BSE問題で閣議決定の重みが国会で話題になっている。そして新スキームの骨格を形成する「取引価格情報の開示」は、「規制改革・民間開放推進三カ年計画」のなかで重点項目とされるものであり、この三カ年計画は2004.03.19付けにて閣議決定されている。平成18年度は三カ年計画の最終年度であり、今の時期に閣議決定の重みを考えてみるのも悪くない。
新スキーム試行三カ年最終年度であるH18年度の試行区域は、札幌から福岡まで全国の政令指定14都市への拡大が計画されている。しかし、その後が見えてこないのである。
閣議決定の内容は先号記事を参照して頂きたいが、三カ年計画は「取引価格情報の開示制度について実施上の課題も含めて、実績を通じて検証していく必要がある。」と云い。「この検証結果等を踏まえ、取引価格情報提供制度の法制化を目標に安定的な制度の在り方について検討し、結論を得る。」というのであるが、四年目以降の制度のあり方や実施地域について明言している訳ではない。
さらにである。昨年末の12月9日、国交省総合政策局不動産業課は「不動産取引情報の提供のあり方に関する検討委員会」と題する「とりまとめ」を発表したのである。「とりまとめ」巻頭は以下のように述べている。 (参照)
『不動産取引は高額な取引であることから、消費者の不動産取引価格等に対する不安感は大きく、こうした不安感が不動産取引を躊躇させる原因の一つとなっているとも考えられます。このため、平成17年5月より、学識経験者、事業者団体及び行政関係者を構成メンバーとする「不動産取引情報の提供のあり方に関する検討委員会において、指定流通機構(レインズ)の保有する不動産取引価格情報を活用した消費者への情報提供のあり方について検討を行い、12月9日に委員会報告をとりまとめました。
今後、このとりまとめに即したシステムの構築を行い、2006年秋の試行を経て、2007年4月からインターネットを通じて消費者に情報提供を開始する予定としております。』
同じ国交省内の総合政策局不動産業課が創設する「指定流通機構(レインズ)の保有する不動産取引価格情報を活用した消費者への情報提供」(参照)と、土地・水資源局土地情報課が創設する「不動産取引価格情報の提供制度」(参照)はよく似た制度であり、情報の入手源は異なるが、社会に提供しようとする情報は類似するものであり事業目的はほぼ同一といってよいのである。新スキームのライバルは、レインズ情報提供システムといってよいのである。そういった視点から新スキームが直面する課題について考えてみたいのである。
課題1.新スキーム全国展開完了時期は霧のなか。
同じ省内で目的が類似する事業が並行しているわけであり、より効率的な運用が求められるであろうことは自明と云ってもよかろう。少なくとも鑑定協会においては、併走する類似事業の存在を常に念頭においているべきであろう。
新スキームの17年度予算額と18年度予算案額はほぼ同額と聞いている。軽々に予算は増額できないというのが客観情勢である。減額されないだけでもましということである。19年度以降も事業が継続したとしても、予算額の増額に甘い期待は禁物であろう。何よりもライバル事業の存在が無視できない。
予算額が増えない中で、18年度において事業試行区域が拡がる見込みなのは、17年度には必要であった事業立ち上げ初期投資が不要だからである。つまり、19年度においては予算額の増額か別段の事業遂行方法がなければ、施行区域が拡がる見込みはないということである。全国展開が完了する時期は霧の中ということである。
課題2.全国展開を阻害する要因は何であるか、その解決策は。
前述のとおりである。拡大の障壁は予算額である。新スキーム事業費のうち郵送費と事例要因調査役務は鑑定士が負担しているが、調査照会票の発送関連諸経費並びに回収後の諸費用は国交省予算に拠るものであり、事業の施行区域は予算総額枠に規制される。
この件に関して有効な解決策は認められない。しかし、事業目的との関連からいえば、一部都市圏域にのみ情報提供を行えば十分であるということにはならないであろう。別の観点から云えば地価公示の精緻化をより一層進めるためにも早急な全国展開が望まれるのである。
そのような理解が全国士協会の共通認識となり得れば、現在は鑑定協会以外が行っている照会票発送業務を鑑定協会が直接受託することも考え得るのである。或いは現発送業務施行組織に鑑定協会が委託することも考えられるであろう。
総ては我々鑑定士が新スキーム事業の全貌を理解し、その意義と意味を認識することから始まるのである。そして必要な資金負担と役務負担について正しく理解することが必要なのである。
課題3.資料の有効な利活用のための環境整備は何か。
新スキームは中央管理サーバを基軸とするネットワークにより運用されているが、今後資料を有効に活用するために、同時に地価公示等業務のデジタル化を進めるために、士協会を中心とするネットワークの整備充実は欠かせないものと考える。ネットワーク整備について『鄙からの発信』は何度も記事にしてきたから、ここで再掲はしない。(参照)
課題4.個保法ガイドラインに対応する必要な措置施策は何か。
何度も何度も『鄙からの発信』で伝えてきたことであるが、新スキームは法務省データを端緒とする個人情報に関わる事業である。とすれば、鑑定協会自らが制定する「個人情報保護法ガイドライン」に十全に対応した措置の充実が待たれるのである。物理的、技術的安全管理措置はデジタル的分野について問われることが多いが、従来型・アナログ管理においても同様の措置が必要であることに関心が薄いのが気懸りなのである。
でも、ここまで述べてきたことも所詮戦術の範囲である。対症療法に近いものである。
鑑定士と鑑定協会に求められるのは、取引情報(異動情報)と取引事例(価格情報)の差異に関わる認識であり、両者がともに重要であるという共通認識である。同時にそれら情報の安定的かつ継続的入手に関して払うべき資金、役務に関する共通認識の形成であろう。業益が何処にあるのかを正しく認識した上で、公益性という社会の需要と支援を得る衣をまとうべきであろう。そしてこの公益性という衣をまとうには負担を伴うものであり、業益の追求のためには負担を厭わないという意思統一が肝要なのであろう。これらの戦略的意思形成をなおざりのままにして好い結果を望むのは、それこそ望外というものであろう。
茫猿としては、デジタル化異動情報が入手できれば、「直ちに照会票を発送し回収し分析して、社会に取引価格情報を提供できる体制」を整備することが鑑定評価のためにも欠かせないことと考えるのである。そしてその準備に残された期間が平成18年度であると思うのだが、多くの識者は別のお考えをお持ちのようなのである。
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