この違和感を如何にするか

新スキーム改善問題に関わるようになって数ヶ月、コアに位置するようになって一ヶ月、拭いきれない違和感を感じている。 この違和感をどのように昇華したらよいのか思い惑っている。 差し障りがあまりにも多いから具体的事象について語ることは避けたい。避けたいが、多少の敷衍はやむを得ないであろう。
新スキーム改善問題の根幹は、鑑定協会が今年六月に公表した「不動産鑑定業将来ビジョン」に示されているのである。 示されている事項とは以下の二項目である。
1.今後とも安定的に運用・発展させていくためには、鑑定業界における透明性の確保や情報管理についてのさらなる取り組みを前提として、国の継続的な関与と国民の信頼を得ていく必要がある。(安全管理の確保、透明性の確保)
2.一般鑑定への活用については、関係者の理解のために常に不断の努力を続ける必要がある。その上で、国民の協力により蓄積することのできた情報をさらに有効利用するという観点から、将来的には、鑑定評価の技術向上のための調査研究に利用するなどの取り組みを進めていく必要がある。(調査研究成果の社会への還元)


先ずはビジョンから関連する事項を引用する。

「不動産鑑定業将来ビジョン」(2011.06.01 鑑定協会公式サイトに公表)
(3)取引価格情報提供制度(新スキーム)を通じた事例情報の収集・管理・利用体制の整備
② 基本的視点
・取引事例等は不動産の鑑定評価に必要不可欠であり、鑑定評価制度の持続的な発展と信頼性の向上のためには、事例の収集・利用のための継続可能な体制の整備と安全管理の徹底等が必要である。このビジョンに盛り込まれている各種提案の実現のためにも、取引事例等を継続的かつ安定的に収集・管理・利用する仕組みが必要であることは言うまでもない。
・いわゆる新スキームによって収集されたデータの蓄積は既に100万件を超えるまでになっており、広くその有用性が認識されてきている。今後とも安定的に運用・発展させていくためには、鑑定業界における透明性の確保や情報管理についてのさらなる取り組みを前提として、国の継続的な関与と国民の信頼を得ていく必要がある。
・新スキームによる事例の収集は、明示的には地価公示法に基づく業務に活用することを目的としており、一般鑑定への活用については、関係者の理解のために常に不断の努力を続ける必要がある。その上で、国民の協力により蓄積することのできた情報をさらに有効利用するという観点から、将来的には、鑑定評価の技術向上のための調査研究に利用するなどの取り組みを進めていく必要がある。

