新公益法人総会

 昨日は新設移行した「公益社団法人:岐阜県不動産鑑定士協会」の、移行後第一回総会が開催された。 総会に出席すれば何やかやと言い出しかねない己の性を考えれば、欠席が妥当かなと考えて委任状は提出済みであったのだが、総会に先立って開かれた中山恭三氏の講義まで欠席するのは不義理と考え岐阜まで出向いたのである。
 鑑定協会企画委員他を務める中山氏は同業の旧友であり、昨日は鑑定協会連合会化に伴う諸問題について講義をされたのである。


「連合会化に潜む疑問」
 鑑定協会の連合会化には様々な問題を孕んでいるのであり、総会の代議制、団体会員の有り様、会費の一括納入、役員の選出方法など疑問とするところは多い。 茫猿も三年前には企画委員を務めていたから、連合会化の抱えている問題には今も関心がある。
 連合会化の最大の問題は、会員数二千名を越える東京会など規模の大きい都市圏士協会と会員数が数十名以下の地方圏小規模会が連合することにある。 今の鑑定協会でも同様の指摘はできるが、連合会化した後には代議制総会の形骸化が一層進むであろうし、士協会会長を理事とする監督理事・理事会はその機能が限定的になり監督の機能を有効に果たせるのか今もって疑問である。
 連合会の日常業務執行は業務執行理事で構成される常務理事会が担うこととなるであろうが、この常務理事会に地方圏会員が常務理事として参画することはとても困難なことであろうと予想される。何となれば茫猿が考える地方圏全体の会員数は千名弱であり全体の四分の一程度の数である。全国制で選出される会長は言うに及ばず、そうでなくとも少数の地方圏会員がさらにブロック制で選出される副会長(3名)や常務理事(14名)の椅子を獲得するのは至難であると予想されるのである。 また指名制の副会長(2名)、常務理事(12名)も会員数の多い都市圏優位は当然のことであろう。
 そうでなくとも鑑定評価需要が激減しており、いわゆる公的評価に頼らざるを地方圏鑑定士と様々な新規需要が見込まれる都市圏鑑定士とはその事業基盤も事業環境も大きく異なるのである。それらが連合会を形成することの意味は再度検証されなければならないし、実態を反映し均衡を得た連合会の有り様が求められなければならない。 それは国政における一票の格差を裏返したものなのである。 地方圏が連合する一般社団法人連合会も視野に入れておくべきであろうと考える所以でもある。
「公益社団法人のあるべき姿」
 公益社団法人岐阜県不動産鑑定士協会の第一回総会において、茫猿が質問し意見表明した事項は次の三項である。これら三項は鑑定協会総会においても糺しておきたい事項である。
一.公益事業実施計画の問題
 提出された事業計画案には、多額の遊休資産を利用した公益事業実施の基本計画が認められない。漫然と実態の伴わない取りあえずの名称を与えた特定資産計上は、公益社団法人としての覚悟も責務への認識も認められない。しかもその額たるや数年分の会費収入に相当する額である。営利企業ならば株主の批判を浴びるであろう。 鑑定協会事業計画案はまだ手元に届いていないが、数億円にのぼると言われる遊休資産の利用についてたぶん似たような予算書になっていることであろう。
二.会費の問題
 鑑定協会からの配付金が無くなり会費の値上げが予想されるが、負担する会費と受益の関係が明確ではない。特に資料整備費用が多額であるが資料利用受益者の負担額が均衡を得ていないのではないか。 鑑定協会においては資料利用者のいわゆるただ乗り論がいわれるが、地方社団においてさえも相似的な状況が認められるのである。
三.固定資産税標準宅地評価における受託の不均衡
 公益社団法人を構成する社員の間において野放しの自由競争論理が蔓延し、既得権擁護的思想が存在している。受託門戸を広くし、固評評価員の裾野を拡げてゆく意識も事業計画も認められない。
 鑑定協会においては固評受託競争には不介入原則が貫かれているが、地価公示を規準とするべき固評評価が原則であるのに、今や地域に密着した固評標準宅地評価額に地価公示価格が左右されかねない事態が生じている。 鑑定協会はその実態の把握もしていないし、それらを糺してゆこうとする姿勢も認められない。お題目を唱えているだけでは、実態を悪化させ取り返しのつかない事態を招きかねないと危惧するのである。
 今ひとつ、固評標宅評価独特のスキルやノウハウが要求される業務であるから技術力を高めてから参入を認めるという意見がある。とはいっても、現在従事している評価員がいずれも高度な技術力を有しているとはとても認められない。 それよりも鑑定評価というものは独りでは成り立たない業務であることに思いを致してほしいのである。鑑定評価の基礎、鑑定評価の米櫃ともいうべき事例資料作成は鑑定士の協同作業である。この協同作業の上に固評標宅評価も成り立っているという厳然たる事実に目を向けることから、新会員へ門戸を開いてほしいと考えるのである。
「不可解な決議案」
 士協会総会第三号議案には、何とも不思議な決議案が上程されていた。
第三号議案
(1)本会の組織改編及び公益社団法人化について了承する。
(2)本会の団体会員として、新連合会定款及び諸規程を遵守する。
 上記決議案はなんとも不可解な議案なのである。 先ず字句についてであるが「本会」とはいったいなにものなのか。普通に本会といえば自らの代名詞あるいは、本人と類似の意味と考えるのが普通である。 つまり日本鑑定協会が自らを本会と呼ぶのは理解できるが、岐阜県士協会が本会といえば自らのこと以外有り得ない。もし本店支店的な意味で本会と呼称しているのであれば、対等の立場に立つ鑑定協会と士協会の位置を自ら貶めているといってもよいであろう。
 《鑑定協会を本会と通称する慣わしは、昔に地域会を地域支部とし、都道府県士協会を都道府県部会と組織構成していた時代の本会・支部・部会の意識を今に至るも引きずっている悪弊と言って差しつかえないであろう。通称などにこだわるなという意見もあろうが、誤った通称が今もまかり通ることに、上意下達思想が現れているのである。》
 誤解を招かないためにも鑑定協会と云うべきであろう。 この決議案は鑑定協会事務局が提示したというよりも指示したものと考えられるが、鑑定協会事務局の地方蔑視と言ってもよいくらいである。
(1)公益社団化了承はよいとしても、士協会と協会の位置関係からすれば士協会が連合会を設立発起するのが筋であろう。日本語としても論理的にも不可解である。
(2)定款及び諸規程遵守事項は論外なのである。 連合会に参加すれば定款等遵守は当然に求められる事柄である。 しかし現時点では、定款は定められていないし案もきちんと開示されていない。諸規程も同様である。定められていない定款諸規程を遵守すると言えば、それは白紙委任に他ならない。
 そのように言うと、団体会員には議決権も議事参加権もないから、形式上の決議であり実体上は何の制約も招かないと言う。 馬鹿な話である。いかに実体上の制約が生じないといっても、岐阜県士協会構成員が決議したという事実は重い意味があるので、それを実態は無意味というのは岐阜県士協会における決議を愚弄するものと言わざるを得ない。
 上記の解釈は岐阜会執行部の解釈ではない。 鑑定協会事務局から提示された解釈である。しかも鑑定協会が公益社団法人転換申請を行うに際して、添付を必須とされている書類であると言う。 後々にどのように利用されるか判らない決議を、現時点で強要する傲慢さを指摘しておかねばならないのである。 傲慢さとは鑑定協会執行部の姿勢ではなく47都道府県士協会の決議を求める許認可庁の姿勢を言うのであり、それに疑いもなく唯々諾々と従う鑑定協会の卑屈さを疑問視するのである。
 このあたりの諸問題の根源は、実は連合会の重層組織にある。 連合会というのであれば全国四七都道府県士協会の連合会化が当然であるはずが、連合会団体会員(士協会)には会費要求も無ければ、決議権も議事参加権もないのである。 決議並びに議事参加権は団体会員と重層して加入する鑑定士会員並びに依然として残される業者会員にのみ与えられているのである。
 率直に申さば、今回の連合会化とはヒツジの皮を被ったオオカミなのである。現状を糊塗して連合会の皮をかぶせただけのみならず、さらに中央集権的改悪を行うものといって差しつかえないのである。こんな連合会に参加すべきか否かは、もう少し様子を眺めてからでも遅くはないであろう。
 公益社団法人化を実現し、単体で事業継続が可能でその意欲もある岐阜県士協会は連合会に遅れまじと馳せ参じる必要など何もないのである。 故事にいわく「鶏頭となるも、牛後となるなかれ」と云うではないか。
「総会参加雑感」
 それにしても昨日の総会における茫猿の質疑は、いささか過激に過ぎたのではと反省している。 議場にいた多くの会員が辟易したことであろうし、自身 途中で厳しすぎるかと内省しないでもなかったのだが、ここは厳しく問題認識の曖昧さや誤りを指摘しておかねば後に悔いを残すと考えたのである。
 答弁を指名した担当理事諸君には申し訳なかったと考えているが、しかし公益社団法人としての厳格な問題意識は忘れてはならないことと考えている。 そのような厳しく緩みのない運営姿勢こそが、鑑定業界としては全国二番目に誕生した公益社団法人に求められていると考えるのであり、最初から甘さがあっては禍根を残すと考えるのである。 またそのような指摘を行うことこそが、今の茫猿に課せられている務めでもあると、僭越は重々承知の上で認識しているのでもある。 《小言小兵衛の面目躍如と云えば、己に甘過ぎるか!!!》

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新公益法人総会 への1件のフィードバック

  1. 福田勝法 のコメント:

    本音の発言が出来ない組織は、壊滅すると思います。それに、物事の本質を見極められない、あるいは見極めようとしない(ぶら下がり、無責任)諸氏が多すぎるのではないかと、危惧します。物事が、動き出してからでは、遅いと思います。地方社団化し、20年近くが経っているのに、まだ、公益法人の意味が理解できてない地方社団が多いですね。これほど、不動産鑑定評価業務や不動産鑑定士組織の存続意義が厳しく問われている厳しい時代に、残念です。

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