請に対し、3月16日に開催された同委員会において、公益認定の基準に適合する旨の答申が、内閣総理大臣宛に提出されました。」との告知が届きました。
従って、鑑定協会は4月1日付で公益社団法人に移行することが決定いたしました。
これにより、4月10日に開催される予定の理事会では、当初の予定どおり、事業計画及び予算を審議することとなり、5月22日の理事会では、事業報告(案)及び決算(案)等の総会(6月19日開催予定)上程議案を審議することとなります。また6月の総会から代議員総会に移行します。 小生の理事残任期も残り二ヶ月余りと確定し、やれやれです。

《閑話休題》 茫猿の旧いアルバムのなかに、宮城県気仙沼市気仙沼大島海岸で観た朝陽の写真が残されていました。2008/10に撮影したものです。 3.11大震災でこの海岸がどんなに変わってしまったのか、月末に訪ねたいと予定しています。

※Q&Aを更新しました。 再び新スキームQ&A 2012年3月29日


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