ところが、各方面から提出される意見の全ては、次のようなものばかりである。
1.事例資料は従来から士協会管理のもとにあった。この士協会管理の維持は譲れない事項である。
【茫猿の見解】
新スキーム事例は事業主体、事業委託契約の主旨からしても、鑑定協会が一元管理するものである。 士協会が管理するように見えていたのは暫定的な措置であり、今後も継続が許されるものではない。現実問題としても関連するデータのファイルサーバは鑑定協会が過去も現在も管理を続けているのである。 ただし、個々のエリアにおけるローカル事情に配慮することは認められようが、それは安全管理と透明性を確保した上でのことである。 この点に関して茫猿は、個々の士協会事情に配慮したユーザーインターフェスの設置を提案しているのである。
2.自らの士協会会員の閲覧はオンライン閲覧を可とするが、士協会会員以外の鑑定協会会員の閲覧は、士協会事務局端末による閲覧以外は認められない。 事例地の現地実査は必須事項であり、その為には地元士協会事務局へ足を運ばせるという誘導処置は欠かせない。
【茫猿の見解】
士協会会員以外の閲覧を事務局端末に限定するというのは、相互主義に反するものであり、均衡を欠く差別的行為である。 この一点からだけでも認められないが、その上に閲覧制限と鑑定評価における事例調査のあり方をリンクさせるという考え方は、多くの鑑定士をあまりにも愚弄するものではなかろうか。
鑑定評価に採用する事例資料は評価主体自らの責任において実査し調査した上で、基礎資料とするというのは鑑定評価の根幹を為す基本事項であり、採用事例の適否、事例内容の当否も含めて自己責任であることは、今さら言うまでもないことである。 一部に不心得者が存在するであろうことは否定できないが、だからといって多くの士協会外閲覧者に不便不利益を強いるというのは理解できないことである。
何よりも事例即ち評価の現場と、士協会事務局が近接するとは限らない。 場所が乖離し事務局へ赴くこと自体が不必要な時間や労役を課するものとなる場合も多いのである。 評価の必須行為である事例地も含めた現地実査の望ましいあり方については、別段の提携方法その他が考慮されるべきであろう。 とにもかくにも士協会事務局に足を運ばせようとする姿勢は、本末転倒、的はずれな行為であろう。
3.士協会財政の維持という見地から、閲覧料確保は欠かせない。
【茫猿の見解】
閲覧料を鑑定協会に吸収しようなどと云う考え方は何処にも存在しないのである。 事例資料等閲覧管理システムの維持経費は負担して頂かなければならないが、当該必要経費を控除した残額は閲覧記録(LOG)に応じて士協会に配布されるものであり、そこに不透明な経理処理が介在する余地は全くないのである。 士協会側には拭い難い不信感が存在する様子も垣間見えるが、士協会と鑑定協会のあいだに不信感が存在するようでは連合会移行などは画餅に帰すものであろう。
閲覧料に関して茫猿はかねてから傾斜配分を提唱するものである。 傾斜配分とは一括管理した閲覧料を、作成した事例資料の件数に応じて士協会へ配分するという案である。 悉皆調査を安定して継続させ、中山間地の資料も的確な調査を継続させるためには必要な措置だと考えるのだが如何なものであろうか。
4.拙速を避けて巧遅を旨とすべきである。
【茫猿の見解】
拙速か巧遅か、いずれを選ぶのかは永遠のテーマであろうと考えます。しかし、本件は新スキーム制度発足以来、既に数年ものあいだ放置されてきた問題であり、この問題を至急に改善すべきとの問題提起が為されてからも既に半年以上を経過するものである。
この間、問題点を正しくアナウンスしてこなかった鑑定協会執行部の責任も問われなければならないが、問題の在処を正しく認識しようとしてこなかった多くの会員自身の責任も問われなければならない。 なぜなら会員は優れて専門職業家を自認する人たちだからである。 この問題に正面から向き合い、真摯に考えようともせずに、具体的改善案が俎上にのぼり、結論を出すべき時期が迫ってから騒ぐのは無責任と云われても仕方ないことであろう。 なによりも半年以上の期間を費やして検討を重ねたことを拙速と云われる所以はなかろうと考える。
5.提案される改善案はラジカルに過ぎて地元会員を説得できない。
【茫猿の見解】
提案されている改善案は、必要最小限の安全管理措置を確保するものであり、最低限の透明性を確保するものであることからすれば、地元選出役員諸氏は改善案の当否を議論するのは当然のことであるが、諾としながらも地元を説得できないと云うのは、役員の責任を放棄するものに他ならないと自覚すべきであろう。
総じて、現時点で検討されなければならないのは、鑑定協会が社会に対して公式に宣明するものである「不動産鑑定業将来ビジョン」に記述する事項を、如何に早期に実現するかであり、別の観点から云えば、個人情報保護法ガイドラインを遵守するというコンプライアンス姿勢(法令遵守姿勢)やCSR(Corporate Social Responsibility)を明らかにすることに他ならないのである。 同時に自らが制定している管理規程や取扱規準を棚上げせずに実行に移してゆくという姿勢を明らかにすることにあるのである。
専門職業家を自認するのであれば、社会におけるその存在感や信頼感を高めようとするのであれば、先ず自らを律することから始めなければならないというのは自明のことであろうと考える。 自らのコンプライアンスを疑われるような曖昧な態度に終始していて、社会の信頼を得ようとか、新公益法人へ移行しようなどと云うのはあまりにも得て勝手な行為であると考えないのであろうかと、疑問に思うのであり違和感を禁じ得ないのである。 今、鑑定協会が為さなければならないことは、「国民の協力により蓄積することのできた情報をさらに有効利用することであり、その成果を社会に還元すること。」ではなかろうかと考えるのである。
士協会の権益(その当否はおくとして)を重視する役員氏が、以上の事柄に拘泥されるのは故なきこととは思いません。 しかし、拘泥するあまりに鑑定協会のコンプライアンスやCSRがないがしろになっては、本末転倒であり優先順位のはき違えであろうと考えるのです。 今は小異を残して大同に就いて欲しいと願うのです。
あえて申し上げれば、些末事項や本旨にそぐわない事項に拘泥して、新スキーム調査の根幹を危うくしないことであり、井蛙的な観点に終始して茹蛙を成り果てることを避けることではなかろうかと云うのです。
地理情報システムの構築、いわゆるNSDI-PTもMap Clientの開示を目前に控え、構築の初期目標は全て達成しました。 あとは如何に普及するかであり、如何に利用されるかであります。 水辺の在処を示すことはできたと考えていますが、水を飲むか否かは個々の鑑定士の判断であろうと思いますし、利用されないとすれば、それは地理情報が鑑定評価にとって不要なもの無用の長物と判断された結果であろうと思っています。
鑑定協会理事としての任務も、事実上、残すところ十一月の理事会出席のみであり、茫猿が鑑定協会で為すべき事柄も殆ど無くなりました。 今まさに「Old soldiers never die they just fade away 」なのであろうと思い定めています。 あとは『鄙からの発信』で由無しごとを書き連ねてゆくのみです。

関連の記事


カテゴリー: 茫猿の吠える日々 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください